給与・コスト

社会保障協定と料理人:海外派遣の年金・保険

日本の社会保障協定は24か国と発効済みで、シンガポールや香港、UAEとは結ばれていません。対象制度の国別の違い、5年ルール、米国の6か月ルール、適用証明書の手続きを日本年金機構の資料で整理します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 社会保障協定が解決する2つの問題
  2. 協定のある国・ない国
  3. 国によって対象の制度が違う
  4. 誰がどちらの制度に入るか
  5. 適用証明書の手続き
  6. 和食店でよくあるケース

日本の外食企業が料理人を海外店舗に送るとき、あるいは海外の和食店が日本の会社に在籍したままの料理人を受け入れるとき、年金や医療保険の保険料を日本と現地の両方で払うことになるのかは、人件費に直結する問題です。その答えを決めるのが、日本と相手国が結ぶ社会保障協定です。

この記事では、日本年金機構と厚生労働省の公表資料をもとに、料理人の派遣・採用に関わる範囲に絞って協定の仕組みを整理します。

1. 社会保障協定が解決する2つの問題

日本年金機構によると、社会保障協定は次の2つを目的に結ばれています。

ただし、英国、韓国、中国、イタリアとの協定は「保険料の二重負担防止」のみで、加入期間の通算は含まれていません。

2. 協定のある国・ない国

厚生労働省の資料によると、2026年6月2日時点で協定が発効しているのは次の24か国です。

発効年月
2000年2月〜2009年6月ドイツ(2000年2月)、英国(2001年2月)、韓国(2005年4月)、アメリカ(2005年10月)、ベルギー(2007年1月)、フランス(2007年6月)、カナダ(2008年3月)、オーストラリア(2009年1月)、オランダ(2009年3月)、チェコ(2009年6月)
2010年12月〜2019年9月スペイン(2010年12月)、アイルランド(2010年12月)、ブラジル(2012年3月)、スイス(2012年3月)、ハンガリー(2014年1月)、インド(2016年10月)、ルクセンブルク(2017年8月)、フィリピン(2018年8月)、スロバキア(2019年7月)、中国(2019年9月)
2022年2月〜2025年12月フィンランド(2022年2月)、スウェーデン(2022年6月)、イタリア(2024年4月)、オーストリア(2025年12月)

このほか、ポーランドが署名済み(2026年4月)、トルコ、ノルウェー、ベトナムが政府間交渉中、タイが予備協議中等とされています。

和食店の出店が多い国でも、シンガポール、香港、台湾、マレーシア、インドネシア、UAEなどとは協定がありません。これらの国に日本の会社から派遣する場合、協定による調整は使えません。

3. 国によって対象の制度が違う

協定の対象になる制度は国ごとに異なり、対象外の制度はそれぞれの国の法令に従って適用されます。日本年金機構の一覧から、和食店の多い国を抜き出すと次のとおりです。

相手国日本側の対象相手国側の対象期間通算
アメリカ公的年金、公的医療保険公的年金(社会保障制度)、公的医療保険(メディケア)あり
英国公的年金公的年金なし
韓国公的年金公的年金なし
中国公的年金公的年金(被用者基本老齢保険)なし
カナダ公的年金公的年金(ケベック州年金制度を除く)あり
オーストラリア公的年金退職年金保障制度(スーパーアニュエーション)あり
フランス公的年金、公的医療保険公的年金、公的医療保険、公的労災保険あり
ドイツ公的年金公的年金あり
オランダ公的年金、公的医療保険公的年金、公的医療保険、公的雇用保険あり
ブラジル公的年金公的年金あり

たとえば英国に派遣する場合、年金は日本の制度だけで済んでも、協定の対象外の制度は英国の法令に従って扱われます。「協定があるから現地の社会保険は一切かからない」とは限らない点に注意してください。

4. 誰がどちらの制度に入るか

日本年金機構によると、協定では原則として働いている国の制度だけに加入します。その例外が、日本の事業主による一時派遣です。

就労状況加入する制度
日本の事業主による派遣で、5年以内と見込まれる日本の制度のみ
上記の派遣が予見できない事情で5年を超える原則として相手国の制度。両国の合意が得られれば日本の制度
5年を超えると見込まれる派遣相手国の制度のみ
相手国での現地採用相手国の制度のみ

協定ごとの違いもあります。

加入免除期間の延長が認められず相手国の年金制度に加入することになった場合でも、厚生年金保険に任意で加入し続けられる「特例加入制度」があります。この場合、相手国の制度が強制加入、日本の制度が任意加入となります。

5. 適用証明書の手続き

一時派遣で相手国の制度の免除を受けるには、日本の制度に加入していることを証明する「適用証明書」が必要です。

  1. 日本の事業主が「適用証明書交付申請書」を提出します。就労開始予定日のおおむね6か月前から提出できます。
  2. 厚生年金保険の申請書の郵送先は、日本年金機構 社会保障協定担当(東京都調布市)です。窓口で提出する場合や相談は、最寄りの年金事務所で受け付けています。国民年金の申請書は最寄りの年金事務所に提出します。
  3. 交付された適用証明書を、派遣された本人が相手国の事業所に提出します。当局から求められたときも提示します。
  4. 派遣期間を延長する場合は「適用証明書期間継続・延長申請書」を、紛失した場合は「適用証明書再交付申請書」を提出します。

逆に、長期派遣などで相手国の制度だけに加入する場合は、事業主が厚生年金保険・健康保険の資格喪失届を年金事務所に出します。喪失原因は「社会保障協定」を選び、相手国の制度に加入したことがわかる書類を示します。

6. 和食店でよくあるケース

ケース加入先の考え方
日本本社の料理長を米国の子会社に3年出向させる6か月ルールを満たせば日本の制度のみ。適用証明書を取得
日本で新たに採用した料理人を翌月から米国へ送る派遣直前の6か月の条件を満たさず、米国の制度が免除されない可能性がある
シドニーの店で、日本から来た料理人を現地法人が直接雇う現地採用のため豪州の制度のみ
シンガポールの店に日本本社から出向させる協定がないため調整はない。日本の会社から給与が出ていれば日本の制度は原則継続し、現地の制度の扱いは現地の法令による
英国に出向させる年金は日本の制度のみ。協定対象外の制度は英国の法令による

出向と現地採用の違いは海外赴任と現地採用の違い、健康保険の扱いは料理人の年金・健康保険の扱い、国別の人員計画はロサンゼルスシドニーの出店記事をご覧ください。

本記事は一般的な情報であり、社会保険に関する助言ではありません。協定の内容や運用は協定ごとに異なり、改正されることがあります。2026年9月時点で確認した下記の一次情報をご確認のうえ、年金事務所や社会保険労務士にご相談ください。

出典

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