海外出店|業態・商品設計

海外和食店のメニュー翻訳:料理名を残して説明を足す、注文できるメニューの作り方

料理名・何の料理か・調理の状態・含まれるものの4段で書く翻訳の型を示し、フランスのフランス語使用法とケベック州フランス語憲章のメニュー規定、生食の注意書き、NYCの塩分アイコン、EUで保護されるGI「日本酒」や飛騨牛、誤解を与えない表現、逆翻訳と更新の手順を解説します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. メニュー翻訳の目的は、客が迷わず注文できること
  2. 使う言語に決まりがある国:フランスとケベック州
  3. 料理名は残し、説明を足す:1品の書き方の型
  4. 翻訳に組み込む法定の記載:生食、アレルゲン、塩分
  5. 使ってよい名前、使えない名前:地理的表示と「誤解を与える表示」
  6. 翻訳の手順と、更新の仕組み
  7. メニューを印刷する前の確認表

海外の和食店のメニューでよく見かけるのは、日本語の料理名をローマ字にしただけのもの、あるいは機械翻訳で「Parent and child bowl」のように直訳したものです。どちらも、客はその料理が何なのかを判断できず、写真を指さすか、店員に1品ずつ聞くことになります。メニューの翻訳は、言葉を置き換える作業ではなく、客が「何が入っていて、どう調理されていて、自分が食べられるか」を判断できる説明を作る作業です。この記事では、フランスとケベック州の言語に関する法律、米国FDA Food Code 2022、ニューヨーク市保健法、日EU・EPAの地理的表示、英国政府の議会答弁をもとに、注文できるメニューを作る手順を整理します。

1. メニュー翻訳の目的は、客が迷わず注文できること

客がメニューを見て判断したいことは、おおむね次の5つです。

  1. どんな料理か(ご飯もの、麺、焼き物、揚げ物、汁物など)
  2. 主な食材は何か(鶏、豚、牛、魚、野菜)
  3. 生か、加熱してあるか
  4. 自分が避けたい食材(アレルゲン、肉・魚、アルコール)が入っているか
  5. 量と辛さ(1人で食べる量か、分けて食べる量か)

ローマ字の料理名だけでは、この5つのどれにも答えられません。逆に、長い説明文だけでは、客は料理を名前で覚えられず、次回の来店で注文しにくくなります。料理名は日本語の音を残し、その下に5つの判断材料を短く書く、という形が基本になります。

2. 使う言語に決まりがある国:フランスとケベック州

国や地域によっては、メニューに使う言語そのものが法律で決まっています。

地域規則メニューでの対応
フランス1994年8月4日の法律(フランス語使用法)第2条は、財・製品・サービスの名称、提供、表示、使用方法などでフランス語の使用を義務づけている。広く一般に知られた外国名の典型的な製品・名物の名称は、この義務の対象外。翻訳を併記する場合、フランス語の表示は外国語と同じくらい読みやすくなければならない(第4条)フランス語の説明を主にし、日本語・英語は併記にする。「sushi」のように広く知られた名称はそのまま使える余地があるが、説明はフランス語で書く
カナダ・ケベック州フランス語憲章第51条は、製品の表示をフランス語で書くよう定め、この規則はメニューとワインリストにも適用されると明記している。翻訳を併記できるが、他の言語の表示がフランス語より優先されたり、より有利な条件で見られたりしてはならない。第50.2条は、消費者がフランス語で情報を受け、サービスを受ける権利を定めるフランス語を主にし、英語・日本語は同等以下の扱いにする。規則に合わないメニューを提示する店に、フランス語局(OQLF)が是正を命じることができる

フランス政府が国会に提出した2010年の報告書は、第2条の義務の内容と、外国名の典型的な製品の例外、第4条の「同じくらい読みやすく」という要件を説明しています。和食店の場合、「ramen」「sushi」「tempura」のような名称は外国名の名物として使える余地がありますが、その料理が何かを説明する部分はフランス語で書くことになります。例外に当たるかどうかの判断に迷う名称は、フランス語の説明を必ず添えておくのが安全です。

3. 料理名は残し、説明を足す:1品の書き方の型

1品の表記は、次の4段で書くと、客の判断材料がそろいます。

段内容例(親子丼)
1. 料理名日本語の音をローマ字で。必要なら日本語も併記Oyakodon(親子丼)
2. 何の料理か料理の種類と主な食材を1行でRice bowl topped with chicken and egg simmered in a sweet soy broth
3. 調理の状態生、半熟、加熱済みなどEgg is served soft and runny
4. 含まれるものアレルゲン、肉・魚、だしの種類Contains egg, wheat, soy. Broth made with bonito (fish)

2段目は、現地の人が知っている料理にたとえると伝わりやすくなります。ただし、たとえが料理の中身を誤解させないように注意します。4段目の「だしの種類」は、見落とされやすい情報です。野菜の料理でも、かつおだしを使っていれば魚を含みます(詳しくはベジタリアン対応の記事)。

小皿料理のように品数が多いメニューでは、4段をすべて書くと紙面が足りなくなります。その場合は、1段目と2段目を1行にまとめ、3段目と4段目は記号と脚注で示す方法があります。たとえば「Agedashi Tofu — lightly fried tofu in warm dashi broth(fish)」のように、括弧でだしの由来だけを残し、アレルゲンは料理名の後ろの記号で示します。記号の意味は、同じページの下に必ず書きます。写真を載せる場合は、写真と実際の盛り付けが違わないようにし、季節で盛り付けが変わる料理には写真を使わない、と決めておくと、提供後の行き違いを防げます。

要点:翻訳の良し悪しは、「その説明を読んだ客が、店員に質問せずに注文できるか」で判断します。開業前の試食会で、現地の人に説明だけを読んで料理を選んでもらい、実際に出てきた料理が想像と違わなかったかを確かめると、直すべき箇所がはっきりします。

メニューには、翻訳とは別に、法律で求められる記載を入れる必要があります。翻訳を作るときに一緒に組み込むと、後から書き足して表記が崩れることを防げます。

5. 使ってよい名前、使えない名前:地理的表示と「誤解を与える表示」

料理名や飲料名に、産地や品質を示す言葉を使うときは注意が要ります。

6. 翻訳の手順と、更新の仕組み

  1. 日本語の原稿を作る:料理長が、4段の型で日本語の説明を書きます。食材とだしの種類は、レシピと仕入れ品の原材料表示から書き出します。
  2. 現地の言語に訳す:現地の言語を母語とし、料理の知識がある人に訳してもらいます。機械翻訳は下訳として使い、そのまま載せません。
  3. 逆翻訳で確かめる:訳文を別の人に日本語へ戻してもらい、元の説明とずれていないかを確かめます。
  4. 現地の客で試す:試食会で、説明だけを読んで料理を選んでもらいます。
  5. 更新の担当を決める:食材や仕入先が変わったとき、日本語の原稿、訳文、アレルゲン表の3つを同時に直す担当者を決めます。

更新の手順を決めておかないと、日本語のレシピは変わったのに英語のメニューは古いまま、という状態が起こります。アレルゲンや生食の表示に関わる変更は、客の安全に直結するため、メニューの更新と表の更新を同じ日に行う決まりにしておきます。

7. メニューを印刷する前の確認表

確認項目内容
言語フランス、ケベック州など、使う言語に決まりのある地域では、現地語を主にしているか
書き方の型全品が「料理名・何の料理か・調理の状態・含まれるもの」の4段になっているか
生食の表示生・半生の料理に印と脚注の注意書きがあるか(米国)
アレルゲンアレルゲン表と説明文の内容が一致しているか
名称GIで保護された名称(日本酒、産地名など)を正しく使っているか
チェーンの表示義務塩分・カロリー表示の対象になる店数に達しているか
更新日本語原稿・訳文・アレルゲン表を同時に直す担当者が決まっているか

メニューは、客と店の間で最初に交わす説明書です。料理名の響きは日本の店らしさとして残しつつ、判断に必要な情報を現地の言葉で過不足なく書くことが、注文の迷いと提供後の行き違いを減らします。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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