海外出店|出店戦略

海外出店先の選び方|日本食店数・在留邦人・最低賃金・ビザ・外資規制で国を比較

農水省の国別日本食レストラン数と増減、外務省の都市別在留邦人数、ジェトロの消費者調査、10市場の最低賃金、日本人料理人のビザ条件、東南アジア5か国の飲食業の外資規制を比較表で整理し、出店候補を3つに絞る手順を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 日本食レストラン数:多い国と増えている国は違う
  2. 在留邦人:都市別の上位と伸び
  3. 現地の消費者は日本食をどう見ているか
  4. 人件費の床:最低賃金の比較
  5. 日本人料理人を連れて行けるか
  6. 外資規制:100%出資で出られるか
  7. 候補を3つに絞る手順

出店先を決めるとき、「日本食が人気の国」から考え始めると判断を誤りやすくなります。日本食レストランが多い国は競争も激しく、日本人の多い都市でも日本人料理人を呼べるとは限らず、外資が単独で飲食店を開けない国もあります。本記事では、農林水産省、外務省、ジェトロ、各国政府の一次情報から、出店の実行条件にかかわる数字だけを並べます。すべて2026年9月時点で確認した数字です。

1. 日本食レストラン数:多い国と増えている国は違う

農林水産省が外務省の協力で隔年に行う調査によると、2025年の海外の日本食レストランは約18.1万店で、2023年から約6,000店減りました。国・地域別に見ると、動きはまちまちです。次の表は、日本の飲食企業の出店先として検討されることの多い国・地域について、店舗数と2023年からの増減を、外務省の在留邦人数と並べたものです。

国・地域日本食レストラン(2025年)2023年からの増減在留邦人(2025年10月)1店あたりの在留邦人(参考)
米国26,360店+320416,380人15.8人
韓国19,800店+1,59044,471人2.2人
台湾7,100店−34021,755人3.1人
インドネシア6,580店+2,58015,266人2.3人
タイ5,920店+59072,113人12.2人
オーストラリア2,230店+230105,566人47.3人
マレーシア2,200店+31019,690人9.0人
英国1,820店+56062,270人34.2人
ベトナム1,820店+20016,636人9.1人
香港1,480店+8023,228人15.7人
シンガポール1,140店−7033,397人29.3人
アラブ首長国連邦190店+205,300人27.9人

右端の列は、在留邦人数を店舗数で割った筆者の計算で、統計ではありません。それでも読み取れることがあります。韓国、インドネシア、台湾は1店あたりの在留邦人が2〜3人しかおらず、日本食レストランの大半は現地の客を相手にしているはずです。反対にオーストラリア、英国、シンガポールは在留邦人に比べて店が少なく、日本人客や日本語を話す人材の層が相対的に厚い市場です。どちらが有利かは業態次第ですが、「現地の人に向けた店」と「日本の味を求める人に向けた店」では、選ぶべき国が変わります。

増減も見ておきます。インドネシアは2年で2,580店、ブラジルは1,670店増えました。一方で中国は15,260店、フランスは1,290店減っています。農林水産省はアジアの減少の要因に中国の経済停滞を、中南米の増加の要因に日本のアニメなどの影響を挙げています。

数字の定義にも注意が必要です。ジェトロが独自に数えた米国の日本食レストランは2025年12月時点で23,981軒、タイは2025年に5,781店で、農林水産省の数字(米国26,360店、タイ5,920店)とは一致しません。数え方が違う調査を混ぜて増減を計算しないでください。

2. 在留邦人:都市別の上位と伸び

外務省の統計(2025年10月1日時点)では、海外の在留邦人は1,298,170人です。出店先の検討では国より都市の数字が役に立ちます。

順位都市在留邦人前年比
1ロサンゼルス都市圏63,972人+0.7%
2バンコク51,297人+2.3%
3ニューヨーク都市圏38,251人+2.4%
4シンガポール33,397人+2.6%
5上海31,733人−8.5%
6シドニー都市圏31,673人+1.5%
7大ロンドン市30,515人−3.5%
8バンクーバー都市圏28,090人−2.7%
9ホノルル23,254人+0.2%
10香港23,228人+1.5%
23台北9,693人+0.1%
24クアラルンプール9,269人+5.1%
25ホーチミン9,249人−5.0%
34南ジャカルタ5,419人+3.1%
47ドバイ3,433人+13.2%

在留邦人の数は、日本人客の多さだけでなく、すでに現地で働く資格を持つ日本人を採用できる可能性の目安にもなります。配偶者として帯同している人や永住者の中に調理経験者がいれば、ビザの手続きなしで雇えます。上海とロンドンは上位でも減少しており、ドバイとクアラルンプールは規模は小さいものの伸びています。

3. 現地の消費者は日本食をどう見ているか

国をまたいで同じ質問をした公的な消費者調査は多くありません。ジェトロが2013年12月に6都市で行った「日本食品に対する海外消費者アンケート調査」(各都市500人、在留邦人を除く)は古いものの、都市による差をよく示しています。「好きな外国料理」を上位3つ選んでもらった結果です。

都市日本料理を1位に選んだ割合日本料理を上位3つに選んだ割合1位の料理
バンコク66.6%90.6%日本料理
ジャカルタ50.4%79.2%日本料理
ホーチミン37.8%67.0%日本料理
モスクワ35.4%62.4%日本料理(上位3つの合算ではイタリア料理67.2%が首位)
サンパウロ30.8%63.2%イタリア料理(41.4%)
ドバイ9.4%35.2%インド料理(28.2%)

同じ調査では、日本料理のイメージは「美味しい」「健康に良い」などおおむね好意的な一方で、4割程度の回答者が「価格が高い」と答えています。調査から10年以上たっているため、現在の水準を示す数字としては使えませんが、都市ごとに日本食の受け止め方が大きく違うこと、そして価格が壁になりやすいことは、出店前の現地調査で確かめるべき論点です。

より新しい動きは、ジェトロの国別の店舗調査で追えます。タイでは2025年に日本食レストランが初めて減り、バンコクは前年比2.4%減でした。業態別では総合和食1,398店、寿司1,250店、ラーメン823店の順で、ラーメンは2.6%増、焼肉は9.0%減です。米国では2022年から2025年にかけてカリフォルニア州が480軒減った一方、フロリダ州は249軒、テキサス州は257軒増えています。同じ国でも、伸びている地域と飽和している地域があります。

4. 人件費の床:最低賃金の比較

現地スタッフの人件費の下限を国ごとに並べます。単位と算定方法(時給・日額・月額)が国によって違うため、そのまま比べず、自社のシフト計画に当てはめて計算してください。

国・都市最低賃金適用開始
シンガポール一律の額ではなく、外食の現地人(市民・永住者)従業員に賃金下限(Progressive Wage Model)。フルサービス店の調理人(Cook)月S$2,520、キッチンアシスタント月S$2,3202026年7月1日〜2027年6月30日
タイ(バンコク)日額400バーツ2025年7月1日
マレーシア月RM1,700(従業員5人未満の雇用主は2025年8月1日から)2025年2月1日
ベトナム(第1地域:ハノイ市、ホーチミン市など)月531万ドン、時給25,500ドン2026年1月1日
インドネシア(ジャカルタ首都特別州)月5,729,876ルピア2026年
台湾月NT$29,500、時給NT$1962026年1月1日
香港時給HK$43.12026年5月1日
米国(ニューヨーク市)時給$17.00。チップを受け取る飲食サービス従業員は現金支給$11.35+チップ・クレジット$5.652026年1月1日
英国時給£12.71(21歳以上)2026年4月
オーストラリア時給A$26.44(週A$1,004.90)2026年7月1日

シンガポールの賃金下限は外国人を雇う事業者に遵守が求められ、2027年7月からは調理人S$2,660、2028年7月からはS$2,800と段階的に上がることが決まっています。ベトナムでは2027年1月から第1地域を月570万ドンに引き上げる国家賃金評議会の最終案が出ています(2026年8月時点で政府の正式決定前)。台湾でも2026年9月24日の最低賃金審議会で、2027年1月から月NT$30,900、時給NT$205とする案がまとまりました(行政院の承認待ち)。最低賃金は毎年のように改定されるため、収支計画には「開店する年」の額を使ってください。

5. 日本人料理人を連れて行けるか

本格的な和食店ほど、日本から料理人を呼ぶ必要が出てきます。ここで国ごとの差が最も大きくなります。

国・地域主な経路飲食店にとっての主な条件(2026年9月時点)
シンガポールEmployment Pass/S Pass日本国籍者はサービス業のWork Permitの対象外。年齢に応じた給与基準、EPはポイント制(COMPASS)
タイノンイミグラントビザ+労働許可外国人1人につき払込資本金200万バーツ、ビザ延長には外国人1人につきタイ人4人の雇用
マレーシアEmployment Pass2026年6月1日の新規・更新申請から、カテゴリーIIIの基本給はRM5,000〜9,999(従来RM3,000〜4,999)、期間は最長5年で後継者育成計画が必要
香港一般就労政策(GEP)または強化補充労働スキーム(ESLS)ESLSで調理師を輸入する場合、2026年6月16日から飲食業は現地スタッフ3人に対し輸入1人の比率と、6週間の現地採用活動が必要
台湾専門的・技術的業務の就労許可飲食業の料理人は対象職種。月平均給与NT$47,971以上。雇用主側にも売上高などの要件
米国E-2(条約投資家)など日本はE-2の対象国。投資家と同じ国籍の従業員は、管理職か必須の技能を持つ場合に対象
英国Skilled Workerシェフ(職業コード5434)は中位技能の職種。中位技能は移民給与リストか一時的不足職種リストに載る場合に限り新規申請が可能で、シェフはどちらにも載っていない

英国は日本食レストランが2年で560店増えた市場ですが、日本から新たに料理人をスポンサーする道は閉じています。既に英国で働く資格を持つ人を採用する前提で計画することになります。ビザごとの手続きと給与の基準は、香港で日本人料理人を採用する方法をはじめとする国別の採用ガイドにまとめています。

6. 外資規制:100%出資で出られるか

東南アジアでは、飲食店への外資参入の扱いが国によって大きく異なります。ジェトロの国別ページ(2025年更新)と、ジェトロが2017年に外食業についてまとめた資料から整理します。2017年資料の内容は、その後の改正を反映していない可能性があります。

国飲食店への外資参入資本金などの条件
シンガポール外資100%で参入可(2017年資料)最低資本金の規制なし(同)
タイ外国人事業法の第3表に「飲食物販売」。外資50%以上の企業は、外国人事業委員会の承認を経た許可がなければ参入できない。許可の取得は原則として困難(2017年資料)外資過半の会社は最低資本200万バーツ、規制業種の許可を得る場合は原則300万バーツ。日タイ経済連携協定により、450㎡以上のレストランは登録資本金5,000万バーツ以上などの条件で60%まで出資可(2017年資料)
マレーシア流通取引ガイドライン(2020年2月改訂)で「飲食店(高級店でない)」は外資が参入できない業種。ファストフード、チェーン、フルサービスのレストランは通常認められる(2017年資料)外資50%超で外食業を営む場合は所管省の事前認可と最低資本金RM100万(2017年資料)
ベトナム2015年1月からWTO公約に基づき外資100%で参入可(2017年資料)最低資本金の定めは特になし。ただし実務では投資家の経験や財務能力が厳しく審査される(2017年資料)
インドネシア外資比率の上限が定められた業種に飲食は含まれず、原則100%出資可引受・払込資本金25億ルピア以上。飲食サービスは産業分類の上2桁ごと、県・市レベルの立地ごとに、土地建物を除く投資額100億ルピア超

要点:インドネシアは日本食レストランが最も増えた国ですが、外資で出る場合は「立地ごとに投資額100億ルピア超」が条件です。小さな1号店を外資で出す形は取りにくく、現地企業とのフランチャイズやライセンスを含めて出店形態から検討することになります。

7. 候補を3つに絞る手順

ここまでの表を使って、候補を次の順で絞り込みます。

  1. 出店形態で外せない国を除く。直営で過半出資を前提にするなら、タイ(飲食物販売が規制業種)とマレーシア(高級店でない飲食店は外資不可)は、合弁やフランチャイズを受け入れられるかをまず決めます。
  2. 日本人料理人の人数で条件を計算する。仮に日本人料理人2人で開業するとすれば、タイでは払込資本金400万バーツ以上とタイ人8人以上の雇用、香港でESLSを使うなら調理部門に現地のフルタイム従業員6人以上、マレーシアではそれぞれ基本給RM5,000以上が必要になります。英国ではそもそも新規スポンサーができません。
  3. 客層を決めて在留邦人数と店舗数を読む。日本人客を中心にするなら、在留邦人が多く1店あたりの在留邦人も多い都市、現地客を中心にするなら、店舗数が伸びている国が候補になります。
  4. 最低賃金から人件費の下限を出す。自社の標準的なシフトに各国の最低賃金を当てはめ、売上に対する人件費率が成り立つかを確かめます。
  5. 残った候補で現地調査をする。3〜4か国に絞った段階で、家賃、競合店の価格帯、食材の調達を現地で確認します。進め方は現地調査の進め方で解説しています。

候補国が決まったら、法人設立から開店までの工程は海外で和食店を開く手順と期間で確認できます。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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