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海外和食店の多言語マニュアル:写真と数字で伝える1作業1枚のSOP

OSHAの「理解できる言語で訓練」の方針、NYC食品保護証明書の37言語試験、英国FSAの中華料理店向け手順書や写真式の衛生冊子を例に、日本の手順書を出店国の規則に直してから訳す手順、1作業1枚の書式、逆翻訳と版管理を解説します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 「理解できる言語で」は規制側の考え方でもある
  2. 当局自身が多言語・写真で教材を作っている
  3. 日本の手順書をそのまま訳さない
  4. 1作業1枚:マニュアルの書式
  5. 写真の撮り方で、伝わり方が変わる
  6. 翻訳の手順と、訳してはいけない言葉
  7. 開業までに作るマニュアルの一覧
  8. 版の管理と、変更を現場に届ける方法

海外の和食店の厨房では、日本人の料理長、現地採用の料理人、別の国から来た洗い場のスタッフが一緒に働くことが珍しくありません。日本語の手順書を英語に訳しただけでは、英語が得意でないスタッフには伝わらず、写真のない文章は料理長の頭の中にある「正しい状態」を再現できません。この記事では、各国の当局が多言語・写真で衛生教材を作っている実例を手がかりに、開業前に作る多言語マニュアル(SOP)の書式と作り方を示します。

1. 「理解できる言語で」は規制側の考え方でもある

米国労働安全衛生局(OSHA)は、雇用主の責任として「従業員が理解できる言語と語彙で安全衛生の訓練を行うこと」を挙げ、OSHA基準が求める訓練はそうした形で行わなければならないとする方針を示しています。厨房では、洗剤や消毒剤の扱い、刃物、やけど、滑りやすい床など、労働安全の訓練も必要です。英語だけの資料で済ませた結果、スタッフが内容を理解していなければ、訓練をしたことにはなりません。

食品衛生でも同じです。FDAの「Food Code 2022」は、従業員が担当業務に応じた食品安全の訓練(食物アレルギーの知識を含む)を受けていることを責任者が確実にするよう求め、従業員が健康状態を報告する義務について「検証可能な方法で」伝えることも求めています(2-103.11)。検証可能にするには、本人が読める言語の文書に署名をもらうのが確実です。

2. 当局自身が多言語・写真で教材を作っている

多言語化や写真の活用は、飲食店が工夫する以前に、当局が実際に取り組んでいることです。参考になる例を挙げます。

発行元内容(2026年9月確認)マニュアル作りへの示唆
ニューヨーク市保健精神衛生局食品保護証明書の対面講座は英語・ベンガル語・スペイン語、オンライン講座は英語・スペイン語・中国語。最終試験は37言語で受験できる店の責任者を育てる段階から、母語で学べる選択肢がある
ニューヨーク市保健精神衛生局レターグレード(衛生評価)の解説資料「How We Score and Grade」などをスペイン語・繁体字中国語・韓国語でも公開検査の基準を、スタッフの言語で共有できる
ニューヨーク市消費者・労働者保護局Fair Workweek法の労働者向け通知を、英語のほかスペイン語、ベンガル語、中国語など多数の言語で提供労務の掲示物も多言語が前提になっている
英国食品基準庁(FSA)衛生管理の記録ツール「Safer food, better business」に、中華料理店向けの版(2020年1月公開、104ページ)を用意料理のジャンルに合わせて手順を具体化している
ブライトン・アンド・ホーブ市(英国)ヨーク市が作成した、正しいやり方と誤ったやり方を写真で示す衛生冊子(ベンガル語、中国語、トルコ語、各言語と英語の対訳版)を配布。FSAの「4つのC」(加熱、冷却、交差汚染、清掃)に沿った構成文章より写真、正誤を並べて見せる形式が有効

特に最後の例の「正しいやり方と誤ったやり方を写真で並べる」形式は、和食店のマニュアルにもそのまま使えます。「シャリの量」「切り付けの厚さ」「盛り付けの向き」は、文章で説明するより、正解と不正解の写真を並べたほうが早く伝わります。

3. 日本の手順書をそのまま訳さない

日本では、厚生労働省のページで、日本食品衛生協会が作成した「小規模な一般飲食店」向けのHACCP手引書(2017年10月公表、2024年1月改訂)が公開されています。日本の店舗で使っている衛生管理計画がこの手引書に沿っているなら、それが多言語マニュアルの土台になります。

ただし、そのまま訳すのは避けてください。温度の基準、記録の保存期間、アレルゲンの範囲は国によって違います。たとえば、英国の食品法で表示義務があるアレルゲンは14品目で、日本の表示制度とは範囲が異なります。米国のFood Codeは、生の魚を提供する前の冷凍条件や、加熱した食品の冷却時間(2時間で21℃、合計6時間で5℃以下)を定めています。日本の手順書を翻訳する前に、出店国の規則に合わせて中身を直す工程を入れます。

要点:順番は「日本の手順書 → 出店国の規則に合わせて日本語で修正 → 翻訳」です。翻訳してから規則に合わせようとすると、言語の数だけ修正が必要になります。

4. 1作業1枚:マニュアルの書式

厨房で使うマニュアルは、分厚い冊子ではなく、1つの作業を1枚(両面まで)に収めた形が向いています。作業場所に貼れて、差し替えも簡単だからです。1枚に入れる項目は次のとおりです。

項目書き方例(出汁の冷却)
作業名・番号・版番号と版数、改訂日を右上にK-07 出汁の冷却 第2版 2026年9月
いつ・誰がポジション名で書く(個人名にしない)仕込み担当、出汁を取った直後
道具写真つきで浅いバット、氷水、芯温計
手順1行1動作、番号つき、写真1枚ずつ1. 浅いバットに小分けする 2. 氷水にあてて混ぜる 3. 2時間後に芯温を測る
基準値数字で書く(温度、時間、重さ)2時間以内に21℃、合計6時間以内に5℃以下(出店先の規則に合わせる)
だめな例写真で大鍋のまま冷蔵庫に入れる
基準を外れたら誰に言い、何をするか責任者に報告し、指示に従う(再加熱か廃棄)
記録どの記録表に書くか冷却記録表

言語は、1枚の中に日本語と現地の共通語(英語など)を並べ、必要に応じて3つ目の言語を加えます。言語ごとに別の紙を作ると、改訂したときに片方だけ古いまま残りやすくなります。

5. 写真の撮り方で、伝わり方が変わる

写真を中心にしたマニュアルは、写真の質で出来が決まります。開業前の試作の段階で、次の点を守って撮っておくと、後から撮り直す手間が省けます。

写真は、料理長が作った「正解」の記録でもあります。料理長が交代したり、日本からの支援者が帰国したりしても、写真が残っていれば基準を保てます。

6. 翻訳の手順と、訳してはいけない言葉

翻訳は、次の順で進めると誤りが減ります。

  1. 用語集を先に作る:「仕込み」「シャリ」「ネタ」「煮切り」など、店で使う言葉を50〜100語ほど一覧にし、各言語での言い方を決めます。和食の用語は無理に訳さず、日本語の読み(shari、neta)をそのまま厨房の共通語にしたほうが混乱しないこともあります。
  2. 翻訳する:機械翻訳を使う場合も、用語集の言葉に置き換えてから確認します。
  3. 逆翻訳で確認する:翻訳したものを別の人に日本語へ訳し戻してもらい、元の意味とずれていないか見ます。特に数字、否定(〜しない)、条件(〜の場合)がずれやすい箇所です。
  4. その言語を話すスタッフに実演してもらう:マニュアルだけを見て作業してもらい、写真どおりの状態になるかを確認します。

訳さずにそのまま残すべきものもあります。アレルゲン名は、出店国の法令上の名称(英国なら14品目の英語名)で統一します。温度と時間の数字は、単位を含めて全言語で同じ表記にします(℃と°Fを併記するなら全言語で併記)。

7. 開業までに作るマニュアルの一覧

全部を開業前にそろえる必要はありません。事故につながる作業から優先します。

開業前に必須とした項目の多くは、厨房研修でそのまま教材として使えます。アレルゲンの一覧表はアレルゲン表、メニューの翻訳はメニュー翻訳で扱っています。

作成の分担と時間の目安

マニュアル作りは、料理長1人に任せると開業準備と重なって進みません。料理長は手順と基準値を決めて実演する役、店長は書式に落とし込んで写真を撮る役、各言語を話すスタッフは翻訳の確認と実演の役、というように分けます。1作業1枚の形なら、実演・撮影・下書き・翻訳・確認まで、1枚あたり半日から1日程度を見込んで、開業前に必須の項目から順に日程を組みます。

8. 版の管理と、変更を現場に届ける方法

開業直後は、手順の変更が頻繁に起きます。変更のたびに次のことを守ると、古いマニュアルが現場に残るのを防げます。

マニュアルが整っていると、日本から来た立ち上げ担当者が帰国した後も同じ品質を保ちやすくなります。引継ぎの進め方は日本からの立ち上げ支援を参照してください。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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