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海外和食店の開業体制:日本のオーナーと現地店長の決裁表の作り方

撤退理由の上位にある「管理人材の確保困難」(公庫調査10.6%)と、米国Food Code・NYC・豪州・シンガポールが求める営業中の責任者の規定をもとに、衛生は現地即決、価格・仕入先・幹部人事は日本承認とする決裁表と報告の型を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 撤退理由の上位にある「管理人材の確保困難」
  2. 法律が「その場の責任者」を求めている
  3. 肩書きではなく権限で「管理職」かどうかが決まる
  4. 決裁表:誰が決め、誰に報告するか
  5. 金額の上限と、例外時の決め方
  6. 日本との報告の型:毎日・毎週・毎月
  7. 店長の権限を広げる基準を先に決める
  8. 開業前に決裁表を試す

海外の和食店では、出資しているオーナー(日本本社の社長であることが多い)が日本にいて、現地の店長と料理長が毎日の店を回す形がよく見られます。この形で開業直後に起きやすいのが、「決める人がその場にいない」問題です。食材が届かない、スタッフが急に辞める、保健所の検査で指摘を受ける。そのたびに日本の判断を待っていると、店は止まります。反対に、店長が何でも決められる状態にすると、価格や仕入先が知らないうちに変わっていきます。この記事では、公的な調査と各国の衛生・労働ルールを材料に、オーナーと店長の決裁をどう分けるかを具体的に整理します。

1. 撤退理由の上位にある「管理人材の確保困難」

日本政策金融公庫総合研究所が海外進出の経験がある中小企業を対象に行ったアンケート(2014年10月実施、298社回答)を分析した論文(日本政策金融公庫論集 第26号、2015年2月)では、海外拠点から撤退した「最も重要な理由」として、「製品需要の不振」11.8%に次いで、「現地パートナーとの不調和」と「管理人材の確保困難」がそれぞれ10.6%で並んでいます。撤退時に直面した課題では「現地従業員の処遇」が38.6%に上りました。調査対象は製造業の生産拠点が中心ですが、現地を任せられる人がいないことが撤退につながる構図は飲食店にも当てはまります。

人材の取りにくさは、今も続いています。ジェトロ「2025年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」では、直近2年間で現地の人材確保の状況が「悪化した」と答えた企業が31.9%で、「改善した」の7.7%を大きく上回りました。悪化の背景として、管理職については「求める人材と求職者のスキルミスマッチ」を挙げる声が紹介されています。

ここから言えるのは、「日本と同じ感覚で任せられる店長が採れる」前提で体制を組まないほうがよい、ということです。店長の経験や判断力に合わせて、決めてよい範囲を段階的に広げられる決裁の仕組みを、最初から用意しておく必要があります。

2. 法律が「その場の責任者」を求めている

決裁を分けるうえで最初に押さえるべきなのは、多くの国の衛生ルールが、営業中の店に責任者がいることを求めている点です。オーナーが日本にいる限り、この役割は現地の誰かに持たせるしかありません。

国・地域定め(2026年9月確認)決裁への影響
米国(FDA Food Code 2022のモデル規定)営業許可の保有者は自らが責任者(Person in Charge)になるか責任者を指名し、営業時間中は常に店にいるようにする(2-101.11)。責任者は認定食品保護管理者であること(2-102.12)。責任者は、従業員の手洗い、受け入れ時の食材確認、加熱・冷却温度の監視などを確実にする(2-103.11)衛生上の判断(提供中止、廃棄、従業員の就業制限)は、その日の責任者がその場で決める事項になる
ニューヨーク市食品保護証明書(Food Protection Certificate)を持つ監督者が、営業時間中は常に勤務していなければならない店長と料理長の少なくとも2人に取得させないと、休みの日に要件を満たせない
オーストラリア(FSANZ基準3.2.2A)カテゴリー1・2の事業者は、認定された食品安全監督者(FSS、5年以内に取得した証明書)を任命し、食品取扱者が助言と監督を受けられるよう「合理的に対応可能」にしておく。現場にいない人をFSSにするのは合理的でないとされる日本にいるオーナーはFSSになれない。現地の店長か料理長が担う
シンガポール(SFA)食品取扱者はWSQ食品安全コースLevel 1の取得とSFAへの登録が必要。食堂など一部の許可施設は、Level 3を修了した食品衛生責任者(FHO)の任命が必要自店がFHOの任命対象かを許可申請時に確認し、対象ならFHOを店長側に置く

米国のFood Codeは連邦のモデル規則で、実際に適用される内容は州・郡・市の規則によって異なります。出店先の保健当局の規則で確認してください。いずれにしても、衛生の判断は「現地で即決」の側に置く、というのが決裁表の出発点になります。

3. 肩書きではなく権限で「管理職」かどうかが決まる

店長を「マネージャー」と呼んでいても、法律上の扱いは肩書きでは決まりません。シンガポール人材開発省(MOM)の説明では、雇用法(Employment Act)のうち労働時間・休日・残業代を定めるPart 4は、管理職・役員(managers and executives)には適用されません。Part 4が適用されるのは、月の基本給が4,500シンガポールドル以下の現業労働者(workman)と、2,600シンガポールドル以下のそれ以外の従業員です。

MOMは管理職・役員を、採用、懲戒、解雇、人事評価や報酬などについて決定する権限を持つ人、会社の戦略や方針を立てる人、事業を管理・運営する人などと説明しています。つまり、店長に採用も懲戒も任せず、シフトの確定も日本の承認が必要、という運用をしていると、実態として管理職と言えるのかが問われる可能性があります。どちらに当たるかはMOMの自己診断ツールや専門家で確認が必要ですが、決裁の設計は労務上の扱いにも影響する、という点は覚えておいてください。

他の国に出店する場合も、店長を残業規定の対象外として扱うかどうかは、その国の労働当局の基準で確認してください。いずれの国でも、店長に渡す権限と、雇用契約書に書く職務内容をそろえておくことが、後の紛争を避けることにつながります。

要点:決裁表は社内ルールであると同時に、店長の職務内容の記録でもあります。雇用契約書の職務記述(job description)と矛盾しないように作ってください。

4. 決裁表:誰が決め、誰に報告するか

以下は、オーナーが日本、店長と料理長が現地という体制を想定した決裁表の例です。「決定」はその人が単独で決めてよい、「承認」は事前に承認が必要、「報告」は事後の報告でよい、という意味です。

項目日本のオーナー現地の店長料理長
提供中止・廃棄・従業員の就業制限(衛生上の判断)報告を受ける決定(責任者として)決定(責任者として)
週間シフトの確定月次で人件費を確認決定厨房分を提案
アルバイト・一般スタッフの採用報告を受ける決定(人員枠の範囲内)厨房分の面接に参加
正社員・料理長・店長代行の採用承認候補者を選ぶ技能を評価
懲戒・解雇承認(重いもの)警告まで決定事実を報告
メニュー価格の変更承認提案原価を提示
日替わり・限定メニュー報告を受ける承認決定(原価率の範囲内)
主要仕入先の変更承認比較表を作る品質を評価
苦情への返金・値引き月次で集計を確認決定(上限額まで)原因を報告
設備の故障対応上限額超で承認決定(上限額まで)状況を報告
広告・SNSの出稿予算を承認予算内で決定—

この表で大事なのは、衛生と日々の運営は現地で完結させ、価格・仕入先・幹部人事といった「店の性格を変える判断」は日本に残す、という線引きです。料理長に日替わりメニューの決定権を持たせる場合は、原価率の上限を数字で決めておきます。

5. 金額の上限と、例外時の決め方

「上限額まで」の部分は、店の規模に合わせて数字を入れます。仮に月商が300万円相当の店なら、返金・値引きは1件あたり客単価の数倍まで、設備修理は1件あたり月商の1〜2%程度まで、というように、日次の運営で頻繁に出る金額を店長の決定範囲に入れ、年に数回しか出ない金額を承認事項にするのが目安です。数字は例なので、自店の損益計画から決めてください。

もう一つ決めておくべきなのは、オーナーに連絡がつかないときの扱いです。ニューヨークやロンドンのように日本と昼夜が逆転する都市では、営業中の問題が起きた時間に日本は深夜です。次のように書いておくと迷いが減ります。

  1. 安全と衛生に関わる判断は、連絡を待たずに現地の責任者が決め、後で報告する。
  2. 承認事項でも、決めないと営業が止まる場合(冷蔵庫の故障で修理が上限額を超えるなど)は、店長が決めてよい。その場合は24時間以内に理由と金額を報告する。
  3. それ以外の承認事項は、日本の翌営業日まで待つ。

6. 日本との報告の型:毎日・毎週・毎月

決裁を現地に渡すほど、日本側は数字で状況をつかむ必要があります。報告は、形式と締め切りを最初に固定します。

週次の「店長の決定事項の一覧」は、決裁表が守られているかを確認する材料になります。問題がない判断が続けば、上限額を引き上げる根拠にもなります。

7. 店長の権限を広げる基準を先に決める

決裁表は、開業時の形のまま固定するものではありません。店長の判断が安定してきたら、承認事項を少しずつ店長の決定に移していきます。そのとき「なんとなく信頼できるようになったから」ではなく、あらかじめ決めた基準で判断すると、店長にとっても目標が明確になります。基準の例は次のとおりです。

基準を満たしたら、たとえば正社員の採用や、日替わり以外のメニュー価格の小幅な変更を、店長の決定に移します。反対に、決裁表を守らない判断が続いた場合は、権限を一時的に戻すことも決めておきます。

8. 開業前に決裁表を試す

決裁表は、書いただけでは機能しません。開業前の研修期間中に、次のような場面を実際に回してみて、誰が決めるかで迷わないかを確認します。

こうした場面の練習は、模擬営業とあわせて行うと効率的です。料理長や店長が不在の日に誰が責任者になるかは、料理長不在対策で詳しく扱っています。店長や料理長の採用そのものについては、日本人料理人の採用方法もあわせて参照してください。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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