海外出店|資金・収支計画

海外和食店の開業費用:7区分で総額を積み上げる予算表の作り方

公庫調査の開業費用(平均975万円・中央値600万円)が海外の目安にならない理由、Kura Sushi USAの1店約250万ドル(家主負担控除後)・建設約5カ月の開示、SBAとIRSの開業費用の扱い、ジェトロの都市別単価を使い、7区分の予算表と締める前の確認項目を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 日本の開業費用の平均は、海外では目安にならない
  2. 上場チェーンの開示に見る「1店あたり」の中身
  3. 予算表は7つの区分で積み上げる
  4. 一度きりの費用と毎月の費用を混ぜない
  5. 単価は都市ごとの一次データで入れる
  6. 開業前費用は独立した行にする
  7. 円換算のレートを予算表に書いておく
  8. 予算表を締める前のチェック

海外に和食店を出すときの開業費用は、「日本で1店出すといくらだったか」から類推すると大きく外れます。物件の保証金の月数、内装工事の単価、専門家の報酬、開業前に払う人件費、そして為替。どれも日本と前提が違うからです。この記事では、日本政策金融公庫の開業費用調査、米国に上場するKura Sushi USAの開示、米国中小企業庁(SBA)と内国歳入庁(IRS)の資料、ジェトロの都市別コスト調査を材料に、総額を「積み上げ」で出すための予算表の作り方を整理します。

1. 日本の開業費用の平均は、海外では目安にならない

日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年8月実施、公庫が2024年4〜9月に融資した開業1年以内の企業8,517社が対象、回収2,165社)によると、開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円でした。分布は「250万円未満」20.1%、「250万〜500万円未満」21.7%で、500万円未満が4割を超えます。開業時の資金調達額は平均1,219万円で、内訳は金融機関等からの借り入れが827万円(67.9%)、自己資金が279万円(22.9%)です。

この数字は全業種の平均で、開業業種のうち「飲食店・宿泊業」は14.5%にとどまります。国内の小規模開業が中心なので、海外の路面店やショッピングセンター内の店舗の予算に当てはめる根拠にはなりません。使い道があるとすれば、「国内の開業でも、資金の約7割は借り入れで賄われている」という調達構造の目安です。海外出店では、借り入れの審査で予算の根拠を問われるので、積み上げの内訳がそのまま説明資料になります(→資金調達資料の作り方)。

2. 上場チェーンの開示に見る「1店あたり」の中身

海外の和食店で、1店あたりの投資額を公開している数少ない例が、回転寿司「くら寿司」の米国法人Kura Sushi USA(NASDAQ上場)です。同社の2025年度(2025年8月31日終了)の年次報告書(Form 10-K)には次の記載があります。

同社の2025年度決算発表では、開業前費用(pre-opening costs)が年間156.5万ドル(前年度316.5万ドル)で、この年度に15店を新規開業しています。単純に割ると1店あたり約10万ドルですが、開業前費用は開業時期によって年度をまたいで計上されるため、年度ごとにぶれます。

規模は中小の和食店とはまったく違います。それでも、この開示から学べることが2つあります。1つは、建設費を「家主負担分を差し引いた純額」で管理していること。もう1つは、開業前費用を建設費とは別の行で管理していることです。予算表もこの2点を最初から組み込んでおくと、あとで比較しやすくなります。

3. 予算表は7つの区分で積み上げる

SBAの「Calculate your startup costs」は、店舗型ビジネスの開業費用として、物件、設備・備品、通信、光熱費、許認可、保険、弁護士・会計士、在庫、従業員の給与、広告、市場調査、販促物、ウェブサイトを挙げています。これを飲食店向けに組み替えると、次の7区分になります。

区分主な項目見積もりの出どころ
1. 物件取得保証金、前払い賃料、仲介手数料、契約書作成の弁護士費用、印紙税等条件書(heads of terms)、仲介会社、現地弁護士
2. 設計・内装工事設計費、内装工事、排気・給排水・電気容量の増強、看板設計事務所、施工会社の見積書(家主負担分は別記)
3. 厨房・客席設備冷蔵・冷凍、製氷機、焼き台・フライヤー、寿司ケース、食洗機、家具、POS・決済端末機器業者の見積書。日本から輸入する機器は運賃・関税・現地電圧対応を含める
4. 会社設立・許認可・専門家法人設立、食品営業許可、酒類免許、会計・税務顧問、ビザ申請の専門家費用行政の公式手数料表、事務所の見積書
5. 開業前費用研修期間の人件費、日本からの出張費、試食会、広告、採用費人員計画×研修日数×時給(現地の最低賃金・社会保険料を含める)
6. 初期在庫・消耗品食材・酒類の初回仕入れ、器、包材、制服、清掃用品初回発注リスト×仕入れ単価
7. 予備費・運転資金工事の追加費用、開業遅延中の賃料、開業後の赤字月の支払い工事予備費と運転資金を別々に計算(→運転資金の計算)

各行には「金額」だけでなく「通貨」「見積書の日付」「見積もり元」「確度(確定・見積書あり・概算)」の列を付けてください。海外では見積もりの取り直しが多く、どの数字が古いのかが分からなくなるのが一番危険です。

4. 一度きりの費用と毎月の費用を混ぜない

SBAのガイドは、開業費用を「一度きりの費用(one-time expenses)」と「毎月の費用(monthly expenses)」に分け、主要設備の購入や許認可の手数料を前者、給与・賃料・光熱費を後者の例としています。そのうえで、毎月の費用は少なくとも1年分、できれば5年分を数えるよう勧めています。

開業費用の予算表で起きやすいのは、保証金(一度きりだが、原則として戻ってくる)と前払い賃料(毎月の費用の前倒し)と工事費(一度きりで戻らない)を同じ「物件関連」にまとめてしまうことです。資金計画では同じ現金の流出でも、会計上の扱いも、撤退時に戻るかどうかも違います。予算表では次の3つの印を付けて区別しておくと、損益計画と資金計画の両方にそのまま使えます。

5. 単価は都市ごとの一次データで入れる

見積書が揃う前の段階では、都市別の単価を公的な調査から入れておきます。ジェトロの「投資関連コスト比較調査」は、主要都市の賃金、店舗賃料、公共料金、税率、専門家報酬などを同じ様式で並べています。たとえば2024年度北米調査(ニューヨークは2024年7〜8月調査、1ドル=149.55円で換算)には、次の項目があります。

項目(ニューヨーク)ジェトロ調査の数値予算表での使い方
弁護士報酬(1時間)弁護士250〜1,800ドル、パラリーガル100〜580ドル(法律事務所へのヒアリング)賃貸借契約・会社設立の想定時間×単価で概算
会計士・監査人報酬(1時間)パートナー390ドル、マネージャー・シニア230〜340ドル設立時の税務登録、初年度の決算・申告
業務用電気料金月額基本料32ドル、1kWhあたり0.30ドル(6〜9月)・0.27ドル(10〜5月)(Con Edison)工事期間・試運転期間の光熱費
売上税の標準税率8.88%(州4.0%、市4.5%、都市通勤者課徴税0.38%。ジェトロの表記)客から預かる税。予算の売上には含めない

店舗賃料の都市比較は物件費の記事で扱います。ここで大事なのは、概算の段階から「どの資料の、いつ時点の数字か」を予算表に残しておくことです。見積書が届いたら上書きし、差額を記録します。

6. 開業前費用は独立した行にする

開業前費用は、国によって税務上の扱いが決まっていることがあります。米国の場合、IRSのPublication 583は、事業開始前に発生する広告、出張、調査、研修などの費用を「start-up costs」とし、開業した年に最大5,000ドルまで控除でき、開業費用が5万ドルを超えると、その超過額だけ5,000ドルの枠が減ると説明しています。残りは償却が必要で、Form 4562の記入要領では事業開始月から180カ月で償却するとされています。法人設立費用(organizational costs)にも同じ構造の枠が別にあります。

つまり、研修中の人件費や日本からの出張費を工事費と一緒にしておくと、税務上の処理を分けるときに集計し直すことになります。予算表で最初から「開業前費用」の行を分け、その中を人件費・出張費・広告・研修に分けておけば、会計士にそのまま渡せます。他の国でも扱いは異なるため、現地の会計士に確認してください。

7. 円換算のレートを予算表に書いておく

海外の予算は現地通貨で作り、日本側の稟議や借り入れの資料では円に換算します。このとき、換算レートを予算表の見出しに明記しておかないと、見直しのたびに総額が変わった理由が説明できません。

米連邦準備制度理事会(FRB)が2026年1月5日に公表した年平均レートでは、1ドルは2022年に131.46円、2024年に151.46円、2025年に149.57円でした。仮に現地通貨で100万ドルの予算を組んだとすると、2022年の平均レートでは約1億3,146万円、2024年の平均レートでは約1億5,146万円で、予算の中身が同じでも円建てでは約2,000万円の差になります。予算表には「計画レート」と、円安方向に振った「ストレスレート」の2本を置いておくと、日本からの送金額の上限を決めやすくなります(→為替リスクの考え方)。

8. 予算表を締める前のチェック

  1. 家主負担分は差し引いたか:内装工事負担金やフリーレントがある場合、総額と純額の両方を書く。負担金の支払時期(工事完了後の精算か)も確認する。
  2. 見積書の日付と通貨が揃っているか:日本の機器業者の円建て見積もりと、現地施工会社の現地通貨建て見積もりを同じレートで換算しているか。
  3. 税込みか税抜きか:売上税・GST・VATの扱いが行ごとにばらばらになっていないか。
  4. 開業前費用の期間:建設期間(Kura Sushi USAの開示では約5カ月)に許可取得の待ち時間を足した期間で、賃料と人件費を数えているか。
  5. 予備費と運転資金を別枠にしたか:工事の追加費用と、開業後の赤字月を埋める現金は性質が違う。同じ「予備費」に入れると、工事で使い切ったときに運転資金がなくなる。

ここまでできれば、予算表は「総額いくら」ではなく「どの行がどれだけ確定しているか」を示す資料になります。確度の低い行が多いうちは、署名や送金を急がないことです。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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