海外出店|開業・初期運営

海外和食店の開業90日レビュー:続ける施策と止める施策を数字で選ぶ

施策台帳の作り方と「増えた分」で効果を測る計算、NYCのデリバリー手数料上限(配達15%・基本5%・拡張20%・決済3%)での採算、値引きのGST計算、外食CPI3.4%上昇と値上げ、英国VAT£90,000・シンガポールGST S$100万の登録基準の確認、判定表を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 90日目は、始めた施策を棚卸しする時期
  2. 施策台帳:始めたことすべてに費用と指標を付ける
  3. 効果は「増えた分」で測る
  4. デリバリー:手数料の上限がある都市で採算を計算する
  5. 値引き・クーポン:税の計算と、常連客への値引きの損
  6. 値上げ:外食物価の動きと、表示の規則
  7. 年換算の売上で、税の登録基準を越えないか確かめる
  8. 続ける・直す・止めるの判定表

開業から90日たつと、開業直後の盛り上がりが落ち着き、30日目に始めた打ち手の結果も出そろってきます。この時期にやるべきことは、開業前後に始めた販促、デリバリー、営業時間の変更、値引きなどの施策を一覧にし、「続ける」「直して続ける」「止める」を決めることです。施策は始めるのは簡単ですが、止める判断は先送りされがちで、効果のない施策の費用が積み重なっていきます。この記事では、ニューヨーク市のデリバリー手数料の上限、シンガポールと英国の税の規則、米国の外食物価の統計などをもとに、施策を判定する方法を説明します。30日目の振り返りは開業30日レビューで扱っています。

1. 90日目は、始めた施策を棚卸しする時期

90日という区切りには、次のような理由があります。

2. 施策台帳:始めたことすべてに費用と指標を付ける

最初に、開業前後に始めた施策をすべて書き出します。販促のように分かりやすいものだけでなく、「ランチ営業」「日曜営業」「デリバリーアプリへの出店」「予約サイトの有料プラン」のような、営業の形そのものも施策として扱います。

欄書くこと記入例
施策何を始めたか平日ランチ営業(11:30〜14:00)
目的何を増やす・減らすためか平日の客数を増やし、家賃などの固定費を吸収する
開始日いつ始めたか開業日
月の費用直接かかる費用人件費(ランチの人員分)、光熱費、食材の廃棄
指標効果を測る数字平日ランチの客数、粗利、人時売上
判定の基準何を満たせば続けるかランチの粗利が、ランチのために増えた人件費と光熱費を上回る
90日目の結果基準に対する実績―

記入例の平日ランチ営業を、仮の数字で判定してみます。平日ランチの客数が1日25人、客単価22ドル、食材費率35%なら、1日の粗利は25×22×(1−0.35)=357.50ドルです。ランチのために増えた人件費が、3人×3.5時間×時給20ドル=210ドル、光熱費などの増加が1日30ドルだとすると、ランチ営業は1日117.50ドル、月22日で約2,585ドルを固定費の支払いに回せていることになります。一方、客数が1日12人なら粗利は171.60ドルで、増えた費用240ドルを下回ります。この場合は、ランチの営業日を客の多い曜日に絞る、人員を2人にする、といった「直して続ける」の検討に入ります。

ランチ営業の判定では、ランチの仕込みがディナーの仕込みと重なって、ディナーの準備を圧迫していないかも確認します。数字の上で黒字でも、ディナーの提供が遅れる原因になっているなら、その影響も費用として考えます。

判定の基準は、本来は施策を始めるときに書いておくものです。書いていなかった施策は、90日目に基準を決めてから結果を見ます。結果を見てから基準を決めると、続けたい施策に都合のよい基準を選びがちです。

3. 効果は「増えた分」で測る

施策の効果は、「施策を使った客の数」ではなく、「施策がなければ来なかった客の数」で測ります。たとえばクーポンを使った客が100人いても、そのうち70人がクーポンがなくても来ていた常連なら、クーポンが増やした客は30人です。

「増えた分」を推定する方法には、次のようなものがあります。

仮に、月1,500ドルの広告で、広告がない週に比べて月60人の客が増え、客単価60ドル、食材費率30%だとすると、増えた粗利は60人×60ドル×(1−0.3)=2,520ドルで、広告費を差し引いて1,020ドルのプラスです。同じ広告で増えた客が30人なら、粗利は1,260ドルで、広告費を下回ります。「客1人を増やすのに使ってよい費用」は、この計算から逆算できます。

4. デリバリー:手数料の上限がある都市で採算を計算する

デリバリーアプリの手数料は、多くの国で契約ごとに決まりますが、ニューヨーク市は条例で上限を設けています。市の消費者・労働者保護局の案内(2026年1月更新)によると、アプリが飲食店に課す手数料の上限は次のとおりです。

手数料の種類上限(注文額に対する割合)
配達の手数料15%
基本サービスの手数料5%
拡張サービスの手数料20%
決済の手数料3%

仮に、注文額40ドル、食材費率30%、容器代1ドルの注文で、配達15%・基本サービス5%・決済3%の手数料がかかるとすると、手数料は40ドル×23%=9.20ドル、食材費は12ドルで、容器代を含めた残りは40−9.20−12−1=17.80ドルです。拡張サービス(20%)を選んでいれば、手数料は40ドル×38%=15.20ドルになり、残りは11.80ドルに減ります。この残りから、デリバリーの注文を作る人件費と、店内の注文を待たせることによる影響を差し引いて考えます。

90日目には、デリバリー経由の注文数だけでなく、「デリバリーの注文が集中する時間帯に店内の提供が遅れていないか」も確認します。店内の客の評価を下げてまでデリバリーを受けているなら、その時間帯だけ受付を止める、という選択肢もあります。持ち帰り・デリバリー用の商品設計は持ち帰り商品の記事、チャネルの選び方はデリバリーの記事で扱います。

5. 値引き・クーポン:税の計算と、常連客への値引きの損

値引きは、税の計算に影響することがあります。シンガポールの内国歳入庁(IRAS)の小売向けの指針では、店が全額を負担する値引きは値引き後の価格にGSTをかけ、銀行など第三者から補填を受ける値引きは値引き前の価格にかけるとしています。カード会社との提携割引を続けるかどうかを判断するときは、この税の扱いも含めて、店に残る金額を計算します。

値引きの最大の費用は、多くの場合、値引きがなくても来ていた客への値引きです。前章の考え方で、クーポン利用者のうち「増えた客」の割合を推定し、次の式で1人増やすのにかかった費用を計算します。

増えた客1人あたりの費用=値引きの総額÷増えた客の数

仮に、1人5ドルの値引きを月200人が使い、そのうち増えた客が40人なら、値引きの総額1,000ドル÷40人=25ドルが、客1人を増やすのにかかった費用です。客単価60ドル・食材費率30%なら、1人あたりの粗利は42ドルなので、1回の来店だけで見れば元は取れています。ただし、増えた客の割合が10%(20人)まで下がると、1人あたり50ドルとなり、粗利を上回ります。

6. 値上げ:外食物価の動きと、表示の規則

90日目は、仕入れ価格と人件費の実績が分かり、値付けを見直す材料がそろう時期でもあります。米国労働統計局が2026年9月11日に公表した消費者物価指数では、外食(food away from home)の物価は2026年8月までの12か月で3.4%上昇し、そのうちフルサービスの食事は3.5%、限定サービス(カウンター注文など)の食事は3.2%の上昇でした。周辺の外食の価格も上がっている時期であれば、仕入れの上昇分を価格に反映しても、客の受け止め方は比較的穏やかになる可能性があります。

値上げの際は、表示の規則も確認します。シンガポールでは、GST登録事業者は原則として税込価格を表示する必要があり、サービス料を課す店だけが税抜価格と「サービス料とGSTが加算される」旨の表示を認められています。メニューを刷り直すときに表示の方式を変える場合は、この条件に当たるかを確認してください。価格の変更は、POSの設定とメニュー表、予約サイトやデリバリーアプリの掲載価格を同じ日にそろえる必要があります(→POS設定)。

7. 年換算の売上で、税の登録基準を越えないか確かめる

90日分の売上があれば、年間の売上をおおまかに見積もれます。このとき確認したいのが、売上税・付加価値税の登録基準です。

仮に英国で、90日の課税売上が£30,000だったとすると、単純に年換算すれば£120,000で、基準の£90,000を超える見込みです。判定は直近12か月の累計で行うため、この売上が続けば開業から9か月を過ぎたころに累計が£90,000を超え、その月の末日から30日以内に登録することになります。登録すると、表示価格に20%のVATが含まれることになり、価格を据え置けば店の手取りは税込価格の6分の1だけ減ります。90日目の見直しでは、登録の時期を見込んだうえで、価格改定と合わせて準備を進めます。

8. 続ける・直す・止めるの判定表

判定条件の例次の行動
続ける増えた粗利が施策の費用を上回り、店内の提供や衛生の手順に悪影響がない次の見直し時期(例:180日目)を決めて継続
直して続ける効果はあるが費用が大きい、または特定の曜日・時間帯だけ効果がある対象を絞る、手数料の低いプランに変える、実施日を減らす。30日後に再判定
止める増えた粗利が費用を下回る、または一時停止しても客数が変わらない停止日を決め、契約の解約期限と、告知の方法を確認
判断を保留データが足りない(開始が遅い、記録がない)記録の方法を決め、期限付きで保留

判定表で扱うのは個々の施策です。店全体の売上や資金が、出店前に決めた撤退・縮小の基準に近づいている場合は、施策の見直しとは別の判断が必要になります(→出店判断の中止条件、撤退・縮小計画)。90日目の見直しの記録は、2号店を検討するときの材料にもなります(→2号店判断)。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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