海外出店|出店戦略

海外の和食の客は誰か:国別の人気料理・価格帯と業態別の利用場面

ジェトロ6都市調査の好きな日本料理、農水省2025年の国別店舗数、タイの客単価別店舗数、NYのおまかせ200〜400ドルと70〜90ドルの二極化、一風堂の海外既存店の客数減・客単価増、くら寿司USAの1皿3.79ドル・110席から、利用場面でコンセプトを決める手順を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 「日本料理が好き」の中身は都市ごとに違う
  2. 店の数から見る、和食が日常食になっている国
  3. 価格帯:タイは中低価格に集中、米国は二極化
  4. 業態別の利用場面・価格帯・席の考え方
  5. 日本企業の開示から読む:一風堂とくら寿司USA
  6. 利用場面からコンセプトを決める手順

海外で和食店を開くとき、「寿司にするか、ラーメンにするか」から考え始める方は多いと思います。ただ、同じ寿司でも、誕生日に1人200ドル以上を払うカウンターと、家族連れが1皿4ドル弱の皿を重ねる回転寿司とでは、競合も立地も必要な人材もまったく違います。本記事では、JETRO(日本貿易振興機構)、農林水産省、JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)の調査と上場企業の開示資料をもとに、海外の和食の客が誰で、どんな場面で、いくらくらい払っているのかを整理します。確認できたデータには調査年が古いものもあるため、それぞれ年を明記しています。

1. 「日本料理が好き」の中身は都市ごとに違う

国別の「好きな日本料理」を比べられる公的調査は多くありません。ジェトロが公開している消費者意識調査のうち、都市別に比較できるものとして、2013年12月にモスクワ、ホーチミン、ジャカルタ、バンコク、サンパウロ、ドバイの6都市で各500人(計3,000人、10〜50代、在留邦人を除く)に聞いたWebアンケートがあります(2014年3月公表)。古い調査ですが、都市によって日本料理の好まれ方が違うことはよくわかります。

都市好きな日本料理(1〜3位合算)上位3つ日本料理のイメージで「価格が高い」を挙げた割合(1〜3位合算)
モスクワ寿司・刺身 64.0%/焼き鳥 38.0%/うどん 29.4%上位3つに入らず
ホーチミン寿司・刺身 50.0%/焼き鳥 28.6%/うどん 27.6%上位3つに入らず
ジャカルタ寿司・刺身 45.2%/ラーメン 44.0%/天ぷら 35.8%上位3つに入らず
バンコク寿司・刺身 51.8%/しゃぶしゃぶ 41.4%/すき焼き 33.2%40.0%(3位)
サンパウロ寿司・刺身 65.6%/天ぷら 57.2%/とんかつ 25.4%45.2%(3位)
ドバイ寿司・刺身 51.2%/天ぷら 40.2%/焼き鳥 33.6%48.4%(「健康に良い」と並び1位)

6都市合算では「寿司・刺身(ロール寿司を含む)」が54.6%で首位、次いで天ぷら34.2%、ラーメン26.5%でした。ただし2位以下は都市によって大きく変わります。ジャカルタではラーメンが寿司とほぼ並び、バンコクでは鍋物(しゃぶしゃぶ・すき焼き)が2位・3位に入っています。同じ調査で、日本料理のイメージ(1〜3位合算)は「美味しい」59.0%、「健康に良い」54.9%に次いで「価格が高い」が38.2%でした。

この結果から読み取れるのは、「寿司はどこでも1位だが、2番手以降の好みと価格への感じ方は市場ごとに違う」ということです。寿司で勝負するなら競合が最も多い土俵に立つことになり、2番手の料理を軸にすれば競合は減るものの、その都市でその料理がどう食べられているかを別に確認する必要があります。

要点:2013年の調査で数字自体は古くなっています。使い方としては、自分の候補都市で同じ問い(好きな日本料理の2番手は何か、価格が高いと感じられているか)を現地で確かめるための仮説として扱ってください。

2. 店の数から見る、和食が日常食になっている国

消費者調査が古い一方で、店の数は新しいデータがあります。農林水産省が外務省の協力を得てまとめた調査(2025年11月28日公表)では、海外の日本食レストランは約18.1万店で、2023年の約18.7万店から微減しました。地域別ではアジアが約11.24万店(約1割減)、北米が約2.94万店、欧州が約1.92万店、中南米が約1.53万店(約2割増)です。

同じ資料の国・地域別の数字を見ると、米国26,360店、韓国19,800店、台湾7,100店、インドネシア6,580店、タイ5,920店、フランス3,390店、オーストラリア2,230店、マレーシア2,200店、英国1,820店、香港1,480店、シンガポール1,140店となっています。

米国については、ジェトロの米国輸出支援プラットフォームが別の方法(電話帳、日系食品卸の取引先、SNS情報)で数えた「2025年度 米国における日本食レストラン動向調査」(2026年3月)があり、2025年12月時点で23,981軒、全米のレストラン718,575軒の約3.3%としています。州別ではカリフォルニア4,515軒が統計上初めて減少(480軒純減)した一方、フロリダ1,750軒(2022年比16.6%増)、テキサス1,454軒(同21.5%増)と、人口が増えている州で伸びています。

店の数が多い市場では、和食は「たまの外国料理」ではなく日常の選択肢の一つになっています。そこで新規店に求められるのは「和食であること」ではなく、どの場面で選ばれるかです。ジェトロ・バンコク事務所も2025年度のタイ調査で、関係者の話として「日本食であること自体は差別化要因になりにくくなっている」とまとめています。

3. 価格帯:タイは中低価格に集中、米国は二極化

客単価の分布を店舗単位で公表している調査として、ジェトロ・バンコク事務所の「2025年度 タイ国日本食レストラン調査」(2026年1月20日公表)があります。タイのグルメレビューサイトWongnaiのデータをもとに集計したもので、2025年の店舗数は次のとおりでした。

客単価(1人あたり)店舗数(2025年)
100バーツ以下784店
101〜250バーツ2,116店(最多)
251〜500バーツ1,490店
501〜1,000バーツ689店

同調査では、タイの日本食レストランは5,781店で、2007年の調査開始以来初めて減少しました(前年比135店減)。業種別では総合和食1,398店、寿司1,250店、ラーメン823店、居酒屋459店、すき焼き・しゃぶしゃぶ437店の順で、前年より増えたのはラーメン(2.6%増)と喫茶(6.4%増)だけでした。ヒアリングでは、円安で訪日するタイ人が増え、おまかせ寿司や和牛、日本酒などの高級品は「本場の日本で食べたい」という傾向がある、とも報告されています。高価格帯の競合には、現地の他店だけでなく日本旅行そのものが含まれるということです。

米国では価格の幅がずっと広くなります。JFOODOのニューヨークのフィールドマーケターによるレポート(2025年3月)によると、おまかせスタイルの高級日本食店は食事代だけで200〜400ドル程度で、「特別な日の贅沢」という需要で好調とされています。一方、日本人シェフの下で経験を積んだアジア系シェフが独立した店では、70〜90ドル程度でおまかせ寿司が食べられるほか、寿司職人を必要としない手巻き寿司専門店やポケ丼専門店が増えているとのことです。ジェトロの2025年度米国調査も、ロサンゼルスの寿司を「高級Omakaseと手軽な寿司の二極化」と表現しています。

4. 業態別の利用場面・価格帯・席の考え方

上の資料から、業態ごとに確認できた利用場面と価格帯を並べると次のようになります。空欄をつくらないために推測で埋めることはせず、出典で確認できなかった項目は「確認できず」としています。

業態(市場)資料で確認できた利用場面・客層確認できた価格席の考え方
高級おまかせ寿司・割烹(ニューヨーク、ロサンゼルス)特別な日の贅沢。日本で食べた味を求める訪日経験者。SNSでの話題性に惹かれる若い世代食事代200〜400ドル(NY)。LAの懐石店で200ドル〜LAの事例は8席のカウンターのみ、カウンター7席とテーブル2つなど。席数より予約枠の数で売上が決まる
カジュアルなおまかせ寿司(NY)確認できず(アジア系シェフの独立店として紹介)70〜90ドル程度確認できず
回転寿司(くら寿司USA、全米82店)アニメ映像や景品マシンを組み合わせた体験型。立地は交通量の多い商業施設で、学歴が高く多様で世帯所得が平均以上の地域1皿平均約3.79ドル平均約110席、店舗面積約3,400平方フィート
ラーメン(米国)カジュアルダイニングの位置付け。サンフランシスコ・ベイエリアのつけ麺店はハッピーアワーから閉店まで満席一般的な価格は確認できず(200ドル超のラーメンコースの店もある)確認できず
居酒屋・日本酒バー(LA、NY)LAではシェアできる小皿料理の新しい居酒屋が増加。NYでは価格が手頃で常連の多いバー、試飲セットやハッピーアワーのある日本酒バー確認できず確認できず
喫茶・抹茶(タイ、サンフランシスコ)タイで喫茶が6.4%増と数少ない成長業種。サンフランシスコのジャパンタウン周辺に抹茶ドリンク・デザート専門店が10店以上確認できず確認できず

席の回転については、業態ごとの実数を公表した公的データは見つかりませんでした。考え方だけ示すと、8席のおまかせカウンターは、仮に1晩2回の入れ替え制で営業するなら1晩の上限は16人です。客単価が高くても、上限人数が小さいため、予約の埋まり具合と料理人1人あたりの生産性がそのまま売上を決めます。反対に、110席規模の回転寿司は1皿4ドル弱の単価を席数と回転で積み上げる業態です。同じ「寿司」でも、前者は料理人の確保、後者は立地と席数が事業の成否を左右します。おまかせ業態で握れる職人を海外で確保する際の給与水準は国別の寿司職人の給与でまとめています。

5. 日本企業の開示から読む:一風堂とくら寿司USA

一風堂(力の源ホールディングス)

一風堂を運営する力の源ホールディングスは、決算補足説明資料で海外既存店の月次実績を開示しています。2025年3月期の資料によると、2024年1〜12月の海外既存店(ライセンス店を除く直営店、円換算)は、売上高が前年比103.1%、客数が91.7%、客単価が112.4%でした。売上は客単価の上昇で維持した一方、客数は減っています。同社は資料の中で、軟調の理由として、消費全体の冷え込みに加え、主要都市の中心部にある既存店がリモートワークの定着とオフィス街の人通りの減少の影響を受けたことを挙げています。

2026年3月期第3四半期の資料では、2025年1〜9月の海外既存店は売上高・客数ともに前年比91.8%、客単価は100.0%で、客数の減少が続いています。海外店舗は2025年9月末時点で141店(直営74店、ライセンス67店)、うちアジアが104店で、米国は11店です。

注目したいのは、同社が一つのブランドを各国に同じ価格で出すのではなく、利用場面に合わせて業態を分け始めている点です。2025年3月期の資料では、タイで「一風堂の約6割程度と低価格帯」のRamen NeOを出店したこと、ニューヨーク・カリフォルニアでプラントベースラーメン専門店を出したこと、インドネシアでハラル業態の商品開発を終えたことが説明されています。さらに、リモートワークの定着で大都市から人が移っている米国中西部のベントンビル(アーカンソー州)に、現地企業との資本業務提携で進出するとしています。オフィス街の昼食需要が減った分を、価格帯と立地を変えた別業態で拾いにいく判断と読めます。

くら寿司USA

米国ナスダックに上場するKura Sushi USAの年次報告書(2025年8月期、Form 10-K)では、同社は22州とワシントンD.C.で82店を運営し、コンベヤー上の1皿の平均価格は約3.79ドル、平均席数は約110席としています。報告書は、寿司が店内を巡る光景、テーブルのタッチパネルで流れるアニメ映像、一定の皿数で景品が出る「ビッくらポン」を組み合わせた「多感覚の体験」を強みに挙げています。食事そのものより、家族や友人と出かける体験を売る業態で、立地も繁華街の路面ではなく交通量の多い商業施設を選んでいます。

6. 利用場面からコンセプトを決める手順

ここまでの資料を、実際の検討手順に落とすと次のようになります。

  1. 候補都市の店舗数と業種構成を確認する。農林水産省の国別店舗数で市場の厚みを見て、タイのように業種別・客単価別の調査がある国はその数字を使います。都市単位での数え方は競合分析の記事で具体的に説明しています。
  2. 狙う場面を1つに絞る。「平日の昼にオフィスワーカーが1人で」「週末に家族4人で」「記念日に2人で」のように、誰が・いつ・何人で・いくら払うかを書きます。一風堂の開示が示すとおり、平日昼のオフィス需要は景気や働き方の変化で大きく動きます。
  3. その場面の価格帯を現地で確かめる。タイならWongnai、米国ならニューヨークの200〜400ドルと70〜90ドルのように、同じ料理でも価格帯が分かれています。自分の店がどの帯に入るかで、競合も必要な人材も変わります。
  4. 席数と人員を価格帯から逆算する。少席数・高単価なら職人の確保と予約管理、多席数・低単価なら立地と回転が軸になります。
  5. 高価格帯なら「日本旅行」も競合に入れる。タイの調査にあるとおり、訪日しやすい国の富裕層は高級和食を日本で食べる選択肢を持っています。

業態そのものの選び方は出店形態の比較で、現地で客層を確かめる方法は現地調査の記事で扱っています。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

料理人の採用でお困りですか

WashokuJobは海外の和食店専門の求人サイトです。掲載中の求人は世界各国の日本食レストランから集まっています。掲載のご相談はお問い合わせフォームからどうぞ。

和食料理人を採用しませんか?

世界中の和食料理人が登録するWashokuJobに、貴店の求人を掲載できます。