海外出店|開業チーム

海外和食店の開業前人件費:研修・準備・待機の給与を予算に入れる方法

NYの最低賃金17ドルとチップのない研修期間、呼び出し手当(最低3時間)、英国の生活賃金12.71ポンドと雇用主国民保険料15%、シンガポールCPF、豪州アワード時給を公式ページで確認し、研修2週間の計算例と開業遅延時の待機コストの抑え方を示します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 開業前人件費に入る3つの費用
  2. ニューヨーク:チップのない期間と、呼び出し時の最低保証
  3. 英国:最低賃金と雇用主の国民保険料
  4. シンガポール:CPFの対象者と残業代
  5. オーストラリア:アワードの等級と週末の割増
  6. 計算例:研修2週間の人件費
  7. 開業が遅れたときの待機コスト

海外出店の予算で見落とされやすいのが、開業前の人件費です。内装工事費や保証金は見積書に出てきますが、スタッフを採用してから開業するまでの研修期間と、許可や工事の遅れで開業日がずれたときの待機期間の給与は、自分で見積もらなければ予算に入りません。しかも、この期間は売上がゼロです。この記事では、米国(ニューヨーク)、英国、シンガポール、オーストラリアの最低賃金と雇用主負担の制度を公式ページで確認し、開業前人件費の見積もり方を示します。

1. 開業前人件費に入る3つの費用

これに、各国の雇用主負担(社会保険料・税)と、日本から派遣する社員の費用(渡航費、滞在費、日本での給与)が加わります。日本から派遣する社員の扱いは日本からの立ち上げ支援で扱います。

2. ニューヨーク:チップのない期間と、呼び出し時の最低保証

ニューヨーク州労働局によると、2026年1月1日以降の最低賃金はニューヨーク市、ロングアイランド、ウェストチェスターで時給17.00ドル、それ以外の州内で16.00ドルです。2027年以降は、北東部の消費者物価指数の3年平均に連動して改定されます。

飲食店で注意が必要なのはチップクレジットです。ニューヨーク市の飲食サービス従業員の場合、現金賃金11.35ドルにチップクレジット5.65ドルを加えて17.00ドルとする仕組みがありますが、ホスピタリティ産業賃金命令(12 NYCRR Part 146)は、チップと賃金の合計が所定の額以上であることを条件にしています。開業前の研修期間はチップ収入がないため、ホールスタッフにも最低賃金の全額を払う前提で予算を組む必要があります。

同じ賃金命令には、開業前の予定を組むうえで重要な規定が2つあります。

雇用主の税としては、社会保障税6.2%とメディケア税1.45%(合計7.65%)が給与にかかります(内国歳入庁)。州の失業保険や労災保険の負担は別途かかるため、給与計算の代行会社や会計士に料率を確認してください。

3. 英国:最低賃金と雇用主の国民保険料

英国政府のページによると、2026年4月からの全国生活賃金(21歳以上)は時給12.71ポンド、18〜20歳は10.85ポンド、18歳未満と見習いは8ポンドです。

雇用主の国民保険料(Class 1 secondary)は、2026/27年度で、週96ポンド(年5,000ポンド)の閾値を超える給与部分に15%です。一定の条件を満たす雇用主は、雇用手当(Employment Allowance)として年10,500ポンドまで国民保険料を減らせます。新設の現地法人が対象になるかは、会計士に確認してください。

仮に週30時間の研修を時給12.71ポンドで行うと、週給は381.30ポンドです。閾値の96ポンドを超える285.30ポンドに15%がかかり、雇用主の国民保険料は1人週42.80ポンド程度になります。

4. シンガポール:CPFの対象者と残業代

中央積立基金(CPF)の拠出は、シンガポール国民と永住者で月給が50シンガポールドルを超える従業員が対象です。2026年1月1日からの拠出率は、55歳以下で月給が750シンガポールドルを超える場合、雇用主17%、従業員20%、合計37%です。就労パスで働く外国人(日本から来る料理長など)は、この表の対象になりません。現地採用のスタッフが国民・永住者か外国人かで、雇用主の負担率が変わる点を見積もりに反映します。

人材開発省(MOM)によると、残業代の支払い対象は、月給2,600シンガポールドル以下の非現業職員と月給4,500シンガポールドル以下の現業労働者です。時間あたり基本給の1.5倍以上を、給与期間の末日から14日以内に支払う必要があります。開業直前は準備で長時間になりがちなので、対象となるスタッフの残業代を見込んでおきます。

5. オーストラリア:アワードの等級と週末の割増

オーストラリアの飲食店の多くには、Restaurant Industry Award 2020が適用されます。公正労働オンブズマンの賃金計算ツールが公開している要約(2026年7月1日発効)では、フルタイム成人の最低時給は次のとおりです。

等級主な職種最低時給(2026年7月1日〜)
Introductory入職直後25.74豪ドル
Level 1ホール1級、キッチンアテンダント1級26.44豪ドル
Level 2ホール2級、調理人(cook)1級27.08豪ドル
Level 3ホール3級、調理人2級27.97豪ドル
Level 4調理人3級(有資格)29.45豪ドル
Level 5ホールスーパーバイザー31.30豪ドル
Level 6調理人5級(有資格)32.13豪ドル

アワード本文では、カジュアル(臨時)従業員には最低時給に25%の加算があり、1回の勤務につき最低2時間分を支払う必要があります。フルタイム・パートタイムの割増率は土曜125%、日曜150%、祝日225%です。開業前の研修を週末に入れると人件費が上がるため、平日に寄せるのが基本です。

要点:どの国でも、研修期間の時給は「最低賃金」ではなく「採用時に約束した時給」で見積もります。上の数字は下限であり、実際の募集では上乗せが必要になることが多いためです。

6. 計算例:研修2週間の人件費

仮に、ニューヨーク市でスタッフ10人(厨房5人、ホール5人)を採用し、開業前に1人あたり60時間の研修と準備作業を行うとします。時給は全員17ドル(最低賃金)と仮定します。

項目計算金額
給与10人×60時間×17ドル10,200ドル
社会保障税・メディケア税(雇用主分)10,200ドル×7.65%約780ドル
呼び出し手当の上乗せ短時間の説明会を2回、10人に実施した場合、各回3時間分を保証(実働1時間なら差額2時間分)10人×2回×2時間×17ドル=680ドル
小計約11,660ドル

ここに、州の失業保険・労災保険、研修の受講料(ニューヨーク市の食品保護証明書は対面講座114ドル、オンライン講座なら試験のみ24ドル)、研修中の試作に使う食材費が加わります。実際の時給が20ドルなら、給与部分は12,000ドルに増えます。

同じ考え方で、ほかの国も計算できます。仮に英国で10人が2週間、週30時間ずつ研修を受け、全員が21歳以上で時給12.71ポンドだとすると、給与は10人×60時間×12.71ポンド=7,626ポンドです。雇用主の国民保険料は1人週42.80ポンド程度なので、10人×2週で約856ポンドが加わります(雇用手当の対象になれば軽減されます)。オーストラリアで調理人3級(Level 4、時給29.45豪ドル)の5人がフルタイムで2週間(76時間)研修を受けると、給与は5人×76時間×29.45豪ドル=11,191豪ドルです。そのうち1日8時間を土曜に行えば、土曜分は125%になるため、5人×8時間×29.45豪ドル×25%=294.50豪ドルが上乗せされます。

2年目以降の昇給も見込んでおきます。ジェトロ「2025年度 海外進出日系企業実態調査」では、2026年のベースアップ率(名目)の中央値は、米国、英国、シンガポール、オーストラリア、香港でいずれも3.00%でした。全業種の日系企業の回答ですが、人件費計画の目安になります。

予算表の行の分け方

開業前人件費は、「人件費」の1行にまとめず、次のように分けて予算表に入れておくと、開業後に実績と比べやすくなります。

7. 開業が遅れたときの待機コスト

開業前人件費を大きくするのは、研修そのものより、開業日の遅れです。営業許可の検査、排気設備の工事、酒類免許などで開業が延びると、採用済みのスタッフの給与が売上のないまま続きます。上の例で、研修を終えた10人を週30時間ずつ待機させると、ニューヨーク市の最低賃金だけで週5,100ドル(雇用主の税を除く)になります。

待機コストを抑えるには、次の3つを採用計画に組み込みます。

  1. 採用日を段階に分ける:料理長と店長を先に、ホールのパートタイムは開業日の見通しが立ってから採用する(→海外和食店の採用スケジュール)。
  2. 開業日を確定させる条件を決める:営業許可の検査日が決まるまでは、パートタイムの研修開始日を確定しない。
  3. 待機期間の扱いを契約に書く:開業日が延びた場合の勤務時間と給与の扱いを、各国の労働法の範囲で雇用契約に明記する。

開業前人件費は、開業資金の予算と運転資金の両方に関わります。研修期間と待機期間を別の行にして、予算表に入れておいてください。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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