給与・コスト

海外で料理人を雇う:住居・渡航費・赴任手当の設計

カナダの低賃金枠や米国H-2Bのように法律で雇用主負担が決まっている費用と、会社が任意に設計する福利厚生を分けて整理。社宅・手当・一時金の型と、出向と現地採用の社会保険の違いも解説します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 費用を3つの層に分けて考える
  2. 法律で雇用主負担になっている国
  3. 渡航費の設計
  4. 住居の設計
  5. 赴任手当・支度金
  6. 日本側で本人がやる手続き
  7. 現地採用か、日本からの出向か
  8. よくある設計パターン

日本から料理人を呼ぶとき、給与の次に揉めやすいのが住居・渡航費・赴任手当です。「どこまで会社が持つのか」が曖昧なまま着任すると、最初の家賃の支払いで不信感が生まれます。

この記事では、これらの費用を「法律で決まっている部分」「ビザや制度の都合で必要な部分」「会社が任意に設計する部分」に分けて整理します。前の2つは国の制度で決まるので、交渉の余地がありません。自社で決められるのは3つ目だけです。

1. 費用を3つの層に分けて考える

内容
① 法定の雇用主負担ビザ・就労許可の条件として、雇用主の負担が法令や制度で決まっているものカナダ低賃金枠の往復交通費と住居確保、米国H-2Bの往復交通費
② 給与基準との関係給与基準型のビザで、住居などの現物支給を給与額に含められるかどうか含められない国では、給与基準を満たしたうえで住居を別に用意することになる
③ 任意の福利厚生採用競争力のために会社が決めるもの社宅、住宅手当、赴任一時金、一時帰国の航空券

予算を組むときは①→②→③の順に積み上げます。①は削れませんし、②を見落とすと「住居を出しているから給与は低めで」という設計がビザ審査で通らないおそれがあります。扱いは国によって違うので、各国の給与要件の定義を必ず確認してください。国別の就労ビザの概要は調理師・寿司職人の就労ビザ 国別まとめにあります。

カナダ:LMIAの低賃金枠

カナダの一時外国人労働者プログラムでは、提示賃金が州ごとの基準(2026年7月17日発効。例:オンタリオ州 C$36.92/時、ブリティッシュコロンビア州 C$38.40/時)を下回る場合に「低賃金枠」となります。雇用・社会開発省(ESDC)の低賃金枠の要件(2026年9月18日更新)では、雇用主は次を負担します。

一方、高賃金枠の要件ページには、交通費や住居の負担義務は書かれていません。高賃金枠でも民間医療保険と採用手数料の禁止は同様に求められます。つまりカナダでは、同じ料理人でも時給が州の基準を上回るかどうかで、雇用主の義務が変わります。手続きの詳細はカナダの調理師LMIAを参照してください。

米国:H-2B

H-2Bは季節的・一時的な需要のための非農業就労ビザです。20 CFR 655.20(j)により、雇用主は労働者の往路・復路の交通費と移動中の食費等を負担します。移動中の日当は、米労働省の2026年4月7日発効のレートで最低1日US$16.78、領収書があれば1日US$178が上限です。ただしH-2Bは一時的な需要が前提(原則1年以内)で、年間の発給数にも上限があります。通年営業のレストランの常勤料理人には使いにくい枠です。

それ以外の国

シンガポール、マレーシア、オーストラリア、英国などの一般的な就労ビザでは、渡航費や住居の雇用主負担が一律に義務づけられているわけではありません(2026年9月時点で本記事が確認した範囲)。その代わり、給与の最低基準やレビー(雇用税)が重くかかります。費用全体の比較は海外の和食店の採用コストにまとめました。

3. 渡航費の設計

法定の負担がない国でも、赴任時の片道航空券は会社が持つ前提で考えることをおすすめします。日本国内の料理人にとって、自費で渡航して着任するのは大きな負担で、国内の求人と比べられたときに不利になります。

決めておくべきことは次のとおりです。

返還条項について

「1年以内に自己都合で辞めたら渡航費を返す」という条項は、国と契約形態によって扱いが大きく違います。日本の労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額の予定を禁じています。日本法人と労働契約を結ぶ出向の形なら、この規定を前提に考える必要があります。カナダの低賃金枠では、そもそも交通費を労働者から回収できません。現地法人との契約でも、現地の専門家に確認せずに入れるのは避けてください。

返還条項で縛るより、「1年勤務したら一時帰国の往復航空券を支給」のように、続けることで得をする設計のほうが定着にも効きます。

4. 住居の設計

住居は、料理人が着任してから最初の2〜3週間の生活を左右します。国や都市によっては、賃貸契約に現地の銀行口座、信用履歴、保証人、まとまった前払いなどを求められることがあり、着任直後の料理人には高いハードルになりえます。

3つの方式

方式向いている店注意点
社宅(会社名義で借りて提供)毎年のように日本から人を呼ぶ店、家賃の高い都市空室期間の家賃を会社が負う。同居させる場合はプライバシーへの配慮が必須
住宅手当(本人が借りる)現地に慣れた人材、家族帯同最初の契約の壁は残る。着任直後の仮住まいを別途用意する
初期のみ会社手配 → 手当に切替多くの店に現実的切替時期(例:6か月後)を契約書に明記する

本人負担を取るなら

社宅でも本人から一定額を負担してもらう設計はありえます。その場合は求人票と契約書に金額を書き、給与からの控除が現地法で認められているかを確認してください。カナダの低賃金枠のように、住居費に上限の考え方(税引前収入の30%未満)が示されている制度もあります。

ルームシェアの社宅

日本人スタッフ同士の同居は費用を抑えられ、孤立も防げます。一方で、職場と家の両方で同じ人と顔を合わせる生活は、人間関係がこじれたときの逃げ場がありません。個室を確保する、1年後には選べるようにする、といった出口を用意しておくと安心です。

5. 赴任手当・支度金

赴任時の一時金は、次のような費用を想定して設計します。

金額に決まった相場はありません。考え方としては「最初の給与支払日までの期間 × 現地の生活費」を下限にすると、着任直後に資金が尽きる事態を防げます。給与の支払いサイクル(月1回か隔週か)で必要額が変わる点にも注意してください。

一時金や住居の現物支給が現地でどう課税されるかは国によって異なります。支払い方を決める前に現地の会計士に確認してください。

6. 日本側で本人がやる手続き

料理人本人がやる手続きですが、会社がチェックリストとして渡すと喜ばれます。

7. 現地採用か、日本からの出向か

日本に本社がある外食企業では、日本法人で採用して海外の子会社に出向させる形もとれます。社会保険の扱いが大きく変わります。

形態社会保障協定のある国での加入先
日本の事業所から一時派遣(5年以内の見込み)引き続き日本の制度のみに加入し、相手国の加入は免除
日本の事業所から派遣(5年を超える見込み)相手国の制度のみに加入
相手国の事業所に現地採用相手国の制度のみに加入

(日本年金機構の説明による。延長の扱いは協定ごとに異なります。)

社会保障協定は2026年6月2日時点で24か国と発効済みです。米国、カナダ、オーストラリア、英国、ドイツ、フランス、韓国、中国、フィリピン、インドなどが含まれますが、シンガポール、タイ、マレーシア、香港、UAEは含まれていません。協定のない国に日本から派遣すると、日本と現地の両方で保険料がかかる可能性があります。

出向は、日本の厚生年金が続くので料理人には安心材料になりますが、会社の事務負担と費用は増えます。一方、現地採用は現地の制度に一本化される分シンプルです。どちらを選ぶかは、任期の長さと、料理人本人が日本に戻る前提かどうかで決めるのが現実的です。

8. よくある設計パターン

金額は国と都市でまったく違うので、ここでは組み合わせの型だけを示します。

渡航費住居一時金向いているケース
最小構成赴任片道最初の1か月の仮住まいなし給与水準が高く、本人に海外経験がある
標準赴任片道+契約満了時の帰国便6〜12か月の社宅、以後手当最初の給与日までの生活費初めて海外で働く料理人
定着重視赴任片道+毎年の一時帰国往復社宅(個室)継続生活立ち上げ費用料理長・カウンターの職人など代わりがききにくい人材

決めた内容は、求人票と雇用契約書の両方に同じ言葉で書いてください。書き方の例は求人票の書き方に、着任後の定着策は定着策の記事にあります。英語での詳細はRelocation package for chefsもご覧ください。

本記事は一般的な情報であり、法務・税務・入管に関する助言ではありません。雇用主の負担義務、社会保険、税の扱いは国・ビザの種類・契約形態によって異なり、制度も改正されます。下記の一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

出典

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