海外出店|出店戦略

海外和食店の2号店判断:1号店の数字・仕込み許可・ビザ枠で再現性を確かめる

客単価・食材費率・人件費率の測り方、Kura Sushi USAの店舗数と費用比率の推移、シンガポールSFAのセントラルキッチン許可区分や米国21 CFRの定義、S Passの10%枠を踏まえ、2号店に進むかどうかの基準表を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 1号店の数字を、2号店の判断に使える形で測る
  2. 多店舗化で数字はどう動くか:Kura Sushi USAの開示
  3. 増店が先行した例:いきなり!ステーキ米国事業
  4. 仕込みを共通化すると、許可の区分が変わる
  5. 人員計画はビザの枠で決まる:シンガポールの例
  6. 2号店に進むかどうかの基準表

1号店が繁盛していることと、2号店を出してよいことは別の問題です。1号店の成績は、立地、開業時の話題性、そしてオーナーや料理長が毎日店に立っていることに支えられている場合があります。2号店では、そのうち少なくとも「毎日店に立つ人」が半分になります。この記事では、2号店に進む前に確かめるべきことを、1号店の数字の測り方、上場企業の開示、セントラルキッチンの許可区分、就労ビザの雇用枠の順に整理します。

1. 1号店の数字を、2号店の判断に使える形で測る

2号店の判断に使う数字は、「1号店がいくら儲かったか」ではなく、「別の場所で、別の人が回しても同じ比率が出るか」を見るためのものです。そのためには、次の定義で月次に揃えておく必要があります。

指標計算のしかたよくある歪み
客単価売上(税・サービス料を除く)÷来店客数。ランチとディナー、店内とデリバリーを分ける開業直後の話題性で高単価のコースが出ている。サービス料を売上に含めている
食材費率(原価率)(月初棚卸+当月仕入−月末棚卸)÷売上仕入額だけで計算して、在庫の増減が反映されていない。日本から持ち込んだ食材の輸送費・関税を別勘定にしている
人件費率現場スタッフの給与・社会保険・賞与に、就労ビザの費用、住居手当、航空券などを含めて÷売上オーナーや料理長の報酬を本社費に置いている。ビザ関連費用を除いている
賃料比率賃料・共益費・販促分担金など物件に関わる費用÷売上改装期間の賃料免除の月を平均に含めている
店舗段階利益売上−(食材費+人件費+賃料関連+その他の店舗経費)。本社費と開業前費用は除く開業前費用や減価償却を混ぜて、店の実力が見えなくなっている

特に注意したいのが人件費率です。オーナーが無給で厨房に立っている、あるいは料理長の報酬を本社で払っている1号店は、見かけの人件費率が低く出ます。2号店では同じ役割の人を雇うことになるので、1号店の数字もその人件費を入れて計算し直してから比べてください。

要点:最低でも6カ月分、できれば12カ月分を上の定義で並べ、開業月からの推移で見ます。季節要因のある都市では、12カ月揃うまで判断を待つ価値があります。

2. 多店舗化で数字はどう動くか:Kura Sushi USAの開示

米国の上場企業は、店舗段階の費用を売上比で開示しているため、多店舗化したときに数字がどう動くかを確認できます。回転寿司チェーン「くら寿司」の米国法人で、NASDAQに上場するKura Sushi USAの2025年度(2025年8月31日終了)決算発表から、主な数字を拾います(比率は開示された金額から計算)。

2024年度2025年度
期末店舗数64店79店(年間15店を新規開業)
売上高2億3,786万ドル2億8,276万ドル
平均店舗売上(AUV)約423万ドル約395万ドル
既存店売上+0.7%−1.3%(客数−3.1%、単価・構成+1.8%)
食材・飲料費率約29.2%約28.6%
人件費率約32.2%約32.9%
賃料関連費率約7.1%約7.4%
店舗段階営業利益率20.1%18.4%

店舗数を2割以上増やしても、食材費率はほぼ横ばいでした。仕入れと調理工程が標準化されていれば、食材費率は店が増えても崩れにくいということです。一方で、平均店舗売上は下がり、人件費率と賃料関連費率は上がり、店舗段階の利益率は1.7ポイント下がっています。決算発表で経営陣は、不安定な消費環境と関税の影響が売上と店舗段階の利益率を押し下げたと述べています。

規模はまったく違いますが、2号店を検討する店にも同じ見方が使えます。2号店で崩れやすいのは食材費率よりも、「売上の立ち上がり」と「人件費率」です。1号店の数字で判断するときは、2号店の売上が1号店より低く立ち上がる前提で、人件費と賃料を払えるかを試算してください。なお同社は2026年度の計画として16店の新規出店と、1店あたり約250万ドルの純設備投資を示しています。

3. 増店が先行した例:いきなり!ステーキ米国事業

反対の例も開示されています。ペッパーフードサービスの2020年7月3日の適時開示によると、米国子会社は「いきなり!ステーキ」を2018年までに11店舗展開しましたが、同年から業績不振が続き7店舗を閉店、残る4店舗も業態転換などを試みたものの不振が続き、2020年7月に米国連邦倒産法第7章の破産を申し立てました。2019年2月の開示では、退店見込み店舗と継続する不採算店舗について、リース契約の残存期間の賃料のうち回収が見込めない部分などとして13億10百万円を引当てています。

店舗数が増えるほど、閉めるときの賃料負担も増えます。2号店の判断は、3号店以降の出店ペースを決める判断でもある、と考えておくのが安全です。撤退条件の決め方は契約前に決める中止条件で詳しく扱っています。

4. 仕込みを共通化すると、許可の区分が変わる

2号店を出すときに、1号店の厨房や別の場所で出汁、タレ、仕込み品をまとめて作り、各店に配る体制を考える経営者は多いはずです。ただし、この時点で「飲食店」から「食品製造」に許可の区分が変わる国があります。

シンガポール

シンガポール食品庁(SFA)は、食品小売業(飲食店を含む)は消費者にのみ食品を販売できるとしたうえで、自社の他店舗や他の食品事業者に食品を販売・供給する事業は、セントラルキッチンのような食品加工施設(food processing establishment)とみなすと明記しています。必要になるのは飲食店のFood Shop Licenceではなく「Licence to Operate a Food Processing Establishment」です。

Food Shop LicenceLicence to Operate a Food Processing Establishment
対象消費者に直接販売する飲食店自社の他店舗や他事業者に供給する施設(セントラルキッチンなど)
費用(2026年9月確認)年S$195申請料S$147.20+年間ライセンス料(その他加工食品は規模によりS$180/S$360/S$600、食肉・魚の加工はS$260)
有効期間1年1年
審査書類・レイアウト審査と許可前検査必要書類が揃った申請の受付から30営業日以内に計画を審査し仮承認(IPA)。内装後に最終検査を経て許可

米国

米国では、連邦レベルでFDAへの食品施設登録(21 CFR Part 1 Subpart H)があり、レストランと小売食品施設は登録が免除されています(21 CFR 1.226)。ところが同じ規則の定義(21 CFR 1.227)は、「レストラン」にセントラルキッチンなど、消費者に直接調理・提供しない施設は含まれないと明記しています。つまり、各店に配る仕込み専用の厨房は、レストランとしての免除を前提にできません。実際の許可は州や郡の保健当局の区分にもよるため、出店先の当局に「自社店舗への供給だけを行う厨房」の扱いを確認してください。

いずれの国でも、2号店の開業と同時にセントラルキッチンを立ち上げると、許可の取り直しと物件探しが重なります。まずは各店で仕込む体制で2号店を開け、店舗数が増えてから集約を検討するほうが、許可の面では無理がありません。

5. 人員計画はビザの枠で決まる:シンガポールの例

2号店で日本人の料理長をもう1人置けるかどうかは、採用できるかより先に、ビザの枠で決まることがあります。シンガポール人材開発省(MOM)の規定(2026年9月確認)では、次のようになっています。

仮に1号店の現地スタッフが月給S$1,800以上のフルタイム9人だとすると、S Pass保持者を含めた総従業員の10%という枠から、S Passで雇えるのは概算で1人です。2号店で2人目の日本人をS Passで呼ぶには、現地スタッフを含めた全体の人数を増やす必要があります。正確な枠はMOMのクォータ計算ツールで確認してください。人材確保そのものも楽ではなく、ジェトロの2025年度調査では、シンガポールの日系企業の34.5%が直近2年間で人材確保の状況が「悪化した」と答えています。

このため、2号店の人員計画は「日本人を何人呼ぶか」ではなく、「1号店で現地スタッフが料理長の代わりを務められるまで育っているか」から組み立てることになります。国別のビザと給与の詳細はシンガポールで日本人料理人を採用するを参照してください。

6. 2号店に進むかどうかの基準表

以下は、ここまでの内容を判断表にしたものです。「進む」の列をすべて満たすまでは、物件の申込みをしないという使い方を想定しています。閾値は自店の事業計画に合わせて置き換えてください。

確認項目進む条件待つ・見直す条件
数字の期間1章の定義で6〜12カ月分の月次数字が揃っている開業直後の数カ月しかない。定義がばらばら
人件費の実態オーナーや料理長の報酬を含めても店舗段階利益が出ているオーナーの無給労働を除くと赤字になる
客単価と客数話題性が落ち着いた後も客数と客単価が安定している開業景気の後、客数が下がり続けている
原価の再現性レシピと仕入れ規格が文書化され、料理長以外が作っても食材費率がぶれない料理長の勘に依存し、担当者で食材費率が変わる
人の再現性1号店に料理長の代わりを務められる現地スタッフがいる料理長が抜けると1号店が回らない
ビザ枠2号店で必要な外国人雇用がビザの枠と給与基準の範囲に収まる枠が足りず、現地採用の増員計画もない
仕込み体制各店仕込みで回るか、共通化する場合の許可区分を当局に確認済み許可を確認せずに1号店から他店へ供給する前提になっている
資金2号店が計画より低い売上で立ち上がっても、1号店と本社の資金で耐えられる1号店の利益を2号店の赤字補填にすべて回す計画

2号店に進む判断は、1号店で「オーナーがいなくても同じ数字が出るか」を確かめる作業でもあります。表の「待つ」に当てはまる項目があれば、2号店を出す前に1号店で直すほうが、結果的に早く多店舗化できます。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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