海外出店|出店戦略

海外出店の現地視察ガイド:公的データの下調べと記録シート

農水省・外務省・各国統計局の無料データで出発前に仮説を立て、JETROのブリーフィング等を活用。短期商用入国でできること、シンガポールの「++」(サービス料10%+GST9%)や米国のチップなど税込総額での価格記録法と視察記録シートを解説。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 出発前に公的データで埋めておく数字
  2. JETROの現地支援を視察に組み込む
  3. 短期出張の入国資格:視察と商談はできても、働くことはできない
  4. 価格は「客が最終的に払う額」で記録する
  5. 視察記録シートの項目
  6. 3〜5日の視察日程の組み方
  7. 帰国後に数字を仮説に変える

海外出店の現地視察は、行けば何かが分かるものではありません。人気店を何軒か食べ歩いて「いけそうだ」と感じて帰ってくるだけでは、社内で投資判断に使える材料にはなりません。視察の価値は、出発前に公的データで仮説を立て、現地では同じ項目を同じ基準で記録し、帰国後に比較できる形に揃えられるかで決まります。本記事では、無料で使える統計とJETROのサービス、短期出張の入国資格の確認点、そして価格を税・サービス料込みで記録するための各国のルールを、公式ページへのリンクとあわせて整理します。

1. 出発前に公的データで埋めておく数字

現地に行く前に、少なくとも次の4種類の数字を手元に置いておきます。どれも無料で入手できます。

日本食レストランの店舗数(農林水産省)

農林水産省が2025年11月28日に公表した調査では、海外の日本食レストランは約18.1万店で、2023年の約18.7万店から約6,000店減りました。地域別に見ると、アジアは約12.2万店から約11.24万店へ約1割減り(主な要因は中国の経済停滞)、中南米は約2割、中東とアフリカも約2割増えています。国・地域別の概数表から、出店候補になりやすい国を抜き出すと次のとおりです。

国・地域2025年の店舗数2023年からの増減
米国26,360+320
台湾7,100-340
タイ5,920+590
オーストラリア2,230+230
マレーシア2,200+310
英国1,820+560
香港1,480+80
シンガポール1,140-70

この数字は外務省の調べを農林水産省が集計したもので、現地のウェブサイトやガイドブックで「日本食レストラン」として紹介されている店などを数えています。一の位は四捨五入されています。日本人が経営する店だけを数えたものではないので、「競合の数」ではなく「和食がどれだけ日常に入り込んでいるか」を測る目安として使います。

在留邦人数(外務省)

外務省の海外在留邦人数調査統計(2025年10月1日現在、同年12月25日公表)では、在留邦人の総数は129万8,170人です。都市別の上位はロサンゼルス都市圏(6万3,972人)、バンコク(5万1,297人)、ニューヨーク都市圏(3万8,251人)、シンガポール(3万3,397人)、上海(3万1,733人)でした。日本人客にどこまで頼れるかと、日本語で働ける人材がどれだけいるかを見積もる土台になります。

訪問者統計(各国の観光当局・統計局)

訪日客の統計ではなく、出店先の国が公表している「その国への訪問者」の統計を見ます。

外食支出の動き(統計局)

JETROの調査レポート

JETROの「アジア大洋州・日本投資関連コスト比較調査」(2024年度版、2025年3月公表)は、各都市の賃金、地価・事務所賃料、電気などの公共料金を米ドルに換算して比べたものです。人件費と賃料の相場感を事前に持つのに向いています。2026年9月には「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査」(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、インド、バングラデシュの8か国)も公表されています。一方、JETROの「世界の日本食消費市場」ページにある国別の日本食消費動向調査や消費者アンケートは2013〜2018年に公表されたものなので、使う場合は調査時期を明記しておきます。

要点:出発前に「店舗数」「在留邦人数」「訪問者数」「外食支出の前年比」の4つを候補都市ごとに1枚にまとめておくと、現地で見るべき点が絞れます。たとえば、日本人が多いのに日本食店が減っている都市なら、減った理由(賃料か、人手か、客離れか)を視察で確かめる、という具合です。

2. JETROの現地支援を視察に組み込む

JETROには、視察の前後に使えるサービスがいくつかあります。2026年9月時点で公式ページに掲載されている内容は次のとおりです。

サービス内容費用使いどころ
海外事務所による現地事情ブリーフィングJETROの海外事務所で約1時間の面談。「一般経済事情/ビジネス慣習」「海外現地法人設立の手続き」「現地駐在員の生活事情」からテーマを選ぶ無料視察初日に入れて、制度面の前提を確認する。対面は誰でも利用可。オンラインは対象者が限られる(ジェトロ・メンバーズ会員、現地進出を検討している企業など)
中小企業海外展開現地支援プラットフォーム現地在住のコーディネーターが、進出や現地法人運営の相談に対応無料対象は中堅・中小企業。サービス業の中小企業は資本金5千万円以下または従業員100人以下。シンガポール、バンコク、クアラルンプール、ロンドン、ニューヨーク、ドバイなどに設置
海外ミニ調査サービス海外事務所が「企業リストアップ」「現地法令等検索」「統計資料検索」「店頭小売価格調査」を代行1ユニット11,000円(税込)。中小企業・個人事業主はユニット数が半分調査期間はおおむね2か月。視察の2〜3か月前に、食材の小売価格や輸入業者のリストを頼んでおく。申込みは日本国内に所在する企業・個人に限られる

プラットフォームは設置都市ごとに2026年度のサービス開始状況が異なるため、利用前に各拠点のページを確認してください。

3. 短期出張の入国資格:視察と商談はできても、働くことはできない

市場調査や物件の下見、取引先との商談は、多くの国で短期の商用訪問の範囲に入ります。ただし「働くこと」は別扱いです。視察のついでに現地の店の厨房に入って手伝う、といった行為は避けてください。

視察の段階でポップアップ出店まで予定している場合は、料理人の就労資格の扱いがさらに厳しくなります。詳しくはポップアップで本出店の仮説を試す方法で扱っています。

4. 価格は「客が最終的に払う額」で記録する

現地視察で最も記録を誤りやすいのが価格です。メニューに書かれた金額と、客が実際に払う金額が国によって大きく違うからです。競合店の価格は、必ずレシートの総支払額で記録し、メニュー表示額とは別の欄に書きます。

シンガポール:「++」は約20%上乗せ

内国歳入庁(IRAS)の説明では、飲食店は多くの場合10%のサービス料を加え、サービス料にもGST(2026年9月時点で9%)がかかります。IRASの計算例では、飲食代100ドルに10%のサービス料10ドル、その合計110ドルに9%のGST 9.90ドルがかかり、支払額は119.90ドルになります。つまりメニュー表示の約1.2倍です。

GST登録事業者は原則として税込価格を表示しなければならず、違反すると最大5,000ドルの罰金の対象になります。ただし、サービス料を取るホテルや飲食店は、例外として税抜価格を表示できます。メニューに「++」と書かれているのはこのためです。サービス料を取らない店、あるいは税込表示を避けるためだけに名目的なサービス料を取る店には、この例外は適用されません。

米国:税、加算料金、チップを分けて書く

ニューヨーク州税務当局の説明では、店内で飲食する食事は温かいか冷たいかに関係なく売上税の対象です。客が任意に置くチップは課税されません。店が義務的に加算する料金は、請求書に別記され、「tip」または「gratuity」と明示され、全額が従業員に渡る場合に限って非課税で、それ以外の名目のサービス料は課税されます。記録シートでは「税」「義務的な加算料金」「任意のチップ」を分けて書きます。

カリフォルニア州では2024年7月1日から、広告価格に義務的な手数料をすべて含めることを求める法律(SB 478)が施行されました。ただし飲食店やバーは、価格を表示するすべての場所で手数料を明確に示していれば適用除外になります(SB 1524)。州司法長官のページは、任意のチップはこの法律の影響を受けないとしています。同じ米国でも州によって表示のルールが違うので、都市ごとに確認が必要です。

項目シンガポール米国(ニューヨーク州)
メニュー表示サービス料を取る店は税抜表示が可能(「++」)税込か税抜かを店ごとに確認。任意のチップは含まれない
自動で加算されるものサービス料10%(一般的)、GST 9%(サービス料込みの額にかかる)売上税。店によっては義務的な加算料金
任意の支払いあれば記録チップ(課税対象外)。レシートに印字された提案率を記録
記録する数字メニュー額、総支払額、倍率メニュー額、税、加算料金、チップ、総支払額

5. 視察記録シートの項目

1店舗につき1行、全店を同じ項目で埋めます。空欄は「見ていない」を意味するので、推測で埋めません。

区分記録する項目記録方法の注意
基本情報店名、住所、訪問日時(曜日・時間帯)、業態、席数席数はカウンターとテーブルを分けて数える
立地建物の種類(モール、路面、オフィスビル)、フロア、最寄り駅からの徒歩分数、周辺の飲食店モール内なら同じフロアの飲食店の業態を書き出す
価格主力商品のメニュー表示額、1人あたりの総支払額、加算内訳、ランチとディナーの差レシートを撮影し、総支払額÷メニュー額の倍率も書く
客入店時と退店時の客数、客層(年齢層、グループ構成、日本人客の割合の目視)、待ち時間日本人客の割合は印象ではなく、数えた人数で書く
回転滞在時間(自分の分と、隣の席の分)、予約の有無、予約アプリの利用昼と夜の両方を見られた店だけ比較に使う
メニュー品目数、主力の価格帯、日本産食材の表示(産地、ブランド名)、酒類の構成メニューは全ページを撮影する
運営ホールと厨房の人数、日本人スタッフの有無、注文方法(QR、タブレット、口頭)、決済方法店頭の求人掲示があれば撮影する
物件不動産会社が提示した賃料、共益費、契約期間、内装の居抜きの有無、営業時間の制約口頭の提示額は「提示日・提示者」と一緒に書く

運営の欄は、出店後の採用計画にも直結します。料理人の給与相場は国別の寿司職人の給与でまとめています。

6. 3〜5日の視察日程の組み方

1日に回れる店は、食事を伴うと昼2軒・夜2軒程度が限度です。数を追うより、候補エリアごとに同じ業態を3軒以上そろえるほうが、比較の材料になります。

7. 帰国後に数字を仮説に変える

記録シートがそろったら、まず総支払額ベースの客単価を業態別に並べます。そのうえで、自社の想定客単価、席数、回転数から月商の仮説を作ります。たとえば仮に、シンガポールでメニュー表示40ドルのコースを出すとすると、客の支払額は1.199倍の約48ドルになります。客が比べているのはこの48ドルのほうです。

視察で見えた競合の位置づけは競合マップの作り方で、価格や客層の仮説を小さく試す方法はポップアップ出店の記事で扱っています。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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