海外出店|資金・収支計画

海外和食店の為替リスク:開業資金の送金・輸入食材・日本への送金を分けて考える

FRBの年平均レートで2022→2025年に米ドル約14%、英ポンド・ユーロは2割超の円安となった影響を示し、3,000万円超の支払等報告、国外送金等調書、輸入食材の原価感応度、租税条約上の源泉税、移転価格の文書化免除基準まで、お金の流れ別に為替の管理方法を整理します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 為替は3つのお金の流れに別々に効く
  2. 円安はどれくらい効いたか:2022年と2025年の比較
  3. 開業資金の送金:計画レートとストレスレート、送金時の手続き
  4. 輸入食材:店に届くのは卸値の改定
  5. 売上側の為替:外国発行カードの手数料
  6. 日本への送金:配当・ロイヤルティ・利子の源泉税
  7. 本社へのロイヤルティや管理料は「独立企業間価格」で
  8. 為替の影響を管理する手順

海外の和食店にとって、為替は「円安なら不利、円高なら有利」と一言で言えるものではありません。日本から開業資金を送るときは円安が不利に働きますが、日本から円建てで食材を輸入するときは円安の方が現地通貨での支払いが減り、現地で稼いだ利益を日本に戻すときも円安の方が円での受取額が増えます。同じ為替の動きが、お金の流れによって逆向きに効くのです。この記事では、米連邦準備制度理事会(FRB)の為替統計、財務省・日本銀行・国税庁の資料、ジェトロの都市別コスト調査、Kura Sushi USAの開示を使い、為替リスクをお金の流れごとに分けて考える方法を整理します。

1. 為替は3つのお金の流れに別々に効く

お金の流れ主な中身円安のとき時期と規模
日本→現地(開業資金)現地法人への出資、貸付、工事費・保証金の送金不利(同じ現地通貨額に必要な円が増える)開業前に集中。金額が最も大きい
日本→現地(仕入れ)日本食材・酒・器・厨房機器の輸入代金現地通貨で見た仕入れ値が下がり得る(円建て価格の場合)毎月続く。卸経由だと遅れて効く
現地→日本(回収)配当、ロイヤルティ、管理料、貸付の利子・元本有利(同じ現地通貨額で受け取る円が増える)黒字化の後。源泉税がかかる

この3つを1本の「為替前提」で計画すると、どこで損をしてどこで得をするのかが見えなくなります。事業計画では、流れごとに別の行を作り、それぞれに換算レートを置きます。

2. 円安はどれくらい効いたか:2022年と2025年の比較

FRBが2026年1月5日に公表した年平均レートから、主な出店先の通貨1単位あたりの円を計算すると次のようになります(米ドル以外は、FRBの対ドルレートから算出したクロスレート)。

通貨2022年平均2024年平均2025年平均2022年→2025年(1単位あたりの円の増加率)
米ドル131.46円151.46円149.57円約14%の円安
シンガポールドル約95.35円約113.34円約114.48円約20%の円安
英ポンド約162.63円約193.57円約197.31円約21%の円安
ユーロ約138.48円約163.87円約169.10円約22%の円安
豪ドル約91.38円約99.91円約96.47円約6%の円安
カナダドル約101.01円約110.56円約107.04円約6%の円安

2022年に英国やユーロ圏で出店計画を立て、2025年に資金を送った場合、同じ現地通貨の予算でも円では2割以上多く必要になった計算です。一方で、豪ドルやカナダドルの変化は6%前後でした。為替の影響は国によってこれだけ違うので、「円安だから海外出店は不利」と一括りにせず、候補国の通貨ごとに確認します。

3. 開業資金の送金:計画レートとストレスレート、送金時の手続き

開業資金は、予算を現地通貨で作り、円換算には「計画レート」と、円安方向に振った「ストレスレート」の2本を使います。ストレスレートは、たとえば過去数年の年平均の中で最も円安だった水準から、さらに一定幅円安に置く、といった決め方があります。ストレスレートで換算した円の額が日本側で用意できる上限を超えるなら、予算を削るか、現地通貨での借り入れを組み合わせる必要があります(→資金調達資料)。

送金にあたって、日本側で知っておきたい手続きは次のとおりです。

一度に全額を送らず、工事の支払い時期に合わせて分けて送ると、レートの平均化になります。ただし、分割すると着工後に円安が進んだ場合の不足リスクは残るので、ストレスレートでの不足額を手当てしておくことが前提です。

4. 輸入食材:店に届くのは卸値の改定

Kura Sushi USAの2025年度年次報告書(Form 10-K)によると、同社はキッコーマンの子会社である食品卸JFC Internationalからの購入が食材・飲料費の58%、卸売会社Mutual Tradingからの購入が32%を占めます。つまり、米国の大手回転寿司チェーンでも、日本食材の多くは現地の卸から現地通貨で買っています。この場合、為替の影響は直接ではなく、卸値の改定という形で遅れて届きます。

日本の業者から円建てで直接輸入している場合は、為替の影響はそのまま原価に出ます。仮に、食材・飲料費が売上の30%で、そのうち4割が円建ての直接輸入品だとすると、輸入品は売上の12%です。現地通貨に対して円が10%高くなると、輸入品の原価は約10%上がり、食材・飲料費率は約1.2ポイント上昇します。逆に円安局面では、その分だけ原価が下がる可能性があります。自店の食材のうち「円建て直接輸入」「現地卸経由の日本食材」「現地調達品」の比率を把握しておくと、為替が動いたときの原価率の変化を数字で言えます(メニューへの反映はメニュー採算の記事)。

5. 売上側の為替:外国発行カードの手数料

為替は仕入れだけでなく、売上側にも小さく効きます。Stripeの米国の標準料金では、海外発行カードの決済に1.5%、通貨換算が必要な場合に1%が上乗せされます(2026年9月確認)。観光客の多い立地では、外国発行カードの比率が高いほど手取りが減ります。決済事業者の月次レポートで、外国発行カードの比率と上乗せ手数料の額を確認しておくと、客層の変化が利益に与える影響を把握できます。

6. 日本への送金:配当・ロイヤルティ・利子の源泉税

現地で利益が出て日本に送金するときは、送金の形によって現地で差し引かれる源泉税が違います。ジェトロの「投資関連コスト比較調査」(2024年度)は、日本への送金にかかる最高税率を租税条約に基づいて整理しています。

国配当利子ロイヤルティ
米国10%(免税・5%・10%の3段階)免税(利益連動型などは例外あり)免税
英国一般10%、親子間0%(6カ月以上・議決権10%以上)0%0%
フランス10%10%0%
シンガポール0%10%10%
オーストラリア持株割合に応じ免税・5%・10%(不動産投資信託は15%)10%5%
カナダ15%(議決権25%以上を6カ月以上保有なら5%)10%10%

同じ金額を日本に戻す場合でも、配当で戻すか、商標・ノウハウのロイヤルティで戻すか、貸付の利子で戻すかで、現地での税負担が変わります。どの形を使うかは、現地の法人税での損金算入の可否や日本側での外国税額控除も含めて、税理士と設計してください。

7. 本社へのロイヤルティや管理料は「独立企業間価格」で

日本の本社が現地法人からロイヤルティや経営指導料を受け取る場合、その金額は第三者間で取引したときと同じ水準(独立企業間価格)でなければなりません。国税庁の「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)」(2024年6月)によると、独立企業間価格を算定するための書類(ローカルファイル)の同時文書化義務は、国外関連者ごとに前期の取引合計額が50億円未満、かつ無形資産取引の合計額が3億円未満であれば免除されます。1〜2店の規模であれば免除の範囲に入ると考えられますが、免除されるのは書類の作成義務であって、独立企業間価格で取引しなくてよいという意味ではありません。税務調査で求められたときに、料率の根拠を説明できる資料は用意しておきます。

為替の観点では、ロイヤルティを「売上の何%」と現地通貨建てで決めるか、「年間いくら」と円建てで決めるかで、為替リスクを本社と現地法人のどちらが負うかが変わります。現地法人の資金繰りが苦しい開業初期に、円建ての固定額を払わせる設計は避けた方が安全です。

8. 為替の影響を管理する手順

  1. 流れごとに換算レートを分ける:開業資金(ストレスレート)、仕入れ(直近の実勢)、日本への送金(計画レート)を別々に置く。
  2. 円建てと現地通貨建ての支払いを一覧にする:厨房機器、食材、ロイヤルティのうち、どれが円建てかを契約書で確認する。
  3. 感応度を1行で言えるようにする:「円が10%動くと、開業資金は円でいくら、食材・飲料費率は何ポイント、日本への送金額は円でいくら変わる」。
  4. 現地通貨の収入と支出を合わせる:現地通貨で稼ぎ、現地通貨で払う部分(賃料、人件費、現地調達品)が大きいほど、為替の影響は開業資金と日本への送金に限られる。現地通貨建ての借り入れも、この考え方の延長にある。

為替の先行きを当てることはできませんが、お金の流れごとに影響の向きと大きさを分けておけば、円安でも円高でも「どこを見直せばよいか」が分かる計画になります。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

料理人の採用でお困りですか

WashokuJobは海外の和食店専門の求人サイトです。掲載中の求人は世界各国の日本食レストランから集まっています。掲載のご相談はお問い合わせフォームからどうぞ。

和食料理人を採用しませんか?

世界中の和食料理人が登録するWashokuJobに、貴店の求人を掲載できます。