採用の進め方

海外赴任(在籍出向)と現地採用、費用とビザで比較

在籍出向は日本の年金・健康保険・労災の特別加入を維持できますが会社負担が上乗せされます。現地採用を事実上求めるビザもあります。給与28万6,600円を例にした費用試算、ビザ別の雇用主要件、中間形態のリスクを整理します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

料理人を海外赴任(在籍出向)で送ると、日本の健康保険・厚生年金が続き、労災保険の特別加入もできますが、現地の費用に加えて日本側の社会保険料が上乗せになります。さらにシンガポール、マレーシア、オーストラリアの482ビザ、カナダのLMIAルートなど、現地法人が雇用主であることを求めるビザもあり、名目だけの出向ではその条件を満たせません。現地採用は、ビザが許す範囲で、長く現地に住む前提の料理人にはより単純な形です。月給28万6,600円の料理人1人なら、日本側の法定負担だけで年間約49万5,000円が出向のコストに上乗せされます。

このページは、日本の外食企業の人事担当者と、海外で店を経営するオーナー向けに、日本から送る料理人の雇用形態をどう組み立てるか、在籍出向と現地採用を、費用とビザの観点から比較します。出向契約書・雇用契約書の条項ごとの作り方は出向契約・雇用契約の作り方、日本の年金・健康保険が続く仕組みの詳細は料理人の年金・健康保険の扱い、税務上の居住者・非居住者の判定は海外勤務者の税金で詳しく解説しています。社会保障協定を結んでいる国の一覧は社会保障協定と料理人をご覧ください。

目次

  1. 3つの形態:在籍出向・転籍・現地採用
  2. 比較表
  3. 費用の試算例
  4. 現地の雇用契約を求めるビザ
  5. 中間形態:現地契約+日本側の上乗せ
  6. 家族の扶養
  7. 人事・契約の論点
  8. どちらを選ぶか

1. 3つの形態:在籍出向・転籍・現地採用

2. 比較表

項目在籍出向現地採用
雇用契約の相手日本の会社(出向先とも指揮命令関係)現地の会社
日本の健康保険・厚生年金日本の会社から給与の一部または全部が支払われていれば原則継続加入しない
協定国(発効中24か国、下記参照)5年以内の見込みなら日本の制度のみ相手国の制度のみ
協定のない国日本と現地の両方で加入が必要になる可能性現地の制度
労災保険の海外派遣者特別加入加入できる加入できない
日本の所得税1年以上の予定なら一般的に非居住者一般的に非居住者
家族の健康保険の扶養海外赴任に同行する家族は例外として認定可能対象外
会社の費用現地の費用(あれば)に加え、日本側の社会保険料と赴任手当現地の給与と現地の社会保険料のみ

日本年金機構によると、日本の会社との雇用関係が続いたまま海外で勤務し、出向元から給与の一部(全部)が支払われているときは、原則として健康保険・厚生年金保険の加入が続きます。海外の事業所から支払われる給与も、出向元の給与規定や出向規定で実質的に日本の会社から支払われていると確認できれば、保険料算定の基礎に含まれます。この「実質的に」という判定こそ、第5章で説明する中間形態を危うくする点です。

社会保障協定は2026年6月2日時点で24か国と発効していますが、シンガポール、香港、UAEなどとは結ばれていません。協定によっては、見込み期間にかかわらず派遣開始から5年間は日本の制度だけに加入する扱いもあります(オーストラリアなど)。協定国の一覧と各協定の内容は社会保障協定と料理人で確認してください。

現地採用の場合、日本の厚生年金には加入しません。日本国籍で海外に住む20歳以上65歳未満の人は国民年金に任意加入できます(日本年金機構)。加入は本人が決めることですが、採用時に選択肢として伝えておくと、海外移住への不安を減らせます。労災保険については、厚生労働省が、国内の事業からの派遣者だけが特別加入できると明記しており、現地採用の人は対象外です。厨房は刃物や火を扱う職場なので、現地採用の場合は現地の労災補償制度の内容を必ず確認してください。

3. 費用の試算例

どちらの形態も無料ではなく、費用がかかる場所が違うだけです。架空の数字ではなく、公的な数字を基準にします。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、日本の飲食物調理従事者のきまって支給する現金給与額は月286,600円(年3,439,200円)です。これを出向者が日本で受け取り続ける給与とします。

日本側の会社負担(給与3,439,200円に上乗せ)料率年間金額
厚生年金保険料 会社負担分9.15%(合計18.3%、2017年9月から固定)約314,700円
健康保険料 会社負担分(東京都・協会けんぽ、令和8年度、40歳未満)4.925%(合計9.85%)約169,400円
労災保険 海外派遣者特別加入(給付基礎日額を実際の給与に近い1万円に設定)申告した年額の0.3%約11,000円
法定負担の小計給与の約14%約495,000円
赴任手当、住居費、一時帰国費法律ではなく会社の規定で決める各社の予算

この14%は下限であって上限ではありません。料理人が40〜64歳なら介護保険料が加わりますし、会社が支払う赴任手当は会社の方針次第で公的な料率はありません。赴任手当の一般的な決め方は住居・渡航費・赴任手当の設計をご覧ください。

現地採用ではこの部分が現地の会社負担に置き換わり、国によって大きく異なります。たとえばオーストラリアの退職年金保証(スーパーアニュエーション)は基本給与の12%、シンガポールのEP保有者は外国人のためCPF拠出がなく、タイの雇用主負担の社会保険は上限のある賃金に対して5%です。国ごとの手数料を含めた総費用は海外採用1人あたりの総費用、給与そのものは国別の寿司職人の給与にまとめています。実際の料理人と勤務国の数字で両方を試算してから決めてください。日本側の14%が現地の負担より安いか高いかは、国によって変わります。

4. 現地の雇用契約を求めるビザ

就労ビザはどちらの形態でも必要ですが、いくつかのルートは、書面上は日本の会社にしか雇用されておらず現地の雇用関係がない料理人を認めません。この点は、社会保険の比較より先に形態を決めてしまうことが多くあります。

国・地域ルートが求めること
シンガポール(EP、Sパス)シンガポール法人がパスのスポンサーであり、雇用主でもある必要があります。名目だけの日本側雇用では足りません。シンガポールでの採用参照。
マレーシア(EP)同様に、マレーシア法人が雇用主である必要があります。マレーシアでの採用参照。
オーストラリア(482ビザ)スポンサーとなるオーストラリア法人と、指名された本人との間に実質的な雇用関係が必要です。482ビザでのスポンサー参照。
カナダ(LMIAによる就労許可)LMIAに記載されたカナダの雇用主が雇用主です。日本の給与のまま送る形に近いのは、LMIA不要の企業内転勤の許可です。カナダでのLMIA参照。
米国(L-1)出向を前提にした制度で、直近3年のうち1年間、同じ企業グループの海外拠点に雇用され、それが米国での職務に続くことを求めます。米国のビザの選び方参照。
米国(E-2)従業員は原則として条約企業そのものに雇用され、管理職・幹部職または専門技能職として働き、企業と同じ条約国籍を持つ必要があります。E-2の従業員要件参照。
タイ(労働許可)資本金とタイ人雇用数の条件のもと、タイ法人が直接の雇用主です。タイの労働許可参照。

現地法人が雇用主であることを求めるルートでは、第2章の社会保険の比較がどうであれ、転籍か現地採用が現実的な選択肢になります。逆にL-1のように日本の雇用継続を前提にしたルートでは、在籍出向が自然に当てはまります。

5. 中間形態:現地契約+日本側の上乗せ

多くのグループが行き着くのが中間的な形です。料理人は現地法人と雇用契約を結んでスポンサーの雇用主要件を満たしつつ、日本の会社にも籍を残し、年金の継続や日本との給与差を埋めるために上乗せの支払いを続けます。

ここには2つの落とし穴があります。第一に社会保険では、日本年金機構の継続の判定基準は、給与が出向元の給与規定・出向規定に基づいて実質的に日本の会社から支払われているかどうかです。現地法人が実質的な雇用主として本来の給与を払い、日本側がわずかな上乗せしか払っていない場合、継続が認められる保証はなく、日本側の負担がどの程度あれば足りるのかという明確な線引きは確認できませんでした。第二に税務では、海外勤務者の税金で扱う1年の居住者判定は、契約書にどちらの会社名があるかではなく、赴任の予定期間で決まるため、中間形態にしても判定は変わりません。

ビザの都合で現地契約が避けられず、それでも日本の年金制度に残したい場合は、出向規定、出向契約、現地の雇用契約を同時に作成し、料理人が出国する前に社会保険労務士の確認を受けてください。日本年金機構から問い合わせが来てから対応するのでは遅すぎます。

6. 家族の扶養

2020年4月1日以降、健康保険の被扶養者として認定されるには、原則として日本国内に住所があることが必要です。日本年金機構の例外は、海外赴任に同行する家族で、届出をすれば被扶養者として認定できるというものです。この例外は、本人が日本の健康保険に加入し続けていることが前提なので、対象は日本の健康保険に残る出向者に限られ、現地採用者には使えません。家族帯同を希望する料理長クラスの採用では、これだけで形態を決める場合もあります。

7. 人事・契約の論点

出向契約書と料理人本人への書面の条項ごとの作り方は出向契約・雇用契約の作り方で解説しています。

8. どちらを選ぶか

状況向いている形態理由
本社の料理人を数年だけ送り、日本に戻す在籍出向日本の年金・健康保険が続き、帰任後の処遇も決めやすい
ビザのルートが現地法人を雇用主として求める現地採用または転籍第4章のルートは名目だけの出向を認めない
海外に長く住む前提の料理人を採用する現地採用現地の制度に一本化でき、会社の費用も明確
協定のない国に長期で送る個別に検討二重加入の費用が続くため、転籍や現地採用への切り替えも検討
家族帯同の料理長在籍出向が有利な場合が多い同行家族を日本の健康保険の扶養に入れられる

出店全体の人員計画は海外出店の人材計画をご覧ください。

2026年9月27日確認の数字。変わるもの:協会けんぽの健康保険料率(東京都、毎年春に改定。令和8年度分は4月納付の3月分から適用)、社会保障協定の締結国数(2026年6月2日時点で24か国)、厚労省の賃金構造基本統計調査(次回は2027年見込み)。厚生年金保険料率は2017年9月から18.3%で固定されており、独自の改定予定はありません。次回確認は2027年4月です。

よくある質問

在籍出向と現地採用、どちらが安く済みますか。

国によります。在籍出向は、現地の費用に加えて日本側の社会保険料(厚生年金・健康保険で給与の約14%、それに小さな労災保険料)が上乗せになります。現地採用ではこれが現地の会社負担に置き換わり、ほぼゼロ(シンガポールのEPは外国人にCPF拠出がない)から12%以上(オーストラリアの退職年金保証)まで幅があります。勤務国ごとに実際の数字で試算してから決めてください。

シンガポールやオーストラリアのように現地スポンサーを求める国に、在籍出向のまま料理人を送れますか。

名目だけの出向では認められません。シンガポールのEP・Sパス、オーストラリアの482ビザは、現地法人が実際の雇用主であることを求めるため、これらの国では通常、現地採用か転籍、または現地契約に日本側の上乗せを組み合わせる形になり、その場合は年金継続に関するリスクが伴います。

現地採用でも日本の年金制度は続きますか。

雇用を通じては続きません。現地採用の場合、日本の厚生年金には加入しません。海外に住む20歳以上65歳未満の日本国籍者は国民年金に任意加入できますが、これは会社の制度ではなく本人の選択です。

現地採用の料理人の家族を、本人の日本の健康保険の扶養に入れられますか。

入れられません。海外赴任に同行する家族を被扶養者として認める例外は、本人が日本の健康保険に加入し続けている場合、つまり出向者に限られ、現地採用者には適用されません。

協定国での出向が5年を超えたらどうなりますか。

原則として、その時点から相手国の制度に移ります。両国が合意すれば日本の制度を続けられる場合もあります。協定によっては、当初の予定にかかわらず開始から一律5年とする扱いもあります。協定ごとの内容は社会保障協定と料理人で確認してください。

本記事は一般的な情報であり、法務・税務・社会保険に関する助言ではありません。個別の扱いは契約内容、給与の支払い方、勤務国によって異なります。2026年9月時点で確認した下記の一次情報をご確認のうえ、年金事務所、労働基準監督署、税務署、社会保険労務士・税理士などの専門家にご相談ください。

出典

料理人の採用でお困りですか

WashokuJobは海外の和食店専門の求人サイトです。掲載中の求人は世界各国の日本食レストランから集まっています。掲載のご相談はお問い合わせフォームからどうぞ。

和食料理人を採用しませんか?

世界中の和食料理人が登録するWashokuJobに、貴店の求人を掲載できます。