海外出店|資金・収支計画

海外和食店のメニュー採算:原価率は管理に、利益額は判断に使い分ける

寿司・ラーメン・小鉢の仮定例で原価率と1品の利益額、1席1時間あたりの利益を比べ、Kura Sushi USAの日本食材卸への依存(JFC58%)、英国VATの店内20%・冷たい持ち帰り0%、Stripe手数料、BLSの外食物価+3.4%を使って、手取りベースの採算表と4区分の見直し手順を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 原価率と利益額は、別の問いに答える数字
  2. 席と時間あたりの利益で比べる
  3. 輸入食材の多い和食は、原価が外から動く
  4. 提供形態で手取りが変わる:英国のVATの例
  5. 決済・デリバリーの手数料を1品ごとに引く
  6. 値上げを判断する材料:外食と食品の物価
  7. 人気と利益額の4区分でメニューを見直す
  8. 毎月のメニュー採算の更新手順

日本の飲食店では「原価率30%」が合言葉のように使われますが、海外の和食店でこの基準だけでメニューを組むと、利益が残らないことがあります。寿司や刺身は原価率が高い一方で1皿あたりの利益額も大きく、逆に原価率の低い小鉢は、いくら売れても家賃を払えるほどの利益にはなりません。さらに海外では、輸入食材の価格変動、国ごとの税の扱い、決済やデリバリーの手数料が、1品あたりの手取りを動かします。この記事では、原価率と利益額(売価から原価を引いた額)をどう使い分けるかを整理します。計算例の数字はすべて仮定です。

1. 原価率と利益額は、別の問いに答える数字

原価率は「売価に対して食材がどれだけの割合か」、利益額は「1品売るごとに固定費を払うための現金がいくら残るか」を示します。店の固定費(賃料、人件費)を払うのは利益額の合計なので、どの料理を勧めるか、どの料理を残すかは利益額で判断し、原価率は仕入れや盛り付けの管理(ぶれていないか)に使う、と役割を分けると混乱しません。

品目(仮定)売価原価原価率1品の利益額
握り盛り合わせ48ドル17.3ドル36%30.7ドル
ラーメン22ドル5.5ドル25%16.5ドル
日本酒(1合)24ドル8.0ドル33%16.0ドル
枝豆8ドル1.2ドル15%6.8ドル

原価率だけを見ると枝豆が最も優秀ですが、利益額では握り盛り合わせの4分の1以下です。握り盛り合わせの原価率を下げるためにネタを減らすと、1皿の利益額は増えても注文数が落ち、合計の利益額が減ることがあります。

2. 席と時間あたりの利益で比べる

客席に限りがある店では、1品の利益額だけでなく、その料理が席を何分占有するかも効きます。ラーメン店とおまかせ寿司店を、仮の数字で比べてみます。

業態(仮定)1人の売上1人の原価1人の利益額滞在時間1席1時間あたりの利益額
ラーメン+ドリンク28ドル7.5ドル20.5ドル35分約35ドル
おまかせコース+酒220ドル85ドル135ドル2時間67.5ドル
居酒屋の小皿中心60ドル18ドル42ドル1時間30分28ドル

この比較で分かるのは、同じ店の中でも「席が埋まっている時間帯」と「空いている時間帯」で勧めるべき料理が違うということです。満席が続く時間帯には1席1時間あたりの利益額が高い料理を、空席の多い時間帯には1品の利益額が小さくても注文数を増やせる料理を前に出します。予約で席の時間を区切る店では、コースの長さそのものが利益を決めます。

3. 輸入食材の多い和食は、原価が外から動く

海外の和食店は、米、酢、醤油、酒、海苔、一部の魚など、日本から輸入される食材の比率が高くなります。Kura Sushi USAの2025年度の年次報告書(Form 10-K)では、キッコーマンの子会社である食品卸JFC Internationalからの購入が食材・飲料費全体の58%(2024年度55%、2023年度49%)、卸売会社Mutual Tradingからの購入が32%(2024年度34%)を占めています。また、米酢(rice vinegar)はレシピを持つ日本の親会社くら寿司が唯一の供給元とされています。

現地の卸から現地通貨で買っていても、日本から輸入される食材であれば、為替や関税、輸送費の変化は卸値の改定という形で店に届きます。店の側で為替そのものを管理することは難しいので、備えるべきは「改定が来たときにすぐ影響を計算できる原価表」です。原価表の各食材に「輸入品か現地調達品か」の列と「いつの卸値で計算したか」の日付を付け、改定の通知を受けた月に、影響を受ける料理と1品あたりの利益額の変化を一覧にします。こうしておくと、値上げ、盛り付けの変更、現地調達品への切り替えのどれで対応するかを早く決められます(→為替リスクの考え方)。

4. 提供形態で手取りが変わる:英国のVATの例

同じ料理を同じ税込み価格で売っても、国によっては店内飲食と持ち帰りで税率が違い、店の手取りが変わります。英国歳入関税庁(HMRC)のVAT Notice 709/1「Catering, takeaway food and VAT」は、次のように定めています。

仮に税込み12ポンドで売ると、店内飲食と温かい持ち帰り(ラーメンなど)の手取りは10ポンド、冷たい持ち帰り(持ち帰り用の寿司など)の手取りは12ポンドです。1品あたり2ポンドの差は、原価率に換算すると大きな違いになります。持ち帰りメニューを設計するときは、どの商品がどの区分に入るかを会計士に確認し、商品ごとの手取りで利益額を計算してください。

フランスではジェトロの調査(2024年度欧州投資関連コスト比較調査)によると、付加価値税の標準税率20%に対し、レストランなど一部のサービスには10%の軽減税率が適用されます。国ごとに税率の組み合わせが違ううえ、メニューに税込み価格を載せるか税抜き価格を載せるかの慣行も国によって異なります。複数の国に出店する場合でも比べられるように、メニューの採算表は「メニュー表の価格」ではなく「税抜きの手取り」で作ります。

5. 決済・デリバリーの手数料を1品ごとに引く

カード決済の手数料は、率と1件あたりの固定額の組み合わせです。Stripeの米国標準料金は対面決済で2.7%+5セント、オンライン決済で2.9%+30セントです(2026年9月確認)。1件あたりの固定額は客単価が低いほど重くなるので、持ち帰りの単品注文が多い店では実質の料率を計算しておきます。Stripeは海外発行カードに1.5%、通貨換算が必要な場合に1%を上乗せするとしているので、観光客の多い立地では、観光客向けに売れる品目ほど手取りが薄くなる点も考慮します。

デリバリー・プラットフォームの手数料は契約条件で大きく違うため、自店の条件で計算してください。仮に手数料率が30%とすると、店内価格22ドルのラーメンをそのままデリバリーで売った場合、手数料6.6ドルと容器代(仮に1ドル)を引いて、1品の利益額は16.5ドルから8.9ドルに下がります。デリバリー価格を店内より高く設定するか、デリバリー向けの別メニューを作るかは、この計算をしてから決めます。

6. 値上げを判断する材料:外食と食品の物価

米労働統計局(BLS)が2026年9月11日に公表した消費者物価指数では、2026年8月までの12カ月で、外食(food away from home)の物価は3.4%、家庭用の食品(food at home)の物価は2.2%上昇しました。外食の価格には食材だけでなく人件費や賃料の上昇も反映されるため、この期間は外食の方が1.2ポイント高い伸びでした。

自店の値上げを考えるときは、(1) 主要食材の卸値の変化、(2) 人件費の変化(最低賃金の改定など)、(3) 地域の外食物価の動き、の3つを並べます。食材の値上がり分だけを売価に転嫁すると、原価率は保てても、人件費の上昇分が利益額から削られていきます。値上げは利益額を守るための手段として、全品一律ではなく、利益額の小さい人気商品から順に検討するのが基本です。

7. 人気と利益額の4区分でメニューを見直す

メニューごとの注文数(人気)と1品の利益額を、それぞれ店の平均と比べて4つに分けると、何をすべきかがはっきりします。

区分状態打ち手
人気・利益額とも高い店の稼ぎ頭品質と提供時間を守る。メニュー表の目立つ位置を維持
人気は高いが利益額が低い客は呼ぶが稼がない小幅な値上げ、盛り付けの見直し、利益額の高い品とのセット化
人気は低いが利益額が高い知られていない可能性説明の追加、写真、スタッフからの推奨。一定期間で反応がなければ見直し
人気・利益額とも低い在庫と仕込みの負担削除または季節限定に。専用食材が必要なら優先的に外す

和食店で見落としやすいのは、4つ目の区分の料理が、専用の輸入食材や仕込み工程を抱えていることです。1品を外すことで、在庫、廃棄、仕込み時間がまとめて減る場合があります。

4区分の見直しと並んで効果が大きいのが、注文の構成(ミックス)を動かすことです。仮に月2,000人が来店する店で、ラーメンを頼んでいた客のうち200人が握り盛り合わせを選ぶようになると、1品の利益額の差(30.7ドル−16.5ドル=14.2ドル)×200人で、月の利益額は2,840ドル増えます。同じ店でラーメン月1,200杯を1ドル値上げしても増えるのは1,200ドルです。メニュー表の配置、スタッフの勧め方、セットの組み方で構成を動かす方が、値上げより客の反発を招かずに利益額を増やせる場合があります。

8. 毎月のメニュー採算の更新手順

  1. レシピ原価の更新:卸の請求書から主要食材の単価を更新し、1品ごとの原価を再計算する。
  2. 手取りの計算:税抜き、決済手数料・デリバリー手数料・容器代控除後の手取りで利益額を出す。
  3. 注文数との掛け算:POSの品目別販売数と掛けて、品目別の利益額合計を出す。
  4. 4区分の見直し:区分が変わった品目だけを会議で扱う。

原価率の目標は、店全体の計画(→損益分岐点)を守るための管理指標として残しつつ、メニューの判断は利益額で行う。この使い分けを開業前のメニュー設計の段階から決めておくと、開業後の値上げや改廃の議論が短くなります。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

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