採用の進め方

海外出向の出向契約書ひな形と労働条件通知書の作り方

出向契約書と労働条件通知書の条項ごとのひな形、渡航費返還条項に代わる適法な設計(貸付の段階的免除・段階払いの定着手当)、現地採用の雇用契約までまとめました。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

海外に料理人を出向させるときに必要な書面は2つです。日本の会社と海外の会社の間の出向契約書と、料理人本人への労働条件の明示です。以下に両方の条項ごとのひな形を示し、多くの雇用主が入れたがる「渡航費の返還」条項の代わりに労働基準法第16条に触れない方法も示します。現地採用の場合は、出向契約書ではなく、現地の会社と本人の間の雇用契約書が中心になります。

このページは、これから料理人を出向させる日本の外食企業の人事担当者と、料理人を受け入れる海外のオーナー向けです。出向契約書と労働条件通知書の条項ごとのひな形を示し、現地採用の雇用契約についても扱います。出向と現地採用のどちらを選ぶか、費用の試算例は海外赴任(在籍出向)と現地採用の比較、年金・健康保険の仕組みは料理人の年金・健康保険の扱い、税務上の居住者判定は海外勤務者の税金で解説しており、本ページでは繰り返しません。

目次

  1. 必要な書面は2種類
  2. 出向契約書:条項ごとのひな形
  3. 労働条件通知書:条項ごとのひな形
  4. 条項の根拠となる法令
  5. 返還条項に代わる適法な方法
  6. 現地採用の雇用契約
  7. 作成前のチェックリスト

1. 必要な書面は2種類

書面当事者決めること
出向契約書(出向協定)日本の会社(出向元)と海外の会社(出向先)期間、業務、給与と費用の負担、社会保険の手続き、指揮命令、帰任・中途解約
労働条件通知書(出向命令)日本の会社と料理人本人就業場所と業務、賃金、労働時間、休日、帰任後の扱い

出向には日本の会社、海外の会社、料理人本人の三者が関わるため、両方の書面が必要です。2社間の関係は1つ目の書面で決め、料理人本人の労働条件は、2社がどう合意していようと、本人に書面で示す必要があります。以下にそれぞれのひな形を示しますが、これは社会保険労務士や弁護士が手を加える前の出発点であり、そのまま使う契約書ではありません。

2. 出向契約書:条項ごとのひな形

出向契約書
[日本の会社](以下「出向元」)と[海外の会社](以下「出向先」)は、次のとおり出向契約を締結する。

第1条(目的) 出向元は、以下の条件で[氏名](以下「対象者」)を出向先に出向させる。
第2条(期間) [開始日]から[終了日]まで、または[事由]まで。延長は満了の[ ]日前までに両社の書面合意による。
第3条(業務・役職) 対象者は[店舗名・所在地]において[料理長/厨房責任者]として、[献立づくり、厨房の統括、現地スタッフの育成]を行う。
第4条(指揮命令) 出向先が対象者の日々の業務を指示し、勤怠を管理し、評価を行う。雇用関係そのものは出向元に帰属する。
第5条(給与・費用負担) 出向元は[項目・金額・通貨]を支払い、出向先は[項目・金額・通貨]を支払う。出向先は請求から[ ]日以内に出向元に[ ]を精算する、または自ら負担する。
第6条(社会保険・労災) 出向元は[適用証明書/労災の海外派遣者特別加入]を申請し、出向先は[現地保険]を手配する。両社は必要書類の提供について協力する。
第7条(費用) [会社]が赴任・帰任の渡航費、[項目]、ビザ費用、[項目]を負担する。
第8条(帰任・中途解約) 対象者は期間満了時に出向元に帰任する。いずれの会社も、[事由]がある場合は[ ]日前の書面通知により中途解約できるものとし、その場合の[帰国費用、予告期間、引継ぎ]は次のとおりとする。
第9条(服務・現地法令の遵守) 対象者は出向先の就業規則および勤務国の労働法令を遵守する。
第10条(準拠法・紛争解決) 本契約は[準拠法]により、紛争は[管轄]による。

社会保険・税務に直結するのは、期間(1年以上か未満かで所得税の判定が変わり、協定国では5年が社会保険の区切り)、実際にどちらが給与を払うか(出向元の給与規定・出向規定との整合性)、業務と役職(ビザ申請の内容と一致させる)の3点です。

3. 労働条件通知書:条項ごとのひな形

出向命令書 兼 労働条件通知書
[氏名]殿

1. あなたを[出向先会社・店舗名・所在地]に、[役職]として、[開始日]から[終了日]まで出向させる。
2. 業務内容:[内容]。就業場所は[変更の範囲、例:「グループが(国・地域)内で運営する店舗」]の範囲で変更されることがある。
3. 給与:日本払いとして月[ ]円(支払日[ ])、現地払いとして[現地通貨  ](支払日[ ])。換算方法:[方法]。
4. 手当:海外勤務手当 月[ ]円、住居[社宅/手当  円]、赴任・帰任の渡航費支給、一時帰国[頻度]。
5. 労働時間:週[ ]時間(出向先の営業時間・現地法令に準拠)。休日・休暇:[内容]。
6. 社会保険:日本の健康保険・厚生年金は[継続する/継続しない]。[適用証明書を申請する/該当なし]。現地の保険:[内容]。
7. 税務:予定期間[ ]に基づき、日本の税務上は[居住者/非居住者]となる見込み。現地での納税は[担当]が対応する。
8. 帰任後の処遇:[内容、または「帰任の( )か月前までに協議して定める」]。
9. 本通知は労働基準法第15条に基づき交付する。[日付]。[会社名・交付者氏名・役職]。

2の就業場所の変更の範囲の書き方と、8の帰任後の処遇は、後で揉め事になりやすい部分です。細部が本当に未定であっても、できる限り具体的に書いてください。

4. 条項の根拠となる法令

労働契約法第14条は、必要性や人選の事情に照らして権利の濫用と認められる出向命令を無効とするため、なぜこの料理人か、なぜこの期間かを説明できるようにしておきます。労働基準法第15条は雇用契約の締結時に賃金・労働時間その他の労働条件を明示することを義務づけ、同施行規則第5条は2024年4月から就業場所・業務の変更の範囲の明示も求めています。上記2の条項が単一の住所ではなく範囲を書いているのはこのためです。第15条第2項は明示条件が事実と異なる場合の即時解除を認め、第3項は就業のため住居を変更した労働者が解除の日から14日以内に帰郷する場合の旅費負担を使用者に義務づけています。

社会保険については、日本年金機構のリーフレットが、出向元の給与規定・出向規定によって実質的に出向元から支払われていると確認できる海外払いの給与も保険料算定の基礎に含まれるとしており、これが上記の第5条・第6条を出向規定と整合させる必要がある理由です。労災については、厚生労働省が、日本の事業主から海外の事業に派遣される労働者は特別加入できると明記しており、申請は派遣元の事業主が行います。

5. 返還条項に代わる適法な方法

雇用主から最も多い相談は「赴任から2年以内に退職したら渡航費を全額返還させたい」というものです。労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約を禁じています。個別の返還条項がこの規定との関係でどう評価されるかは、条項の書き方と費用の性質によって変わるため、使う前に必ず確認が必要です。「研修費」などの名目をつければ安全になるわけではありません。

代わりに使われる2つの方法があります。

どちらの方法も、労働条件通知書とは別の書面またはその別紙として条件を明記し、第16条との関係、現地採用の場合は勤務国の同様の規制との関係を、必ず弁護士に確認してもらってください。

6. 現地採用の雇用契約

海外の会社が直接雇う現地採用では、出向契約書ではなく現地の雇用契約書が中心になり、勤務国の労働法に従います。最低賃金、労働時間、試用期間、解雇の手続きなどが国ごとに決まっており、就労ビザの審査で雇用契約の内容が確認される国もあります。条項の内容はChef employment contract checklist、その前段階のオファーレターはChef offer letter templateを参考にしてください。日本語と現地語の2言語で作る場合は、どちらの言語版が優先するかを必ず明記し、料理人本人が読める言語の版も渡してください。会社の弁護士しか読めない契約書は、揉め事が起きたとき誰も守りません。

7. 作成前のチェックリスト

  1. 採用時の労働条件通知書に、就業場所の変更の範囲として海外の事業所がすでに含まれているか。
  2. 出向の必要性と人選の理由を説明できるか(労働契約法第14条)。
  3. 出向期間を決めたか、協定国なら5年を超えるかを確認したか。
  4. 給与の支払元を決め、出向規定と整合させたか。
  5. 適用証明書、労災保険の特別加入、現地の保険の申請担当を決めたか。
  6. 勤務国の法令で雇用主負担と定められている費用を確認したか。
  7. 費用回収の条項を入れる場合、貸付の段階的免除か段階払いの手当として構成し、第16条との関係を弁護士に確認したか。

2026年9月27日確認。条項のひな形は労働契約法14条、労働基準法15条・16条、同施行規則5条に基づいており、これらは頻繁には改正されませんが、実際に使う前にe-Gov法令検索で最新版を確認してください。次回確認は2027年9月です。

よくある質問

出向契約書と労働条件通知書は両方とも必要ですか。

はい。出向契約書は2社間の関係(費用負担、保険手続き、帰任)を決めるものです。労働条件通知書は料理人本人が受け取るべきもので、2社間の合意内容にかかわらず労働基準法第15条により交付が義務づけられています。

早期退職した場合に渡航費を返還させることはできますか。

単純な返還条項は、契約不履行への違約金を禁じる労働基準法第16条に触れるおそれがあります。段階的に免除される貸付としての赴任支度金や、段階払いの定着手当であれば、違約金を定めずに近い効果を得られますが、使う前に必ず確認を受けてください。

後で揉めやすい条項はどこですか。

帰任後の処遇(役職・給与・配属)です。何年も先の具体的な役職を今決められなくても、決め方と決める時期だけは明記しておいてください。

出向契約書に給与の支払元を明記する必要はありますか。

必要です。日本の健康保険・厚生年金の「報酬等」に含まれるかどうかは、出向元の給与規定・出向規定に基づいて実質的にどちらが支払っているかで決まるため、契約書の費用負担の条項は、その規定の内容と正確に一致させる必要があります。

現地採用の場合、出向契約書の代わりに何が必要ですか。

海外の会社と料理人本人の間の雇用契約書で、勤務国の法律に従って作成します。条項の内容はChef employment contract checklist、その前段階はChef offer letter templateを参照してください。

本記事は一般的な情報であり、法務・労務に関する助言ではありません。出向契約・雇用契約の有効性や解釈は個別の事情と適用される法令によって異なります。2026年9月時点で確認した下記の一次情報をご確認のうえ、社会保険労務士、弁護士などの専門家に個別の契約書の確認を依頼してください。

出典

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