海外出店|業態・商品設計

海外で居酒屋を開く:酒類免許の区分から料理と飲料の注文の組み立てを決める

NY州のワイン免許(焼酎可)と500フィート規則、シンガポールの酒類免許Class 1A〜2Bの時間と料金、英国のDPS・個人免許と飲み放題を制限する義務的条件を比較し、免許と営業時間から飲料比率・お通しの表示・日本酒の仕入れまでを設計する手順を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 居酒屋の計画は「どの酒を、何時まで出せるか」から始まる
  2. 酒類免許の区分:ニューヨーク州・シンガポール・英国
  3. 飲み放題とハッピーアワー:英国の義務的条件
  4. 料理と飲料の注文をどう組み合わせるか
  5. お通しとチャージの扱い:価格表示の規則
  6. 日本酒・焼酎の仕入れで確認すること
  7. 開業までの準備表

居酒屋は、料理と飲料の両方で売上をつくる業態です。日本では「とりあえずビール」から始まり、料理が進むにつれて日本酒や焼酎に移っていく注文の流れを前提に、メニューも価格も組み立てられています。海外でこの流れを再現しようとすると、最初にぶつかるのが酒類の免許です。免許の区分によって、出せる酒の種類、営業できる時間、飲み放題のような売り方ができるかどうかが変わります。この記事では、ニューヨーク州、シンガポール、英国(イングランドとウェールズ)の公式情報をもとに、免許と注文の組み立てを一緒に設計する方法を整理します。

1. 居酒屋の計画は「どの酒を、何時まで出せるか」から始まる

日本産の酒の海外需要は伸びています。国税庁の資料(財務省貿易統計の確々報値)によると、2025年の日本産酒類の輸出金額は過去最高の1,495億円(前年比11.8%増)で、そのうち清酒は458億7,900万円(同5.6%増)、焼酎は19億6,000万円(同13.9%増)でした。酒類全体の輸出先の上位は中国(292億円)、米国(277億円)、韓国(194億円)、台湾(174億円)で、シンガポールは100億円(同28.9%増)と伸びが大きくなっています。

ただ、日本の酒が店に届くことと、それを店で出せることは別の問題です。同じ「居酒屋」でも、ビールとワインしか出せない免許、すべての酒を出せるが夜10時までの免許、深夜まで出せる免許では、客単価も回転も変わります。ロサンゼルスでは、シェアできる小皿料理を出す新しい居酒屋が次々に開業しているとジェトロは報告していますが(業態ごとの客層は海外の和食の客は誰かで扱っています)、どの形で開くにしても、免許の区分を先に決めないとメニューも売上計画も決まりません。

2. 酒類免許の区分:ニューヨーク州・シンガポール・英国

地域主な区分と出せる酒立地・手続きで注意すること
ニューヨーク州店内飲食用(on-premises)の免許。レストラン向けのワイン免許はワインとビールを出せるが蒸留酒(liquor)は出せない。州法の改正(2022年)で、ワイン免許でも輸入された度数24%以下の焼酎と韓国の焼酎(soju)を出せるようになった人口2万人以上の市町村では、蒸留酒を出す店内飲食の免許(州法64条など)は、出入口から500フィート以内に同種の免許店が3軒以上ある場所では原則として出せない。例外として認めるには、州酒類庁(SLA)が自治体またはコミュニティボードと協議し、聴聞を経て公益に合うと判断する必要がある(500 Foot Law)。ワイン免許を含む店内飲食の免許の申請者は、事前に自治体(ニューヨーク市ではコミュニティボード)に通知する必要があり、SLAは通知から30日が経つまで申請を承認できない
シンガポールClass 1A:すべての酒、午前6時〜深夜0時前、年880シンガポールドル。Class 1B:すべての酒、午前6時〜午後10時、年660ドル。Class 2A:ビールのみ、深夜0時前まで、年460ドル。Class 2B:ビールのみ、営業時間は免許に記載、年285ドル営業時間の延長は申請でき、3か月以上の延長なら1時間あたり4ドル。審査はおおむね3週間。免許は店舗ごとで、他人や別の店舗に譲渡できない。18歳未満への提供は禁止
英国(イングランドとウェールズ)店舗ごとの「premises licence」と、その店の指定管理者(DPS)。DPSは個人免許(personal licence)の保有者でなければならない個人免許は18歳以上で、認定資格(例:BIIAB Level 2 Award for Personal Licence Holders)の取得が前提。申請先は地元の自治体。酒の仕入先が歳入関税庁(HMRC)の卸売業者登録(AWRS)を受けているかを確認する義務がある

ニューヨーク州のワイン免許で焼酎を出せるのは、州のアルコール飲料規制法81条が2022年の改正(2022年法律第255号)で「ワイン免許にはビール、ソジュ、焼酎を販売する免許を含む」としたためです。ここでいう焼酎は、農産物を原料とし、アルコール度数24%以下の、輸入された日本の酒と定義されています。日本酒をどの区分で扱うかも含め、実際の申請では州酒類庁の区分を確認してください。

英国では、DPSは常に店にいる必要はないものの、警察や自治体からいつでも連絡がとれる状態にあることが求められています。日本から派遣された店長を想定するなら、赴任前に個人免許の資格を取れるか、現地で資格を持つ人をDPSに置くかを決めておく必要があります(採用の進め方は居酒屋の料理人の採用も参照してください)。

3. 飲み放題とハッピーアワー:英国の義務的条件

日本の居酒屋で定番の飲み放題は、英国ではそのまま導入できるとは限りません。2003年酒類免許法の義務的条件(2010年の命令で定められ、2014年に改正)は、次のような「無責任な販売促進」を禁じています。

このほか、飲料水を無料で提供すること、年齢確認の方針を定めること、小さい容量の提供を用意することも義務的条件に含まれます。飲み放題を「重大なリスクがある方法」ではない形で設計できるかは、自治体の判断に左右されます。英国で飲み放題を売りにする計画なら、物件契約前に自治体の酒類担当に相談しておくのが安全です。

シンガポールでは、免許の区分ごとに販売できる時間が決まっているため、ハッピーアワーを設けるかどうかよりも、どの時間帯まで酒を出せるかが計画を左右します。Class 1Bで午後10時に酒の提供を終える店と、Class 1Aで深夜まで出せる店とでは、2回転目の客の入り方がまったく違います。

4. 料理と飲料の注文をどう組み合わせるか

居酒屋のメニュー設計では、料理と飲料を別々に原価計算するのではなく、「1組が来店してから帰るまでに何を注文するか」という注文の型で考えると、価格と品数が決めやすくなります。以下は仮定の数字による例です。

時間帯典型的な注文設計のポイント
来店〜15分最初の1杯、すぐ出る冷菜2品作り置きできる小皿を3〜4品用意し、提供まで5分以内にする
15〜60分焼き物・揚げ物2〜3品、2杯目厨房の山場。焼き場と揚げ場の能力で品数の上限が決まる
60〜100分日本酒・焼酎、〆の料理客単価が伸びる時間帯。酒の説明ができる人を配置する

仮に客単価を60ドル、そのうち飲料を40%と置くと、1人あたり飲料24ドル、料理36ドルです。ビール1杯8ドルだけで終わる客が多ければ飲料比率は下がるので、2杯目以降に日本酒の飲み比べセットのような選びやすい商品を置く、といった工夫が売上計画に直結します。ニューヨークの日本酒バーで試飲セットやハッピーアワーが用意されている例をジェトロも紹介していますが、そうした商品が成り立つかは、上で見た免許の区分と時間の制約の中で決まります。

要点:飲料比率の目標は、免許の区分(出せる酒の種類)と営業できる時間から逆算します。ビールとワインしか出せない免許なのに、日本酒と焼酎の売上で客単価を組んだ計画は成り立ちません。

5. お通しとチャージの扱い:価格表示の規則

日本では当たり前のお通し(席料を兼ねた小鉢)は、海外では「頼んでいない料理の請求」と受け取られやすい仕組みです。義務的な料金として請求するなら、価格表示の規則を確認します。

お通しを出すなら、メニューの目立つ場所に内容と金額を書き、注文時に口頭でも説明する、という二重の方法が無難です。料金設計の詳しい考え方はおまかせ店の価格設計で扱っています。

6. 日本酒・焼酎の仕入れで確認すること

7. 開業までの準備表

時期の目安やること
物件選定時ニューヨークなら半径500フィート以内の免許店の数を確認。英国なら自治体の酒類政策と営業時間の傾向を確認。シンガポールなら取得したい区分と営業時間を決める
物件契約前免許が取れなかった場合の解約条件を賃貸借契約に入れられるか交渉(→賃貸借契約の確認)
申請時ニューヨークは自治体・コミュニティボードへの通知(通知から30日間は承認されない前提で日程を組む)。英国はDPSの同意書と運営計画。シンガポールはURAの用途承認などの書類をそろえる
メニュー確定時免許区分と営業時間に合わせて飲料比率の目標を決め、お通し・チャージの表示方法を決める
開業前研修年齢確認の手順、提供を断る基準、飲料の説明を研修に入れる

居酒屋の収益は、料理の原価率よりも、飲料がどれだけ出るかに左右されます。その飲料の上限を決めているのが免許です。物件を探し始める前に、どの区分の免許で、何時まで、どの酒を出すのかを決めておくことをおすすめします。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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