海外出店|資金・収支計画

海外和食店の損益分岐点:月商から1日の必要客数・回転数まで落とし込む

Kura Sushi USAの費用構成(食材約28.6%・人件費約32.9%)を例に変動費と固定費を分け、Stripe・Squareの決済手数料、NYCの最低賃金17ドルを入れて、40席の店で1日約81人・2回転という計算例と、客単価・賃料が動いたときの感度、資金ベースの分岐点を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 損益分岐点は「固定費÷(1−変動費率)」
  2. 費用を変動費と固定費に分ける:上場チェーンの費用構造から
  3. 決済手数料は変動費として必ず入れる
  4. 人件費は最低配置の分だけ固定費になる
  5. 都市によって飲食スタッフの賃金水準はここまで違う
  6. 計算例:ニューヨークの40席の店で1日何人必要か
  7. 客単価と賃料が動いたときの必要客数
  8. 損益の分岐点と、資金の分岐点は違う

損益分岐点は「月商いくらで赤字にならないか」を示す数字ですが、月商のままでは現場の目標になりません。店長やシェフが毎日追えるのは「今日何人来たか」「客単価はいくらか」「席は何回転したか」です。この記事では、海外の和食店の損益分岐点を、客数と回転数まで落とし込む手順を整理します。費用の分け方はKura Sushi USAの開示、決済手数料はStripeとSquareの公開料金、人件費の下限はニューヨーク州労働局の最低賃金を使います。計算例の数字は、断りのない限りすべて仮定です。

1. 損益分岐点は「固定費÷(1−変動費率)」

売上に比例して増える費用を変動費、売上に関係なく毎月かかる費用を固定費とします。売上から変動費を引いた残り(限界利益)で固定費を払い切れる売上が損益分岐点です。

式は単純ですが、結果は「どの費用を変動費に入れたか」と「売上に何を含めたか」で大きく変わります。海外では、売上に含めてはいけないもの(売上税・付加価値税、チップ)と、忘れやすい変動費(決済手数料)があるため、そこを先に決めておく必要があります。

2. 費用を変動費と固定費に分ける:上場チェーンの費用構造から

Kura Sushi USAの2025年度(2025年8月31日終了)決算発表では、売上高2億8,276万ドルに対し、食材・飲料費8,077万ドル、人件費9,301万ドル、賃料関連費2,100万ドル、その他費用4,094万ドル、減価償却費1,405万ドルが計上されています。売上比にすると、食材・飲料費が約28.6%、人件費が約32.9%、賃料関連が約7.4%、その他が約14.5%、減価償却が約5.0%です。

この区分を損益分岐点の計算に使うときは、次のように振り分けます。

費用扱い理由
食材・飲料費変動費客数と注文内容に比例する
決済手数料、包材、使い捨て品変動費決済件数・持ち帰り件数に比例する
人件費最低配置分は固定費、忙しい日の追加シフトは変動費客が少なくても、厨房とホールの最低人数は必要
賃料・共益費・保険固定費(売上歩合賃料の部分は変動費)契約で決まる
光熱費固定費として扱う(基本料金と営業時間で大半が決まる)客数より営業時間に連動
減価償却費固定費(ただし現金は出ない)資金の分岐点では除く(第8節)

Kura Sushi USAのような回転寿司チェーンと、席数の少ない寿司カウンターや居酒屋では比率がまったく違います。上場チェーンの比率は「どの項目が大きいか」の順番を確かめる材料にとどめ、自店の数字は見積書と人員計画から作ってください。

3. 決済手数料は変動費として必ず入れる

日本の飲食店の計算では決済手数料を「その他」に埋もれさせがちですが、海外ではほとんどの客がカードで払うため、食材費の次に大きな変動費になり得ます。米国の標準料金(2026年9月確認)は次のとおりです。

事業者・プラン対面のカード決済オンライン決済客単価40ドルのときの実質率
Stripe(標準料金)2.7%+5セント2.9%+30セント約2.83%(対面)
Square Free2.6%+15セント3.3%+30セント約2.98%(対面)
Square Plus(月49ドルの有料プラン)2.5%+15セント2.9%+30セント約2.88%(対面)

Stripeは海外発行カードに1.5%、通貨換算が必要な場合に1%を上乗せするとしています。観光客の多い立地では、この上乗せ分も変動費率に入れておきます。1件あたりの固定額(5〜30セント)があるため、客単価が低い業態ほど実質の料率は上がります。

4. 人件費は最低配置の分だけ固定費になる

人件費は損益分岐点を最も大きく左右します。ニューヨーク州労働局によると、2026年1月1日からニューヨーク市の最低賃金は時給17.00ドル、チップを受け取る飲食サービス従業員は現金賃金11.35ドルとチップ・クレジット5.65ドルです。2027年以降は北東部の消費者物価指数の3年平均に連動して上がると案内されています。

客がゼロでも店を開ける限り、厨房とホールの最低人数分の賃金は発生します。仮に、1日の最低配置を厨房3人・ホール2人、1人8時間、月26日営業とすると、月1,040時間です。この部分は固定費として扱い、週末や予約が多い日の追加シフトだけを変動費にします。最低配置を何人にするかは、料理の工程(寿司カウンター、焼き場、揚げ場の数)と許可条件で決まるので、厨房設計の段階で決めておく必要があります。

5. 都市によって飲食スタッフの賃金水準はここまで違う

固定費の中心になる人件費は、同じ人数でも都市によって何倍も違います。ジェトロの「投資関連コスト比較調査」(2024年度。調査時期は北米が2024年7〜8月、欧州が2024年7〜9月、アジア大洋州・日本は都市により2024年8〜12月)は、各都市の「店舗スタッフ(飲食)」の月額賃金を米ドル換算で並べています。

都市店舗スタッフ(飲食)の月額ジェトロ調査の注記
ニューヨーク4,238ドル米労働省統計局の職種コード35-3031、チップなどを含む
ロサンゼルス3,377ドル同上
トロント2,941ドル(4,008カナダドル)—
ロンドン2,126ドル飲食店スタッフの平均値。基本給・残業代・賞与・手当を含む
パリ2,685ドルレストランの業種別平均給与(INSEE)
シドニー約4,266ドル(約6,158豪ドル)週給1,421豪ドル(2024年5月)を月額換算
シンガポール約1,404ドル(1,800シンガポールドル)—
東京(参考)2,286ドル(334,156円)宿泊業・飲食サービス業

都市ごとに出所や定義(チップを含むか、賞与を含むか)が違うので、厳密な比較には使えません。それでも、同じ最低配置でもニューヨークやシドニーの人件費はシンガポールの約3倍になり得る、という規模感はつかめます。損益分岐点の計算では、この表で当たりを付けたうえで、職種別の求人条件と現地の社会保険料率で置き換えてください。

6. 計算例:ニューヨークの40席の店で1日何人必要か

以下はすべて仮定の数字です。

損益分岐点の月商は7.5万ドル÷(1−0.35)=約11万5,400ドルです。客単価55ドルで割ると月約2,100人、26日で割ると1日約81人、40席で割ると1日約2.0回転になります。

ここで「ディナーだけで毎日2回転」が現実的かを、立地の来店動機と予約の入り方から検証します。無理があるなら、固定費を下げるか、ランチや持ち帰りで客数を足すか、客単価を上げるかのどれかです(→メニュー別の利益額)。

7. 客単価と賃料が動いたときの必要客数

前節の条件から1項目だけ動かしたときの結果です。

ケース損益分岐点の月商1日の必要客数1日の回転数(40席)
基本(固定費7.5万ドル、変動費率35%、客単価55ドル)約11万5,400ドル約81人約2.0回転
客単価45ドルに下がる約11万5,400ドル約99人約2.5回転
賃料が月5,000ドル高い約12万3,100ドル約86人約2.2回転
食材・飲料費率が33%に上がる約12万1,000ドル約85人約2.1回転
最低配置を1人減らす(固定費−6,000ドル)約10万6,200ドル約74人約1.9回転

客単価が10ドル下がると、必要客数は1日18人増えます。食材費率の3ポイント上昇よりも、客単価の下落の方が影響が大きいことが分かります。開業直後の割引や、ランチ中心の客層に寄ることで客単価が想定を下回ると、席数が足りなくなる可能性があります。

もう1つ、計画売上が損益分岐点をどれだけ上回っているかを示す「安全余裕率」((計画売上−損益分岐点売上)÷計画売上)も出しておきます。仮に計画月商が13万ドルなら、基本ケースの安全余裕率は(13万−11.54万)÷13万=約11%です。売上が1割強落ちるだけで赤字になる計画だということで、開業直後の立ち上がりの遅れを吸収する余地はほとんどありません。

8. 損益の分岐点と、資金の分岐点は違う

損益計算上の分岐点を超えても、手元の現金が増えるとは限りません。理由は2つあります。

  1. 減価償却費は現金が出ない:内装・設備の減価償却は費用ですが、毎月の支払いはありません。資金の計算では固定費から除きます。
  2. 借入金の元本返済は費用ではない:損益には出ませんが、毎月の現金は出ていきます。資金の計算では固定費に足します。

仮に前節の固定費7.5万ドルに減価償却費4,000ドルが含まれ、借入の元本返済が月6,000ドルあるとすると、資金の分岐点に使う固定費は7.5万−0.4万+0.6万=7.7万ドルで、必要な月商は約11万8,500ドル(1日約83人)になります。さらに、ニューヨーク市の売上税(ジェトロ「投資関連コスト比較調査」の表記で8.88%)やカードで受け取ったチップは売上に含めず、預かり金として扱います。POSの売上レポートが税込み・チップ込みで出てくる場合は、損益分岐点と比べる前に必ず差し引いてください。

最後に、計算した「1日約81人」を曜日別・時間帯別に割り振って、日々の目標にします。金曜・土曜に多く、月曜・火曜に少ない前提で割り振れば、平日の不足を週末で取り返せているかを週単位で確認できます。売上予測の立て方は売上予測の記事で扱います。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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