給与・コスト

社会保障協定と料理人の海外派遣:適用証明書

日本の社会保障協定は2026年6月2日時点で24か国と発効済みで、シンガポール・香港・台湾・UAEとは結ばれていません。対象制度の国別の違い、5年ルール、米国の6か月ルール、協定がない場合のコスト、適用証明書の手続きを整理します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

日本は2026年6月2日時点で24か国と社会保障協定を発効しており、日本の会社が海外に派遣する料理人は、多くの場合、適用証明書を取得すれば日本の年金制度だけに加入し、二重の保険料負担を避けられます。これは料理人が日本の会社に在籍したまま海外で働く場合に限られ、現地で直接雇われる場合は現地の制度に加入します。シンガポール、香港、台湾、UAEとは協定がなく、これらの国への派遣では調整を受けられません。

本ページは、日本の会社に在籍したまま海外に料理人を派遣する場合の制度設計とコスト計算を行う、日本本社の担当者向けです。現地の会社が料理人を直接雇う場合はこのページの対象外です。海外赴任と現地採用の違いをご覧ください。料理人本人の年金・健康保険の選択肢や海外療養費については料理人の年金・健康保険の扱い、同じ派遣に関する税の居住者判定は海外勤務の料理人の税金をご覧ください。

目次

  1. まず自社に関係あるかを確認
  2. 社会保障協定が解決する2つの問題
  3. 協定のある国・ない国
  4. 国によって対象の制度が違う
  5. 誰がどちらの制度に入るか:5年ルール
  6. 協定がない場合のコスト
  7. 適用証明書の手続き
  8. 和食店でよくあるケース

1. まず自社に関係あるかを確認

読み進める前に2つを確認してください。海外赴任(出向):料理人は日本の雇用契約を維持したまま、日本の会社から給与の一部または全部が支払われて海外で働きます。この場合は本ページの対象です。現地採用:海外の会社が料理人を直接雇い、日本側の雇用主が存在しなくなります。この場合、申請できる協定はなく、料理人は初日から現地の制度に加入し、日本の制度は終了します。海外赴任と現地採用の違いをご覧ください。

2. 社会保障協定が解決する2つの問題

日本年金機構によると、社会保障協定は次の2つを目的に結ばれています。

ただし、英国、韓国、中国、イタリアとの協定は二重負担の防止のみで、期間の通算は含まれていません。

3. 協定のある国・ない国

2026年6月2日時点で協定が発効しているのは次の24か国です(厚生労働省の資料を、日本年金機構のサイトで直接確認)。

発効年月国
2000年2月〜2009年6月ドイツ(2000年2月)、英国(2001年2月)、韓国(2005年4月)、アメリカ(2005年10月)、ベルギー(2007年1月)、フランス(2007年6月)、カナダ(2008年3月)、オーストラリア(2009年1月)、オランダ(2009年3月)、チェコ(2009年6月)
2010年12月〜2019年9月スペイン(2010年12月)、アイルランド(2010年12月)、ブラジル(2012年3月)、スイス(2012年3月)、ハンガリー(2014年1月)、インド(2016年10月)、ルクセンブルク(2017年8月)、フィリピン(2018年8月)、スロバキア(2019年7月)、中国(2019年9月)
2022年2月〜2025年12月フィンランド(2022年2月)、スウェーデン(2022年6月)、イタリア(2024年4月)、オーストリア(2025年12月)

この24か国のほかにも、署名済みで未発効の協定や交渉中の協定がいくつかあります。公式ページごとに日付の記載が食い違っており、信頼できる一つの情報源に絞れませんでした。上記にない国を対象と思い込む前に、厚生労働省の最新の一覧を確認してください。

シンガポール、香港、台湾、マレーシア、インドネシア、UAEなど、和食店の出店が多い国の一部には協定そのものがありません。これらの国へ派遣しても、協定による調整は受けられません。

4. 国によって対象の制度が違う

協定の対象になる制度は国ごとに異なり、対象外の制度はそれぞれの国の法令に従って適用されます。つまり協定があっても現地の社会保険が一切かからないとは限りません。

相手国日本側の対象相手国側の対象期間通算
アメリカ公的年金、公的医療保険社会保障制度、メディケアあり
英国公的年金公的年金なし
韓国公的年金公的年金なし
中国公的年金被用者基本老齢保険なし
カナダ公的年金公的年金(ケベック州年金制度を除く)あり
オーストラリア公的年金退職年金保障制度(スーパーアニュエーション)あり
フランス公的年金、公的医療保険公的年金、公的医療保険、公的労災保険あり
ドイツ公的年金公的年金あり

英国を例にとると、年金は日本の制度だけで済んでも、協定の対象外の制度は英国の法令に従って扱われます。

5. 誰がどちらの制度に入るか:5年ルール

原則は、働いている国の制度だけに加入することです。その例外が、日本の事業主による一時派遣です。

就労状況加入する制度
5年以内と見込まれる派遣日本の制度のみ
その派遣が予見できない事情で5年を超える原則として相手国の制度。両国の合意が得られれば日本の制度を延長
当初から5年を超えると見込まれる派遣相手国の制度のみ
相手国での現地採用相手国の制度のみ

海外出店の計画はよく遅れます。「5年以内」の予定が途中で「5年超」に変わる場合、日本の制度だけで済む期間を延長するには両国政府の合意が必要で、自動的な権利ではありません。5年を迎える前に早めに申請し、相手国の当局には、単に計画を後から変えたのではなく、遅れが本当に予見できなかったこと(物件契約の遅延、許認可の遅れなど)を示す根拠を求められると考えてください。

延長が認められない場合は、厚生年金保険に任意で加入し続けられる特例加入制度があり、この場合は相手国の制度が強制加入、日本の制度が任意加入となります。

6. 協定がない場合のコスト

協定の価値は、二重に払わずに済む保険料そのものです。日本の厚生年金と健康保険の保険料は、料理人の標準報酬月額に対する一定の割合で、労使折半で発生し、協定の有無にかかわらず止まりません。同じ料理人を、外国人従業員にも加入を義務づける独自の制度を持つ国に、協定なしで送ると、雇用主は多くの場合、派遣期間中ずっとその制度の事業主負担分も上乗せで払うことになります。

その典型が香港です。日本との協定はなく、強制積立年金制度(MPF)は、短い初期期間を過ぎると出向者を含むほとんどの従業員に適用されます。今回、MPFの現在の料率と対象所得の上限は確認できませんでした。香港への派遣を予算化する前に、強制性公積金計画管理局(MPFA)で最新の数字を確認してください。一方、シンガポールやUAEは外国人従業員に現地の年金への加入を求めていないため、協定がなくても実務上の影響は小さくなりますが、5章の5年ルールや立証の論点は変わらず当てはまります。

7. 適用証明書の手続き

一時派遣で相手国の制度の免除を受けるには、日本の制度に加入していることを証明する「適用証明書」が必要です。

  1. 日本の事業主が申請します。就労開始予定日のおおむね6か月前から提出できます。この期間の範囲でできるだけ早く申請してください。保証された処理期間は公表されていません。
  2. 厚生年金保険の申請書の郵送先は、日本年金機構 社会保障協定担当(東京都調布市)です。窓口での提出や相談は最寄りの年金事務所へ。
  3. 交付された証明書を、派遣先の海外の事業所に提出し、当局から求められたときも提示します。
  4. 派遣を延長する場合は、期限が切れる前に継続・延長の申請を出します。紛失した場合は再交付の申請が必要です。

逆に相手国の制度だけに加入する場合は、事業主が資格喪失届を年金事務所に出し、喪失原因を「社会保障協定」とし、相手国の制度に加入したことがわかる書類を添えます。

8. 和食店でよくあるケース

ケース加入先の考え方
日本本社の料理長を米国の子会社に3年出向させる6か月ルールを満たせば日本の制度のみ。適用証明書を取得する。
日本で新たに採用した料理人を翌月から米国へ送る派遣直前の6か月の条件を満たさず、米国の制度が免除されない可能性がある。
シドニーの店で、日本から来た料理人を現地法人が直接雇う現地採用のため豪州の制度のみ。証明書は関係しない。
シンガポールや香港の店に日本本社から出向させる協定がないため調整はない。日本の会社から給与が出ていれば日本の制度は原則継続し、現地の制度があれば現地法令のとおり適用される。
英国に出向させる年金は日本の制度のみ。協定対象外の制度は英国の法令による。

国別の人員計画はロサンゼルス・シドニーの出店記事をご覧ください。

変わる数字:協定発効国の一覧(厚生労働省の2026年6月2日付資料と、日本年金機構のサイトで直接確認し、いずれも24か国で一致)。新しい協定はおおむね年に1件のペースで増えます。次回確認は2027年6月です。

よくある質問

現地採用の料理人にも社会保障協定は適用されますか。

いいえ。協定は、日本の会社に在籍したまま海外に派遣される人だけを対象に加入を調整します。海外の会社が直接雇う料理人は初日から現地の制度に加入し、申請できる適用証明書もありません。

日本とシンガポールの間に社会保障協定はありますか。

ありません。シンガポール、香港、台湾、マレーシア、インドネシア、UAEは、2026年6月2日時点で協定が発効していない国です。これらへの派遣では、両国の制度間の調整は受けられません。

出向はどのくらいの期間まで日本の制度だけで済みますか。

原則5年です。当初から5年を超える見込みの派遣は、最初から相手国の制度が適用されます。本当に予見できなかった事情で5年を超える場合は両国政府の合意で延長できますが、自動ではなく、5年を迎える前に申請する必要があります。

適用証明書はどう取得し、どのくらい時間がかかりますか。

日本の事業主が日本年金機構に申請します。出発のおおむね6か月前から提出可能です。保証された処理期間は公表されていないため、この期間内でできるだけ早く申請し、海外での就労開始前に証明書が交付されているか確認してください。

協定がない場合、コストはどうなりますか。

日本側の保険料は協定の有無にかかわらず発生し続けます。さらに、香港の強制積立年金制度(MPF)のように外国人従業員にも独自の加入を義務づける国では、派遣期間中、その事業主負担分が上乗せになるのが一般的です。シンガポールのように外国人に現地の年金加入を求めない国では、協定がなくても実務上のコスト増は小さくなります。

本記事は一般的な情報であり、社会保険に関する助言ではありません。協定の内容や運用は協定ごとに異なり、改正されることがあります。2026年9月時点で確認した下記の一次情報をご確認のうえ、年金事務所や社会保険労務士にご相談ください。

出典

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