海外出店|衛生・品質管理

海外和食店の衛生管理計画:生魚・寿司飯・出汁を工程で分けて管理する

米国Food Code 2022、NYC保健法典、英国SFBB、シンガポールSAFE制度、豪州3.2.2A、厚労省手引書をもとに、和食メニューを3工程に分け、生魚の凍結記録や寿司飯のpH管理、冷却基準、従業員の健康管理と責任者資格を計画書に落とす手順を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 国ごとに「計画」の呼び方は違うが、中身はほぼ同じ
  2. 共通の土台:Codex HACCPの7原則と、飲食店向けの簡略版
  3. 和食メニューを3つの工程グループに分ける
  4. 和食特有の管理点:生魚、寿司飯、出汁、鶏肉
  5. 計画に「人」の管理を入れる:米国の食中毒調査から
  6. 誰が計画の責任者になるか:国別の資格要件
  7. 計画書の書き方と見直しの手順

海外で和食店を開くとき、衛生管理計画は「開業許可のために出す書類」と受け止められがちです。しかし、実際に検査官が見るのは、書類に書いた管理が厨房で毎日行われ、記録として残っているかどうかです。この記事では、米国FDAのFood Code 2022、英国食品基準庁(FSA)、シンガポール食品庁(SFA)、豪州・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)、日本の厚生労働省の手引書を材料に、和食店の衛生管理計画を工程ごとに組み立てる方法を整理します。温度や時間の数字は2026年9月時点で各機関の公開文書を確認したものです。

1. 国ごとに「計画」の呼び方は違うが、中身はほぼ同じ

主要な出店先では、飲食店に何らかの形でHACCP(危害要因分析重要管理点)の考え方に基づく衛生管理を求めています。ただし、求め方と書類の名前は国によって違います。

国・地域飲食店に求められるもの記録・責任者
米国(FDA Food Code 2022を採用する州・郡)Food Codeは州や郡が採用するモデル規則。温度・時間などの基準を守るのが原則で、酢で寿司飯を常温保管可能にするなど基準外の方法をとる場合は、事前に行政の「バリアンス(特例承認)」とHACCPプランが必要(3-502.11、8-201.13)責任者(Person in Charge)は認定食品保護管理者(CFPM)であること(2-102.12)
ニューヨーク市保健法典第81条。市の基準と異なる方法で調理・保管する場合はHACCPプランを保健局に提出し承認を得る。記録は喫食後90日以上保管(§81.06)食品保護証明(Food Protection Certificate)の保有者が営業時間中は常に店内で監督(§81.15)
英国(イングランド・ウェールズ)文書化した食品安全管理システムが必要で、HACCP原則を満たすこと。小規模店向けにFSAが「Safer food, better business(SFBB)」パックを提供SFBBでは日々の記録を「ダイアリー」に残し、検査官の訪問まで保管
シンガポール食品安全管理システム(FSMS)は現在、ケータリング事業者に義務。2026年1月19日に始まったSAFE制度で、厨房16㎡以上の飲食店(カテゴリー1)は上級食品衛生責任者(AFHO)の任命とFSMSの導入がA評価の条件になる予定(第2段階、詳細は2027年までに公表)一定規模以上の店は食品衛生責任者(FHO)の登録が必要
豪州Standard 3.2.2A(2023年12月施行)。生の食材から、そのまま食べる要温度管理食品を作るレストランは「カテゴリー1」で、3つの管理ツールすべてが必要食品安全監督者(FSS)の任命、従業員研修、温度管理・洗浄の記録(3か月保管)
日本(参考)2021年6月1日から原則すべての食品等事業者に「HACCPに沿った衛生管理」を求めている。小規模飲食店は業界団体の手引書を使える手引書では記録を1年間程度保管するよう勧めている

表の右側を見ると、どの国でも「責任者」「手順」「記録」の3点がそろっていることが分かります。日本で手引書に沿って衛生管理計画を作っている店なら、その骨格を持ち出して、出店先の温度基準と記録要件に置き換えるのが最も手戻りの少ない進め方です。

2. 共通の土台:Codex HACCPの7原則と、飲食店向けの簡略版

各国の制度が参照しているのが、FAO/WHOのコーデックス委員会が定める「食品衛生の一般原則(CXC 1-1969、最新改訂2022年)」です。HACCPの7原則は、(1)危害要因分析と管理手段の特定、(2)重要管理点(CCP)の決定、(3)妥当性を確認した管理基準の設定、(4)モニタリング方法の設定、(5)逸脱時の是正措置の設定、(6)HACCPプランの妥当性確認と検証手順の設定、(7)文書化と記録の保持、です。同文書は、一般衛生管理(GHP)を含む前提条件プログラムがHACCPの土台になると述べ、小規模事業者には柔軟な実施を認めつつ、7原則すべてを考慮するよう求めています。

シンガポールSFAのFSMSの説明も同じ構造で、洗浄・殺菌、保守・校正、防虫防鼠、交差汚染防止、回収・トレーサビリティといった前提条件プログラムの上に、HACCPの工程管理と記録を積み上げる形になっています。英国の案内も、HACCP原則として「危害を特定する」「CCPを決める」「限界値を決める」「監視する」「仕組みが機能しているか確認する」「問題があれば正す」「記録を残す」を挙げています。

要点:小さな和食店が一からHACCPプランを書く必要は多くの場合ありません。ただし、寿司飯を酢で常温保管する、真空包装する、といった「標準の温度・時間ルールから外れる工程」がある場合だけは、米国などで正式なHACCPプランと事前承認が必要になります。計画づくりは、まずこの線引きから始めます。

厚生労働省のサイトに掲載されている「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け、2024年1月改訂、日本食品衛生協会)」は、衛生管理計画を「一般的な衛生管理のポイント」と「重要管理のポイント」の2つに分けています。前者は原材料の受入、冷蔵・冷凍庫の温度、交差汚染の防止、器具の洗浄・消毒、トイレ、従業員の健康管理と手洗いで、どのメニューにも共通する項目です。後者はメニューを次の3グループに分け、グループごとにチェック方法を決めます。

この分類は海外でもそのまま使えます。米国Food Codeの温度・時間基準に当てはめると、第1グループは5℃以下の冷蔵保持、第2グループは中心温度の加熱基準と57℃以上の温蔵保持、第3グループは冷却基準(57℃から21℃まで2時間以内、5℃以下までは合計6時間以内)と再加熱基準(74℃で15秒)に対応します。国ごとの具体的な数字の違いは温度記録の記事で比較しています。

4. 和食特有の管理点:生魚、寿司飯、出汁、鶏肉

一般的な洋食店の計画例には出てこないが、和食店では必ず検討が必要な工程があります。下の表は、米国Food Code 2022を基準にした例です。

工程主な危害管理の基準(米国Food Code 2022)記録
刺身・寿司用の生魚寄生虫(アニサキス等)-20℃以下で7日間(168時間)、または-35℃以下で凍結し15時間保管、または-35℃で凍結後-20℃で24時間(3-402.11)。二枚貝、指定されたマグロ類、条件を満たす養殖魚などは例外凍結の温度と時間を記録し、提供・販売後90日間保管。仕入先が凍結する場合は仕入先の書面で代替可(3-402.12)
寿司飯セレウス菌、黄色ブドウ球菌の増殖と毒素①時間管理(TPHC):常温に出してから4時間以内に使い切り、残りは廃棄。②酢でpHを下げて常温保管する場合は特例承認とHACCPプランが必要。米国の食品保護会議(CFP)の指針ではpH 4.2未満が管理基準①は時刻表示。②はpH測定、pH計の校正、是正措置の記録
出汁・煮物の仕込みウエルシュ菌など加熱後に増える菌57℃→21℃を2時間以内、→5℃以下を合計6時間以内(3-501.14)。浅い容器、小分け、氷水などで冷却(3-501.15)冷却開始・2時間後・終了時の温度
焼き鳥・唐揚げサルモネラ、カンピロバクター鶏肉は74℃以上に瞬時到達(3-401.11)中心温度の確認
仕込み品の保存リステリアなど低温で増える菌24時間を超えて保存する要冷蔵のそのまま食べる食品は、5℃以下で最長7日(調理日を1日目と数える)の日付表示(3-501.17)ラベル

寿司飯の扱いは店の運営を大きく左右します。CFPが2023年に採択した「Guidance Document for Retail Sushi HACCP Standardization」は、pHを監視せず風味付けとして酢を加えるだけなら特別な工程とはみなされず、他の要温度管理食品と同じく温度管理が必要だと書いています。また、TPHCは開始後に「保存し直す」「時間を数え直す」ことができないため、持ち帰り用に包装して並べる販売形態では現実的でない、とも指摘しています。カウンターで握ってすぐ出す店はTPHC、持ち帰りや長時間の営業で寿司飯を置いておく店は酸性化とHACCPプラン、というように、業態によって計画の書き方が変わります。

5. 計画に「人」の管理を入れる:米国の食中毒調査から

温度と工程だけの計画では足りないことを示すデータがあります。米国疾病対策センター(CDC)が2023年6月に公表した報告(25の州・地方保健当局、2017〜2019年)は、小売・飲食店で起きた800件の食中毒アウトブレイク(875施設)を分析しました。病原体が特定されたアウトブレイクのうちノロウイルスが47.0%、サルモネラが18.6%を占め、汚染要因が特定されたアウトブレイクの約41%で、感染していた従業員による汚染が少なくとも1つの要因になっていました。

同じ調査で、病気の従業員に管理者へ報告させる方針を持っていた施設は91.7%、病気の従業員の業務を制限・除外する方針は85.5%にのぼった一方、除外すべき5つの症状をすべて列挙していた施設は17.8%、FDAが推奨する4つの要素をすべて含んだ方針を持つ施設は16.1%にとどまりました。

Food Code 2022は、嘔吐、下痢、黄疸、発熱を伴うのどの痛み、手や腕の化膿した傷を報告すべき症状とし、ノロウイルス、A型肝炎ウイルス、赤痢菌、志賀毒素産生性大腸菌、チフス菌、非チフス性サルモネラの診断も報告対象にしています(2-201.11)。さらに、嘔吐物や下痢便で店内が汚れたときの処理手順を文書で用意することを求めています(2-501.11)。計画書には、この報告ルール、除外・復帰の判断者、嘔吐物処理の手順と道具の置き場所を必ず入れてください。

6. 誰が計画の責任者になるか:国別の資格要件

計画を書く人と、毎日の実施を確認する人は、出店先の資格要件を満たしている必要があります。

日本から派遣する料理長がこの役割を担う場合、渡航前後に現地の資格講習と試験を受ける日程を採用計画に組み込んでおく必要があります(→開業までの採用スケジュール)。

7. 計画書の書き方と見直しの手順

手引書の様式は、各項目について「なぜ必要か」「いつ」「どのように」「問題があったときはどうするか」を書かせる形式です。海外向けに作り直すときも、この4列を維持し、出店先の言語と併記すると検査対応に使えます。

  1. メニュー表を工程グループに分類する:全メニューを第1〜第3グループと「特別な工程(生魚の寄生虫対策、寿司飯の酸性化、真空包装など)」に振り分けます。
  2. 特別な工程について、出店先で事前承認が必要かを確認する:米国ならバリアンスとHACCPプランの要否、ニューヨーク市なら§81.06の提出要否を保健当局に確認します。
  3. 一般衛生管理の手順を書く:受入、保管温度、交差汚染、洗浄・殺菌、防虫防鼠、従業員の健康管理。生と加熱済みの分け方は交差汚染の記事で具体例を示しています。
  4. 記録様式と保管期間を決める:出店先の最長の保管期間に合わせます。例えば豪州は3か月、米国の寄生虫対策の凍結記録は90日、CFPの寿司飯指針は6か月以上(または管轄の定め)です。
  5. 見直しの頻度を決める:手引書は毎月の振り返りを例示しています。英国のSFBBも、パックを見直し更新することを利用者の責任としています。メニュー変更、仕入先変更、設備変更のときは臨時で見直します。

開業前には、書いた計画と実際の厨房を突き合わせる作業が必要です。その進め方は開業前衛生点検の記事で扱います。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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