海外出店|業態・商品設計

海外ラーメン店の開業準備:スープの輸入規則・冷却・茹で麺機の能力を杯数から決める

LAで続く日本の人気店の進出、一風堂の海外事業の原価率24.2%・販管費率71.0%の開示を踏まえ、日本産豚由来原料の米国・シンガポール輸入規則、スープの仕込み量と冷却基準、茹で麺機のてぼ数とピーク杯数の計算、NYCの塩分警告表示を解説します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 米国では人気店の進出が続き、市場は成熟に向かっている
  2. 一風堂の海外事業の数字:原価率より固定費が利益を左右する
  3. スープの素を日本から送れるか:豚由来原料の輸入規則
  4. スープの仕込み量と冷却手順を、1日の杯数から決める
  5. 麺と湯量:茹で麺機の能力がピーク時の杯数を決める
  6. ニューヨーク市の塩分警告表示:チェーン展開を考えるなら
  7. 開業前の試作と検証の順番

ラーメン店の開業準備は、日本の店の味を現地で再現することから始まりますが、海外ではそれ以前に「そのスープの材料を現地で調達できるのか」「1日に何杯分を炊いて、どう冷やすのか」「ピーク時に何杯茹でられるのか」を決めなければ、厨房の設備も人員も決まりません。この記事では、ジェトロの米国調査、力の源ホールディングス(一風堂)の開示、米国農務省とシンガポール食品庁の輸入規則、FDA Food Code 2022、ニューヨーク市保健法を材料に、スープ・麺・湯量をそろえるための準備を整理します。

1. 米国では人気店の進出が続き、市場は成熟に向かっている

ジェトロの「2025年度 米国における日本食レストラン動向調査」は、ロサンゼルスでのラーメン店の進出を具体的に挙げています。2025年12月に「天下一品」がリトル東京に米国1号店を開き、2022年には「ラーメン凪」の米国3店舗目がセンチュリーシティに、2025年5月には「MENSHO TOKYO」がカルバーシティに出店しました。カルバーシティにはすでに「AFURI」と「一風堂」もあり、同調査は新たなラーメンの聖地として注目されていると書いています。

一方で、同じ調査は北カリフォルニアのラーメン市場について、かつての急速な人気から一段落し、成熟期に入っている印象だとしています。日本の有名店と同じ通りで競うことになる都市では、「日本のラーメン」であること自体は差別化になりにくく、スープと麺の再現度と、提供の安定性が問われます。

2. 一風堂の海外事業の数字:原価率より固定費が利益を左右する

力の源ホールディングスの決算補足説明資料(2026年3月期第3四半期、2026年2月12日)は、海外店舗運営事業の2025年1〜9月の実績を次のように開示しています。

項目実績前年同期
売上高104億1,100万円(前年比3.8%減)—
売上原価率24.2%24.5%
販売費及び一般管理費率71.0%68.8%
営業利益率4.7%6.7%
出店・閉店12店出店、11店閉店(純増1店)—

資料は減益の理由として、新規国(スペイン)や新規エリア開発に伴う初期コストに加え、前年を下回る売上水準に伴う人件費など固定費比率の上昇を挙げています。原材料・人件費・家賃のインフレに対しては、価格転嫁やコスト見直しを実施しているとしています。売上原価率は前年とほぼ同じなのに、販管費率が2ポイント以上上がって営業利益率が下がった、という構図です。

同社の中期計画の説明には、既存の直営エリアについて「セントラルキッチン等の導入コストがかかる初期フェーズは終了」という記述もあります。スープを店で炊くか、セントラルキッチンで炊いて各店に配るかは、1店目の段階では過大な投資になりやすく、店数が増えて初めて回収できる設備だということが読み取れます。1店目の計画では、店内で炊く前提で厨房と人員を組み、原価率よりも固定費(家賃と人件費)が売上の変動に耐えられるかを先に確かめておく必要があります。

3. スープの素を日本から送れるか:豚由来原料の輸入規則

日本で使っている豚骨スープの濃縮品やチャーシュー用の加工品を送れば味をそろえやすい、と考えがちですが、豚由来の原料は輸入規則の対象です。

実務上は、日本の製品を送れるかどうかを最初の3か月で確かめ、送れない場合は現地の豚骨・鶏ガラで炊く前提に切り替える、という判断の期限を決めておくと、試作が迷走しません。現地の骨は、部位の形、血抜きの状態、脂の量が日本と違うことが多く、同じレシピでも炊き上がりの濃度が変わります。

4. スープの仕込み量と冷却手順を、1日の杯数から決める

店で炊く場合、仕込み量は「1日の想定杯数×1杯あたりのスープ量+炊き減り」で決まります。数字は仮定ですが、1日200杯、1杯あたりスープ350ml、炊き上がりまでに半分に煮詰まるとすると、1日に炊く量は約140リットルです。寸胴の容量、ガスの火力、骨の保管場所は、この数字から逆算します。

翌日に持ち越すスープは冷却の手順が決まっています。FDA Food Code 2022は、加熱後に冷やす食品を57℃から21℃まで2時間以内、さらに5℃以下まで合計6時間以内に冷やすことを求め(3-501.14)、営業中に保温する場合は57℃以上に保つよう定めています(3-501.16)。寸胴のまま冷蔵庫に入れても2時間で21℃まで下がることは通常ありません。浅い容器への小分け、氷水での冷却、急速冷却機のどれで達成するかを決め、冷却の記録をとる表を用意しておきます(計画書全体の作り方は衛生管理計画の記事、記録の付け方は温度記録の記事を参照してください)。

現地の骨で炊いたスープを日本の味に合わせるには、「濃い」「薄い」を感覚ではなく数値で比べる仕組みが要ります。一風堂は創業40周年の施策として、特濃とんこつスープを現代風にした「高濃度BRIXラーメン」を出したと同じ資料で紹介しています。スープの濃さをBrix(糖度計の読み)のような数値で表す考え方は、海外店の試作にも使えます。日本の店で炊き上がり時のBrixと塩分濃度を測って基準値にしておけば、現地の試作で差がどれだけあるかを、日本にいる料理長とも数字で共有できます。

要点:スープを毎日使い切るか、翌日に持ち越すかで、必要な設備が変わります。持ち越すなら冷却設備と記録、使い切るなら炊き始めの時刻と閉店前の杯数の読みが要になります。

5. 麺と湯量:茹で麺機の能力がピーク時の杯数を決める

ラーメン店の1時間あたりの提供能力は、多くの場合、茹で麺機で決まります。計算の例を示します(数字はすべて仮定です)。

麺を日本から冷凍で送るのか、現地の製麺所に委託するのか、店内で製麺するのかによって、茹で時間と湯の汚れ方は変わります。委託の場合は、試作の段階で「茹で時間」「茹で上がりの重量」を仕様書に書き、ロットごとに確かめます(仕入先との取り決めは仕入先の選び方で扱っています)。ラーメンの経験者を料理長に置けるかどうかも、この仕様を現地で維持できるかに直結します(→ラーメン職人の採用)。

6. ニューヨーク市の塩分警告表示:チェーン展開を考えるなら

ニューヨーク市保健法81.49条は、同じ名称で実質的に同じメニューを出す15店以上のチェーンに属する飲食店に対し、1品あたりのナトリウムが2,300mg以上の料理について、メニューの料理名の横に黒白の三角形のアイコンを表示し、注文する場所に定められた警告文を掲示するよう求めています。セットの場合は、組み合わせのどれかが2,300mg以上になれば対象です。違反の罰金は200ドルで、2015年12月1日に施行されています。

2,300mgは、食塩に換算するとおよそ5.8gです(ナトリウム量に2.54を掛けて換算)。スープを飲み干す前提で計算すると、濃いめのラーメンではこの値に近づくことがあります。1店目は対象外でも、同じ名前で多店舗化する計画があるなら、開業時のレシピの段階で1杯あたりのナトリウム量を把握しておくと、後でメニュー表示を作り直す手間が省けます。

7. 開業前の試作と検証の順番

時期の目安やること判断の基準
物件契約の前後日本の製品(スープの素、たれ、麺)を送れるか、輸入規則と通関を確認送れない品目は現地調達に切り替える期限を決める
内装設計の段階1日の想定杯数から寸胴の数、火力、冷却設備、茹で麺機のてぼの数を決めるピーク15分の注文数を処理できるか
開業3〜2か月前現地の骨・水・小麦粉で試作。スープ濃度と麺の茹で時間を記録日本の店の基準値との差を数値で比較
開業1か月前冷却手順と保温温度の記録表を運用。模擬営業で湯替えのタイミングを確認2時間で21℃、6時間で5℃を達成できるか
多店舗化の検討時1杯あたりのナトリウム量、カロリーの把握。セントラルキッチンの要否NYCなど表示規則のある都市の基準

スープ・麺・湯量は、それぞれ別の担当者が別の時期に決めがちですが、実際には「1日に何杯出すか」という1つの数字でつながっています。この数字を事業計画から厨房の設計まで同じ値で使うことが、開業準備の出発点になります。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

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