採用の進め方

海外出店の人材計画:開業12か月前からの逆算とスケジュール

海外出店の人材計画の方法論。最初に決めること、シンガポール・オーストラリア・米国を含むビザ期間の目安、シンガポールの通しの逆算実例、開業12か月前からの一般スケジュール、計画が崩れたときの対応。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

人材計画は、今日から先に進めるのではなく、開業目標日から逆算してください。日本から料理長を呼ぶ場合、個人のビザ申請に進む前に、ビザ経路の決定、雇用主としての現地法人登録、そして多くの国では現地での求人広告が必要で、そこに料理人が日本で退職・準備するための1〜3か月が加わります。多くの経路では、開業の10〜12か月前に計画を始め、料理長の着任は開業直前ではなく1〜2か月前にするのが目安です。

このページは方法論を扱います。どの国でも使える、何を、どの順番で決め、ビザにかかる期間からどう逆算のスケジュールを組むかです。国別のビザ一覧表(国別の就労ビザまとめ)や、都市ごとの現地の給与・候補者事情はここでは扱いません。ニューヨーク出店、ロサンゼルス出店、バンコク出店のような都市別の出店人材計画が現地の詳細を担当し、このページはそれらすべてが使う計画の方法論を担当します。採用全体の流れは海外の和食店で日本人料理人を採用する方法にまとめています。

目次

  1. 人材計画は物件より先に始める
  2. 最初に決める3つのこと
  3. ビザにかかる期間を逆算する
  4. 実例で見る:シンガポールの逆算スケジュール
  5. 開業12か月前からの一般的なスケジュール
  6. 計画が崩れたとき:遅延・不許可・辞退
  7. 現地採用と日本採用の組み合わせ方
  8. 立ち上げ応援をどう扱うか
  9. 開業後12か月の人材計画

1. 人材計画は物件より先に始める

理由は3つあります。ビザの手続きには、会社側の準備が前提になる。多くの国では、雇用主の登録、現地での求人広告、スポンサーの認定などを経てから個人のビザ申請に進み、法人設立が終わっていないと始められない手続きもあります。日本の料理人は、すぐには動けない。内定から出国までに、今の職場の退職、引き継ぎ、住居の整理が必要です。業態によって必要な人が変わり、必要な人によってビザの経路が変わる。カウンターの寿司店と、多店舗展開を前提にしたラーメン店では、日本から呼ぶべき人の数も役割も違います。

2. 最初に決める3つのこと

① 日本から呼ぶ人数と役割

「日本人が何人必要か」ではなく「日本人でなければならない役割は何か」から考えます。

役割日本から呼ぶ必要性
カウンターに立つ職人、料理長高い。店の商品そのもの
仕込みの責任者、味の管理中。開業後にマニュアル化できれば現地に移せる
ホールの責任者業態による。日本式の接客が売りなら高い
一般の調理・ホールスタッフ低い。現地採用が基本

② ビザの経路

国と職種と給与で、使えるビザの経路が決まります。2026年9月時点で、英国のように新規の海外スポンサー採用が事実上閉じている国もあれば、シンガポールやオーストラリアのように給与の基準が高く設定されている国もあります。出店国が決まった時点で、自社の条件で経路が開いているかを確認してください。国別の状況は調理師・寿司職人の就労ビザ 国別まとめにあります。

③ 人件費の予算

日本から呼ぶ料理人の給与は、市場相場ではなくビザの給与基準で決まることが少なくありません。加えて、ビザ費用、レビー、渡航費、住居などの給与以外の費用がかかります。給与以外の費用の考え方は住居・渡航費の設計を参照してください。

3. ビザにかかる期間を逆算する

当局が処理期間の目安を公表している場合はそれを使います。公表がない場合は、確実に存在する公的なカレンダー上の要件を使い、確認できない部分は正直にそう書きます。実際の期間は案件ごとに変わるため、各国の当局が公表する最新の情報を必ず確認してください。

国・経路計画に使える目安と根拠(2026年9月時点)
シンガポール(Employment Pass)MOMの公表基準:オンライン申請は原則10営業日以内に結果が出ます。これより前に、Fair Consideration Frameworkの求人広告(最低14暦日)を終えている必要があります。シンガポールでの採用とFCFのガイドを参照。
オーストラリア(Skills in Demand 482)指名・ビザ審査の公式な処理期間の目安は公表されていません。確実な要件は、指名申請前4か月以内に、それぞれ4週間以上の求人広告を2回実施する労働市場テストです。申請にこぎ着けるまでに、この広告期間と書類準備だけで最低8〜10週間を見込んでください。処理期間はそれに加わる、予測できない期間です。
米国(O-1)通常審査の安定した目安はありません。プレミアム処理は実際に存在する有料の公式基準で、USCISは米ドル2,965の手数料で15暦日以内に承認・不許可・追加資料要求のいずれかを行うとしています。通常審査は幅を持たせて予測不能なものとして扱ってください。
米国(E-2)USCISではなく米国大使館・領事館に直接申請するため、審査期間として引用できる数字がありません。2025年9月2日以降、ほぼ全申請者に対面面接が課されており、大使館の面接枠の空き状況が、確認できなかった変数です。書類準備とは別に、面接待ちの期間を見込んでください。
カナダ(LMIA高賃金枠)申請前の3か月以内に、少なくとも4週間の求人広告が必要。直近の平均処理期間(2026年8月):90営業日。
カナダ(LMIA低賃金枠)2026年7月9日以降、8週間連続の求人広告が必要。失業率6%以上の都市圏では処理されません。直近の平均処理期間:82営業日。
マレーシア(Employment Pass)ESDが示す目安:会社登録5営業日、MYFutureJobsでの求人掲載10営業日、支援レター3営業日(ファストトラック)/10営業日(通常)、EP申請2営業日(ファストトラック)/5営業日(通常)
英国(Skilled Worker)2025年7月22日以降、Chef(5434)は新規の海外採用が事実上できません。

日本側でかかる期間

4. 実例で見る:シンガポールの逆算スケジュール

2027年10月1日の開業を目標に、日本から料理長を1名、Employment Passで呼ぶケースを見てみます。今回の一覧の中で、審査期間の公式な目安が公表されているのはシンガポールだけなので、推測に頼らず組み立てられる、最も明確な通しのスケジュールになります。

時期(2027年10月1日から逆算)やること担当
12か月前(2026年10月頃)シンガポール法人の設立。業態の確定と、想定する料理人の年齢・給与でのCOMPASSポイントの確認。料理人のCOMPASSポイントを参照。本部/現地代表
4か月前(2027年6月上旬)日本の料理人候補と、COMPASSとEPの給与基準を満たす条件で内定を書面で合意。オーナー、料理人候補
10週間前(2027年7月中旬)適用除外に該当しない限り、MyCareersFutureに最低14暦日の求人広告を掲載。FCFのガイドを参照。オーナー/人事
8週間前(2027年8月上旬)求人広告期間の終了。FCF広告の参照番号、COMPASSの申告内容、添付書類とともにEPOLでEP申請。オーナー/人事
その約10営業日後MOMの公表基準どおりの審査結果。承認されれば内定通知(In-Principle Approval、IPA)が発行される。MOM
6週間前IPAを受け取ってから、それより前ではなく、料理人が日本で退職。在留届の提出、書類の翻訳など出国手続きを開始。料理人
2〜3週間前料理人がシンガポールへ渡航。EPカードの発行と本人受け取り。料理人、オーナー
1〜2週間前受け入れ、献立と仕入れの最終決定、プレオープン。オーナー、料理人

このスケジュールを成立させている唯一のポイントは、IPAが発行されるまで料理人に退職を求めないことです。その時点までは、何かがずれても低いコストで引き返せます。その時点を過ぎると、何かが崩れたときに料理人には日本に戻る仕事がありません。

5. 開業12か月前からの一般的なスケジュール

出店先がシンガポールでない場合は、この型を調整してください。ビザの審査期間が長い国では前倒しし、短い国では後ろにずらします。国別の詳しい版は、ニューヨーク、ロサンゼルス、バンコクなどの出店人材計画にあります。この表は、それらのページが使っている方法論であって、現地の詳細の代わりではありません。

時期人材面でやること
開業12〜10か月前業態と役割の確定。日本から呼ぶ人数の決定。ビザ経路と給与基準の確認。現地専門家の選定
9〜8か月前日本での料理長の募集開始(社内異動なら候補者の打診)。現地法人の設立と雇用主登録
7〜6か月前料理長候補の面接と内定。必要な国では現地求人広告。ビザ書類の準備
6〜4か月前雇用主側の申請と個人のビザ申請。退職手続きは雇用主側の承認後に開始
4〜3か月前現地の管理職の採用。料理長とのオンライン打ち合わせ(献立・仕入れ)
3〜2か月前ビザ取得、渡航・住居の手配。現地の一般スタッフの募集開始
2〜1か月前料理長の着任。現地採用の確定と研修開始。試作とメニュー確定
1か月前〜開業プレオープン、オペレーションの調整

ポイントは、料理長の着任を開業の1〜2か月前に置くことです。着任が開業直前になると、現地スタッフの研修と試作の時間がなくなり、料理長本人も生活の立ち上げと開業準備を同時に抱えることになります。

6. 計画が崩れたとき:遅延・不許可・辞退

上記のスケジュールは、何も崩れないという前提です。崩れたときにどうするかも決めておきます。

事態影響今からやっておくこと
ビザやIPA発行後に開業が延期多くの承認には入国に使える有効期間(多くはおおむね半年程度)があり、延期が長引くと再申請が必要になることがあります。料理人がすでに入国していれば、開業していなくても税務上の居住地判定の日数計算は進みます。内装工事のスケジュールが必要とする以上に早く料理人を呼ばない。渡航日を決める前に、承認の入国有効期間を発給当局に確認する。
ビザや指名が不許可料理人がまだ退職していなければ巻き戻す辞令はないが、すでに退職していれば費用と遅延が大きい。だからこそ、上記のスケジュールでは承認が出るまで退職を待たせます。ビザ制度が不許可にしうる役割については、別の経路や別候補という書面での代替案を用意しておく。
料理人が遅い段階で辞退(退職後、渡航前)開業日は決まっているのに料理長が不在になる。日本側の辞令を取り消すか配置転換する必要が生じる。すでに払った返還されない政府手数料を失う可能性。面接段階からでも構わないので、次点候補を非公式に温めておく。開業の延期か、現地または副料理長による暫定対応か、どちらでつなぐかを事前に決めておく。

7. 現地採用と日本採用の組み合わせ方

まず現地の日本人を探す

現地にすでに就労資格を持つ日本人がいれば、ビザの問題はありません。外務省の調査では、2025年10月1日時点の海外在留邦人は129万8,170人で、そのうち永住者は58万8,486人です。都市別ではロサンゼルス都市圏63,972人、バンコク51,297人、ニューヨーク都市圏38,251人、シンガポール33,397人、上海31,733人が上位です。出店する都市にどれだけの日本人がいるかは、現地採用の可能性を測る最初の手がかりになります。都市別の詳しいデータは海外在留邦人の都市別データにまとめました。

日本からの採用は「役割の核」に絞る

日本国内の料理人は、有効求人倍率で見ると売り手市場にいます。厚生労働省によれば、飲食物調理従事者の有効求人倍率は2026年7月時点で2.18倍(全職業1.05倍)です。2023年の2.90倍からは下がっていますが、日本国内にも選択肢がある人を海外に呼ぶことに変わりはありません。日本からの採用は、第2章で挙げた「日本人でなければならない役割」に絞るのが、費用と時間の両面で合理的です。

現地の競合状況も見る

農林水産省の調査では、海外の日本食レストランは2025年に約18万1,000店で、2023年の約18万7,000店から初めて減少しました。ただし国によって動きは違い、インドネシア(+2,580店)、ブラジル(+1,670店)、韓国(+1,590店)などは増えています。和食店が急増している国では、和食の経験がある現地スタッフの取り合いになりやすいと考えて、採用の開始を早めてください。

組み合わせの型

型日本から現地の日本人現地採用向いている業態
職人中心型料理長+職人1〜2名ホール責任者補助スタッフカウンター寿司、割烹
料理長集中型料理長1名副料理長またはホール責任者調理・ホールの大半居酒屋、専門店
仕組み移転型立ち上げ要員(期間限定)店長ほぼ全員ラーメン、多店舗展開の業態

8. 立ち上げ応援をどう扱うか

日本の本部から、開業前後の数週間だけ料理長やトレーナーを出張させるケースは多いと思います。ここで注意が必要なのは、短期の商用目的の入国で、厨房に立って調理や接客をすることが認められるかどうかは国によって違うという点です。研修の指導や打ち合わせは認められても、営業中の厨房で働くことは就労とみなされる国もあります。出張者のビザの扱いは、出店先の現地の専門家に事前に確認してください。

9. 開業後12か月の人材計画

日本に店舗がある企業なら、日本の食文化海外普及人材育成事業で日本国内で外国人調理師を育て、帰国後に母国の店に迎えるという、ビザに頼らない中長期の人材計画も考えられます。

変わりうる数字:カナダのLMIA平均処理期間(毎月更新)、厚生労働省の有効求人倍率(毎月)、農林水産省の海外日本食レストラン数(毎年11月頃公表)、外務省の海外在留邦人数(毎年12月頃公表)。シンガポールのEP審査10営業日基準やオーストラリアの労働市場テストのカレンダーは、制度変更がない限り変わりません。次回確認は2027年3月です。

よくある質問

人材計画は開業の何か月前から始めればよいですか。

多くの経路では10〜12か月前です。そうすれば料理長の着任を開業直前ではなく1〜2か月前にできます。シンガポールのEmployment Passは10営業日という公表された審査基準があるため、求人広告と書類さえ整えば比較的短い逆算でも回せますが、オーストラリアは労働市場テストだけで指名申請前に8〜10週間かかります。

料理人はいつ日本の今の職場を退職すべきですか。

雇用主側のビザの手続き(Employment Passの内定通知、指名やスポンサーの承認など)が通ってから、それより前ではありません。早く退職してしまうと、ビザが不許可や遅延になったときに帰る仕事がなくなります。

ビザが出た後に開業が延期になったらどうなりますか。

承認の入国有効期間(多くはおおむね半年程度)を発給当局に確認してください。延期が長引くと再申請が必要になることがあります。料理人がすでに入国していれば、開業していなくても税務上の居住地判定の日数計算は進みます。

料理長は必ず日本から呼ぶべきですか、現地採用でよいですか。

日本からの採用は、日本人でなければ務まらない役割、つまりカウンターに立つ料理人や料理長、日本式の接客が売りならホールの責任者に絞ります。一般の調理・ホールスタッフは、費用と時間の両面で現地採用のほうが合理的です。

本部からの出張者は、短期出張でも厨房に立って調理できますか。

国によります。研修や打ち合わせは商用訪問の範囲内と扱う国でも、営業中に厨房に立って調理することは就労とみなし、労働許可が必要になる場合があります。立ち上げ応援の予定を組む前に、現地のルールを確認してください。

本記事は一般的な情報であり、法務・入管に関する助言ではありません。ビザの要件と審査期間は国や時期によって変わります。スケジュールは計画の型を示したもので、実際の所要期間は下記の一次情報と現地の専門家にご確認ください。

出典

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