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日本からの海外店舗立ち上げ支援:ビザ・社会保険・税の確認と帰国後も続く引継ぎ

労災の「出張」と「派遣」の区別、米B-1・英国訪問者・シンガポール就労パス免除・豪州400ビザで調理できるかの線引き、社会保障協定の5年ルール、1年以上なら非居住者となる税の扱いを公式情報で確認し、レシピや判断基準の引継ぎと条件で決める帰国の進め方を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 「出張」で行くか「派遣」で行くか
  2. 短期の入国資格でできること、できないこと
  3. 社会保険:社会保障協定と「5年」の目安
  4. 税金:1年以上の予定なら非居住者
  5. 引き継ぐもの:頭の中にあるものを紙にする
  6. 帰国日は日付ではなく条件で決める
  7. 出発前の確認リスト

海外に1号店を出すとき、日本の本店から料理長やベテランの社員を送り、開業と立ち上げを支援させる会社は多いはずです。問題は、その社員が帰国した後です。味が変わる、仕込みの手順が崩れる、発注の判断ができない。日本人社員がいた間は回っていた店が、帰国とともに回らなくなるのは、引き継ぐべきものが社員の頭の中に残ったままだったからです。この記事では、日本から社員を送る前に確認すべき入国資格・社会保険・税金・労災の制度と、帰国後も運営が続く引継ぎの進め方を示します。

1. 「出張」で行くか「派遣」で行くか

最初に決めるのは、社員を「日本の会社の出張者」として送るのか、「現地法人に所属する派遣者(出向者)」として送るのかです。この区別は、労災保険、社会保険、税金、入国資格のすべてに影響します。

厚生労働省の労災保険の説明では、「海外出張者」は国内の事業場に所属し、その使用者の指揮に従って海外で働く人で、特別な手続きなしに国内の事業場の労災保険で給付を受けられます。一方、「海外派遣者」は海外の事業場に所属し、その使用者の指揮に従って働く人で、特別加入の手続きをしていなければ労災保険の給付を受けられません。例として、海外関連会社(現地法人や合弁会社)への出向は「派遣」に挙げられています。どちらに当たるかは、勤務の実態で総合的に判断されます。

現地法人の店で、現地の店長の指示を受けながら数カ月働くなら、名目が出張でも実態は派遣と判断される可能性があります。数カ月単位で送る場合は、労災の特別加入を検討してください。

2. 短期の入国資格でできること、できないこと

日本から立ち上げ支援に行く社員が最も気をつけるべきなのが、入国資格です。短期の商用の資格で入国できても、店で客に出す料理を作ったり、接客したりすることは、多くの国で認められていません。主な国の公式な規定は次のとおりです。

国公式の規定(2026年9月確認)立ち上げ支援への影響
米国国務省規則(22 CFR 41.31)は、B-1(商用)でいう「商用」を、会議、協議などの商業的・専門的な正当な活動とし、「現地での雇用や、報酬を得るための労働」を含まないと定めている店の厨房で営業のために調理することは、商用の範囲に入らない可能性が高い。就労資格が必要か、大使館・移民弁護士に確認する
英国訪問者の許可活動(Appendix Visitor: Permitted Activities)では、海外企業の従業員は、同じ企業グループの英国の従業員との社内プロジェクトで、助言、トラブル対応、研修の提供、技能と知識の共有ができる(PA 5.1)。ただし、英国の組織で役割を埋めたり、短期の代替要員になったりしてはならず、英国側から報酬を受けてはならない(V 4.5、V 4.6)現地スタッフへの研修と指導は可能な範囲がある。料理長の代わりに厨房に立つことは認められない
シンガポール就労パス免除活動(Work Pass Exempt Activities)は、暦年で合計90日まで、入国後・開始前に人材開発省への届出が必要。新しい事業の工程に関する知識の移転などは免除対象になり得るが、一般の人への商品・サービスの販売を伴う活動は対象外。職場での実地研修(on-the-job training)を受ける場合は就労パスが必要客に出す料理を作る作業は免除の範囲外。調理を伴う支援は就労パスを前提に計画する
オーストラリア一時就労(短期専門家)ビザ(サブクラス400)は、国内で見つけにくい高度に専門的な技能で、短期かつ継続しない仕事をするためのもの。付与期間は最長6カ月で、3カ月を超える滞在には強い事業上の理由が必要立ち上げ支援が「高度に専門的」と認められるかは個別の審査による

要点:「短期間だから観光・商用の資格で大丈夫だろう」という判断は危険です。店で調理・接客をする予定があるなら、出発の数カ月前に大使館や現地の専門家に確認し、就労資格の取得を前提に日程を組んでください。資格の制約上、研修と指導に徹する形で計画するのも一つの方法です。

日本人の料理人を現地で長期雇用する場合の就労ビザは、国別の採用記事で扱っています(→シンガポール、ニューヨーク、ロンドン、オーストラリア)。

3. 社会保険:社会保障協定と「5年」の目安

日本の会社から海外に社員を送ると、日本と現地の両方で社会保険に加入しなければならない場合があります。これを防ぐのが社会保障協定です。日本年金機構によると、協定相手国へ事業主が5年を超えない見込みで派遣する場合は、引き続き日本の制度だけに加入し、相手国の制度への加入が免除されます。5年を超える見込みなら、相手国の制度だけに加入します。免除を受けるには、日本の事業主が年金事務所に「適用証明書交付申請書」を出し、交付された適用証明書を派遣先の事業所に提出します。申請は就労開始予定日のおおむね6カ月前からできます。

協定の対象となる制度は国によって違います。和食店の出店が多い国の例は次のとおりです(日本年金機構の一覧による)。

一方、シンガポール、香港、アラブ首長国連邦、ニュージーランドは、この一覧に含まれていません。協定がない国では、現地の制度への加入義務があるかを国ごとに確認する必要があります。なお、シンガポールの中央積立基金(CPF)は、国民と永住者が対象の制度です。

4. 税金:1年以上の予定なら非居住者

国税庁の説明では、日本の所得税法上の「居住者」は、国内に住所を有するか、引き続き1年以上居所を有する個人です。役員や使用人が海外の支店などに1年以上の予定で転勤した場合は、一般的に非居住者となり、1年未満の予定なら居住者のままです。

非居住者になった使用人が海外での勤務に対して受ける給与は国内源泉所得に当たらず、日本での源泉徴収は不要です。ただし、日本の会社の役員として受ける報酬は、海外勤務に対するものでも国内源泉所得となり、20.42%で源泉徴収が必要です(海外支店長など使用人として常時海外で勤務している場合を除く)。オーナー社長や取締役が現地に長期滞在して立ち上げに当たる場合は、この点を税理士に確認してください。

租税条約には、短期間だけ相手国で働く人の給与を免税とする規定(短期滞在者免税)が置かれていることがあります。国税庁は、非居住者が一時的に日本で勤務した場合に日本の所得税が免除される例として、いずれの12カ月の間でも日本での滞在が合計183日以下であること、日本の雇用者から給与が支払われないこと、日本にある支店等が給与を負担しないことをすべて満たす場合を挙げています。出店国側で同じような免税を受けられるかどうかも、出店国との条約とその国の税務当局の案内で確認します。要件は条約ごとに違います。

5. 引き継ぐもの:頭の中にあるものを紙にする

制度の確認が済んだら、立ち上げ支援の本題である引継ぎの中身を決めます。日本から来た社員が帰国した後に困ることは、ほぼ次の表に集約されます。

引き継ぐもの形完了の判定
レシピグラム単位の分量、手順、完成写真、許容範囲(味・重さ・温度)現地の料理人がレシピだけで作り、日本側が試食して合格
食材の規格魚の種類・サイズ・鮮度の基準、代替品のリスト、仕入先ごとの注文方法現地の責任者が1人で発注し、受け入れの可否を判断できる
衛生の手順冷凍・冷却などの記録表と、その国の規則に合わせたマニュアル保健当局の検査を現地の責任者だけで受けられる
人の育成研修計画、ポジションごとの技能チェック表現地の責任者が新人を1人で育てられる
判断の基準決裁表、品切れ・メニュー変更の判断基準日本側に確認せずに、決裁表どおりの判断が続いている
取引先との関係仕入先、設備業者、清掃業者の担当者と連絡先現地の責任者が直接やり取りしている

レシピとマニュアルの書き方は多言語マニュアル、決裁表はオーナーと店長の決裁で扱っています。

6. 帰国日は日付ではなく条件で決める

立ち上げ支援の期間は、ビザや社内の都合から「3カ月」「半年」と日付で決めがちです。しかし、引継ぎが終わっていないまま帰国日を迎えると、店の品質は帰国の翌週から落ち始めます。帰国の判断は、上の表の「完了の判定」がそろったかどうかで行います。

その際、いきなり全面的に離れるのではなく、段階を踏むと失敗が減ります。

  1. 常駐期:日本の社員が毎日店に立ち、現地の責任者と一緒に作業する。
  2. 見守り期:日本の社員は厨房に入らず、現地の責任者が作業するのを見て、終わった後に指摘する。料理長のいない日の予行演習と同じ考え方です。
  3. 遠隔期:帰国後、週1回のオンライン会議と、月1回の試食(写真と数値の報告)で品質を確認する。
  4. 定期訪問:半年〜1年ごとに訪問し、レシピとマニュアルの改訂を行う。

入国資格の制約で滞在期間が短くなる場合は、常駐期を短くし、その分、出発前に日本でレシピとマニュアルを仕上げておくことが重要になります。現地の責任者を日本の本店で研修させる方法もありますが、その場合は日本側の在留資格の要件を確認する必要があります。立ち上げの成果をどう評価するかは、開業チームの評価を参照してください。

7. 出発前の確認リスト

日本から社員を送る前に、人事・総務の担当者と一緒に次の項目を確認します。

このリストのうち、入国資格と社会保険は、手続きに数カ月かかることがあります。開業日から逆算し、物件の契約とほぼ同じ時期に確認を始めるのが安全です。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

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