海外出店|国・地域別の開業

アイルランドで和食店を開く|HSE登録・FSAIの要件・特別レストラン免許・VAT9%

アイルランドの日本食店120店の概況、EEA居住取締役か€25,000保証証券の要件、HSEへの登録とFSAIの研修・HACCP・14アレルゲン、裁判所の証明書が要る特別レストラン免許(€3,805)、2026年7月からの飲食VAT9%、法人税12.5%を整理します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 市場:日本食店120店、在留邦人3,210人の小さな市場
  2. 会社設立:EEA居住の取締役か2万5,000ユーロの保証証券
  3. 食品事業の登録先:HSEの環境衛生部門
  4. FSAIが開業前に求めていること
  5. 酒類:レストラン向けの2つの免許と裁判所の証明書
  6. VAT:2026年7月から飲食は9%、酒類は23%
  7. 法人税12.5%と、VAT登録の基準額
  8. 人件費の前提:最低賃金€14.15
  9. 日本食材の輸入と料理人のビザ
  10. 手続きの順番と日数の目安

アイルランドで和食店を開くとき、手続きの窓口は4つに分かれます。会社登記の会社登記所(CRO)、食品事業の登録先である保健サービス庁(HSE)の地域の環境衛生部門、食品安全の基準と指針を示すアイルランド食品安全庁(FSAI)、そして酒類の免許を出す歳入庁(Revenue)の国家物品税免許事務所(NELO)です。酒類の新規免許には裁判所の証明書が必要になる点が、他の国との大きな違いです。この記事では、2026年9月時点でFSAI、Revenue、政府ポータルgov.ie、アイルランドの法令集で確認した内容を整理します。飲食のVAT(付加価値税)が2026年7月1日に13.5%から9%に下がったばかりなので、価格設定の前提も合わせて確認します。

1. 市場:日本食店120店、在留邦人3,210人の小さな市場

農林水産省の2025年調査では、アイルランドの日本食レストランは約120店で、2023年から約30店増えました。英国(約1,820店)と比べると小さな市場ですが、2年で約3分の1増えた計算になります。外務省の統計(2025年10月1日現在)では、アイルランドの在留邦人は3,210人(前年比2.7%増、国別30位)です。ダブリンの都市別の数字は統計に掲載されていません。単純に割ると日本食店1店あたりの在留邦人は約27人(筆者計算)ですが、在留邦人の総数そのものが小さいため、この比率だけで日本人客の需要を見込むことはできません。

日本人客を当てにできる規模ではないため、客層は最初から現地の消費者と観光客を想定することになります。市場が小さいぶん、1店目で業態が外れたときの立て直しの余地も小さいため、出店前に短期間の試験営業で反応を確かめる方法も検討に値します(ポップアップで試す)。

2. 会社設立:EEA居住の取締役か2万5,000ユーロの保証証券

アイルランドの会社法(Companies Act 2014)第137条は、「会社の取締役のうち少なくとも1人は、欧州経済領域(EEA)の国に居住する人でなければならない」と定めています。ただし、会社が所定の様式の2万5,000ユーロの保証証券(bond)を保有していれば、この要件は適用されません。この保証証券は、会社が会社法上の罰金などを払えない場合に備えるものです。日本在住の役員だけで取締役会を作るなら、保証証券の手配が必要になります。

会社登記はCROで行います。CROの料金表などのページは、この記事の執筆時に確認できなかったため、登記費用は記載していません。

3. 食品事業の登録先:HSEの環境衛生部門

FSAIによると、食品事業は、自宅で営む場合も含めて、営業を始める前に登録しなければなりません。登録先は事業の種類と、肉・家禽・魚など動物由来の食品を扱うか加工するかで変わり、保健サービス庁(HSE)の地域の環境衛生部門か、農業・食料・海洋省(DAFM)のどちらかです。FSAIのサイトには、事業の種類ごとの登録先と地域の連絡先の一覧があるので、自店がどちらに当たるかをそこで確認します。

FSAIは、登録先にはできるだけ早く連絡するよう勧めています。登録先の担当者が、店舗と作業内容が食品衛生の法令に適合しているかを助言してくれるためです。物件を決める前、遅くとも内装の設計を固める前に、環境衛生部門に図面を見せて相談しておくと、工事後の手戻りを減らせます。

4. FSAIが開業前に求めていること

FSAIの「Starting a Food Business」は、レストラン、カフェ、フードトラックなどすべての食品事業を対象に、開業前に次のことを求めています。

研修について、FSAIは、食品取扱者は作業の内容に応じた食品衛生の監督と指導・研修を受ける必要があり、HACCPの責任者はHACCPの原則の適用について十分な研修を受けなければならない、と説明しています。必ずしも外部の講座に通う必要はなく、FSAIの「Guide to Food Safety Skills」を使って社内で研修を組むこともできます。このガイドは、レベル1(採用後1カ月以内に示すべき基本技能)、レベル2(3〜12カ月以内に身につける追加の技能)、レベル3(管理者・監督者の技能)に分かれています。日本から来た料理人も、アイルランドの基準で研修を受けた記録を残しておく必要があります。

アレルゲンについて、FSAIはEUが定める14のアレルゲンを材料に使った場合、包装済みの食品だけでなく、包装していない(量り売り・店内提供の)食品でも表示しなければならないとしています。和食では、小麦(醤油、天ぷらの衣、うどん)、大豆(味噌、醤油、豆腐)、魚、甲殻類(海老、蟹)、軟体動物(イカ、タコ、貝)、ごま、卵が頻繁に登場し、亜硫酸塩(総二酸化硫黄として10mg/kgまたは10mg/L超)はワインや一部の加工食品に含まれることがあります。穀物は「グルテン」ではなく「小麦」のように穀物名で表示する決まりです。FSAIはレシピとアレルゲンを記録する無料ツール「MenuCal」を提供しているので、メニュー表を作る段階で使うと表示漏れを防げます(アレルゲン表の作り方)。

5. 酒類:レストラン向けの2つの免許と裁判所の証明書

gov.ieの案内によると、アイルランドの酒類免許の担当機関は歳入庁の国家物品税免許事務所(NELO)で、カフェやレストランで一般的な免許は次の2つです。

免許提供できる酒類と条件費用(Revenue)
特別レストラン免許(Special Restaurant Licence)すべての種類の酒類を店内で提供できる。店内にバーを置くことはできず、飲料水を含むノンアルコール飲料を用意しなければならない。基準はS.I. No. 147/1988新規€3,805、更新€500
ワイン小売オン免許(Wine Retailer's On Licence)ワイン、シェリー、アルコール度数23%未満の醸造酒を提供できる。「Refreshment House」と認められる店舗に限られる毎年€500

特別レストラン免許の新規交付には、裁判所が申請者に証明書(court certificate)を与えていることが条件で、Revenueは証明書の発行日から12カ月以内に受け取る必要があります。申請書類がNELOに届くと、地域の警察(An Garda Síochána)の警視と地方裁判所の事務所に通知され、30日間の法定期間に異議が出なければ、初回申請の通知が発行され、その後オンラインで免許を申請します。

特別レストラン免許の基準を定めるS.I. No. 147/1988(制定時の条文)は、免許の前提として、観光庁(当時のBord Fáilte)の証明書を求めています。その申請には、店舗の実測図面、衛生当局に制限なしのレストランとして登録されていることの証明、都市計画法と建築規則に適合していることの証明、消防当局の要件を満たしていることの証明が必要とされています。規則はまた、厨房の臭いが客席で感じられないよう客席を常に換気すること、客用の区域に室温18.5度以上を保てる暖房を備えること、客席に入るのを待つための待合区域を、客席の床面積の20%以下のものと定義していることなどを定めています。現在の運用は、申請前にRevenueと観光当局に確認してください。

日本酒は醸造酒でアルコール度数も23%未満のものが多いため、ワイン小売オン免許でも出せる可能性があります。焼酎やウイスキーまで出すなら特別レストラン免許が必要です。どちらの免許が自店に当てはまるかは、メニューを固めた段階でRevenueに確認してください。

6. VAT:2026年7月から飲食は9%、酒類は23%

財務省の発表(2026年6月30日)によると、2026年7月1日から、飲食・ケータリングのサービスと理美容のVAT税率が13.5%から9%に引き下げられました。ホテルの宿泊は対象外ですが、ホテルが提供する飲食は対象です。過去の一時的な引き下げと違い、今回は期限のない恒久措置とされています。一方、酒類は標準税率の23%です。

仮に、料理€40とワイン€12を注文した客の税込み価格から、料理の9%と酒類の23%を分けて計算すると、料理のVATは約€3.30、酒類のVATは約€2.24です(税込み価格から逆算した場合)。POSの税率設定を料理と酒類で分けておく必要があります。

7. 法人税12.5%と、VAT登録の基準額

8. 人件費の前提:最低賃金€14.15

Citizens Informationによると、2026年1月1日からの全国最低賃金は、20歳以上で時給€14.15です。19歳は€12.74(90%)、18歳は€11.32(80%)、18歳未満は€9.91と、年齢によって低い率が定められています。仮に20歳以上のホールスタッフ3人が週30時間ずつ働くとすると、最低賃金だけで週€1,273.50になります。VATの引き下げで価格に余裕ができても、人件費の比率はこの水準を前提に計算しておく必要があります。

9. 日本食材の輸入と料理人のビザ

農林水産省の資料では、EUは原発事故に伴う日本産食品の輸入規制を2023年8月に撤廃しており、アイルランドもその対象です。放射性物質に関する産地証明は求められません。日本人の料理人を雇う場合の就労許可はアイルランドで日本人料理人を採用するで扱っています。

10. 手続きの順番と日数の目安

  1. EEAに住む取締役を確保するか、€25,000の保証証券を手配し、CROで会社を登記する。
  2. 物件を決める前に、地域のHSE環境衛生部門に連絡し、店舗と作業内容について助言を受ける。
  3. HACCPの計画、アレルゲン表示、研修計画を作り、営業開始前に食品事業を登録する。
  4. 酒類を出すなら、裁判所の証明書(特別レストラン免許の場合)を取り、NELOに申請する。警察と裁判所への通知から30日の法定期間を見込む。
  5. VATの税率(料理9%、酒類23%)をPOSに設定し、登録の基準額を確認する。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

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