給与・コスト

米国のチッププール:厨房スタッフへの分配ルール

2018年の法改正後の米国連邦法(FLSA)のチッププール規則。チップクレジットか最低賃金全額かの選択、チップクレジットを認めない州、寿司・鉄板焼きシェフの扱い、チップ受領従業員に該当すると残業とビザの賃金がどう変わるかを解説します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

連邦法上、厨房スタッフが強制参加のチッププールに加われるのは、プールの全員に最低賃金を現金で全額支払い、誰についてもチップクレジットを使わない場合に限られます。お客様から見える場所で働く寿司職人や鉄板焼きシェフは、それ自体がチップ受領従業員に当たることが多く、保証される賃金、残業単価、そしてビザによっては約束した賃金にチップを算入できるかどうかまで変わってきます。

米国の和食店には、ほかの多くのレストランにはないチップの悩みがあります。お客様がお礼を伝える相手が料理人であることが多いからです。本ガイドは、連邦の公正労働基準法(FLSA)による厨房スタッフのチッププールのルールを2026年9月時点で確認した内容に基づいて解説し、あわせてチップクレジットそのものを認めていない州も扱います。州や市の法律はより厳しい場合があるため、各州のルールとあわせてお読みください。

目次

  1. 連邦法の基本
  2. 2つの方式の比較
  3. チップクレジットが使えない州
  4. 寿司職人・鉄板焼きシェフの位置づけ
  5. 「チップ受領従業員」に該当すると何が変わるか:残業とビザの賃金
  6. マネージャー、オーナー、料理長
  7. サービス料はチップではない
  8. 日本の料理人にチップ込みの条件を提示する
  9. よくある質問

1. 連邦法の基本

2018年の変更点

2018年3月23日、連邦議会は2018年統合歳出法を成立させ、FLSA第3条(m)を改正しました。これにより、チップクレジットを使うかどうかにかかわらず、雇用主が従業員のチップを受け取ること(マネージャーやスーパーバイザーに一部を取らせることを含む)が禁止されました。DOLは、連邦最低賃金を全額支払う雇用主は、調理スタッフや皿洗いなどもチッププールに参加させられると確認しています。同法はまた、チップの返還と同額の付加賠償金に加えて、DOLに民事制裁金を科す権限を与えました。DOLの規則は2020年12月30日公布の最終規則で改正され、2021年9月24日に一部撤回・修正されています。

2. 2つの方式の比較

方式A:チップクレジットを使う方式B:最低賃金全額を現金で支払う
連邦法上の現金賃金の下限時給2.13ドル以上時給7.25ドル以上(州の最低賃金が高ければその額)
強制参加のプールに入れる人通常かつ定期的にチップを受け取る従業員のみ(サーバー、バーテンダー、バッサー、および第4章のチップ受領料理人)通常チップを受け取らない調理スタッフや皿洗いも含め、誰でも
マネージャー、スーパーバイザー、オーナーいずれの方式でもプールから除外いずれの方式でもプールから除外
チップ対象時間あたりの人件費(連邦下限)現金2.13ドル、チップ不足分は補填チップにかかわらず現金7.25ドル
この選択に固有の記録チップクレジットを使う前に、現金賃金と充当額を従業員へ書面で通知通常の給与記録以上のものは不要
主なリスク通常チップを受け取らない職種を誤ってプールに入れた場合、未払い賃金と同額の付加賠償金プールの構成に関するリスクは低いが、保証する現金賃金が高くなる

厨房スタッフにとってすべてを決める要点はこれです。バックヤードのスタッフが強制参加のチッププールに加われるのは、そのプールの誰についてもチップクレジットを使っていない場合に限られます。サーバーに時給2.13ドルを払い、チップを最低賃金に充当しているなら、プールは通常かつ定期的にチップを受け取る職種にとどめなければなりません。

3. チップクレジットが使えない州

連邦法は下限を定めているだけです。日本食レストランが多い州のいくつかは、そもそもチップクレジットを認めておらず、そこでは方式Aは選べません。プールに入れる調理スタッフも含め、すべてのチップ受領従業員がすでに州の最低賃金全額を現金で受け取っている必要があります。2026年7月時点で、州の最低賃金全額を支払う必要がある州はアラスカ、カリフォルニア、グアム、ミネソタ、モンタナ、ネバダ、オレゴン、ワシントンです。

それ以外の州ではチップクレジットが州独自の計算式で認められており、連邦の2.13ドルより高いチップ受領従業員の現金賃金を定めている州もあります(ニューヨーク州のホスピタリティ賃金規則はその一例です)。プールを設計する前に、各州の労働局が公表する最新のチップ受領従業員の最低賃金を確認してください。上記の州以外だからといって連邦の数字がそのまま当てはまるとは限りません。

4. 寿司職人・鉄板焼きシェフの位置づけ

ここが和食店ならではの点です。DOLの賃金時間局は、意見書FLSA2008-18(2008年12月19日)で、板前(itamae-sushi chef)は通常かつ定期的にチップを受け取る職種であると結論づけています。ホールで牡蠣をむくスタッフについての意見書FLSA2025-03(2025年9月30日)では、その仕事を「ホール側で働く板前や鉄板焼きシェフ」になぞらえたうえで判断基準を示しました。チップを残すお客様に対してサービスに関わる仕事をし、十分な接点を持っていることが必要、というものです。

実務上は次のようになります。

意見書は、そこに書かれた事実関係に対するものです。参考にはなりますが、自店にもそのまま当てはまる保証ではありません。

5. 「チップ受領従業員」に該当すると何が変わるか:残業とビザの賃金

料理人をチップ受領従業員と呼ぶことは、何の影響もないラベルではありません。3つの数字が動きます。

6. マネージャー、オーナー、料理長

どちらの方式でも、雇用主、マネージャー、スーパーバイザーはプールからチップを受け取れません。DOLは職務内容で判断します。マネージャーまたはスーパーバイザーとは、事業全体または一般に認められた部門の管理を主たる職務とし、フルタイム換算で2人以上の従業員の仕事を通常かつ定期的に指揮し、採用・解雇の権限を持つか、採用・解雇についての意見が特に重視される従業員をいいます。

多くの料理長はこの基準に当てはまります。厨房を仕切り、複数の調理スタッフを指揮し、採用を決めている総料理長は、夜の営業で寿司カウンターに立っていても、プールから除外される可能性が非常に高いといえます。ただしDOLの規則では、マネージャーやスーパーバイザーが自ら直接提供したサービスに対してお客様から直接受け取ったチップは、本人が受け取ってよいとされています。カウンターに立つオーナーは雇用主と同じ立場であり、プールの分配を受けることはできません。

寿司の料理長が採用や解雇も担っているのであれば、その役割に見合った給与と賞与で報いてください。チッププールを報酬の手段にせず、ビザの給与要件を満たす手段にもしないでください。

7. サービス料はチップではない

DOLは、会計の15%のような強制的なサービス料はFLSA上のチップではないとしています。サービス料から従業員に支払われる金額はチップではありませんが、雇用主の最低賃金と残業代の支払義務に充てることができ、残業代を計算する際の通常賃金にも含めなければなりません。FLSAのチッププールの制限はチップに対するものなので、サービス料は、州法の範囲内でバックヤードのスタッフに報いるもう一つの独立した手段になります。お客様にはその料金の性質を明確に伝え、スタッフへのチップでないものをそのように見せないでください。サービス料を規制している州もあるため、各州のルールをご確認ください。

8. 日本の料理人にチップ込みの条件を提示する

日本から採用する料理人には、収入の一部がチップという仕組みの前例がありません。日本の厨房の給与はほぼすべて月給の固定額だからです。まず保証される下限を書面で、2か国語で示し、それ以外はすべて変動分だと明記してください。

English
Position: [sushi counter chef]. Guaranteed cash wage: [US$2.13] an hour under the federal tip credit ([US$7.25] if your state requires full minimum wage; see section 3), topped up to at least [US$7.25 / your state minimum] an hour in any week tips do not reach it. Estimated tips based on our last 12 months' records: [US$X to US$Y] an hour, not guaranteed and not a term of this contract. Tip pool: [chef participates as a customarily tipped, front-of-house role / does not participate]. Overtime: paid at 1.5 times the full minimum wage, minus the standard tip credit, for hours over 40 in a week.

日本語
職種:[寿司カウンター担当]。保証される現金賃金:連邦のチップクレジット制度で時給[2.13米ドル](州が最低賃金全額を義務付けている場合は[7.25米ドル]。第3章参照)。その週のチップがこれに届かない場合は、時給[7.25米ドル/その州の最低賃金]以上になるよう会社が補填します。過去12か月の実績に基づく目安のチップ額は時給[ ]〜[ ]米ドルで、保証額ではなく契約の条件でもありません。チッププール:[慣習的にチップを受け取るホール側の職種として参加します/参加しません]。残業:週40時間を超える分は、最低賃金全額の1.5倍から通常のチップクレジット分を差し引いた額を支払います。

日本人料理人の採用にかかる費用の全体像は海外からの料理人採用の予算の立て方と米国の料理人のプリベイリング・ウェージを、パッケージ全体の交渉は料理人の給与交渉をご覧ください。

変わる数字:連邦の現金賃金とチップクレジット(2.13ドル/5.12ドル/7.25ドル)は2009年から変わっていませんが、議会での見直し対象です。州のチップ受領従業員向け最低賃金とチップクレジットを認めない州のリストは、通常毎年1月または7月に更新されます。DOLの意見書は個別事案ごとに出されます。2026年9月27日確認。

よくある質問

厨房スタッフはサーバーと同じチッププールに入れますか。

そのプールの全員に最低賃金を現金で全額支払い、誰についてもチップクレジットを使わない場合に限り可能です。サーバーに時給2.13ドルをチップクレジットで払っているなら、プールは通常かつ定期的にチップを受け取る従業員にとどめなければなりません。

寿司職人は連邦法上チップ受領従業員に当たりますか。

カウンターに立ち、お客様と接し、料理を出しているなら該当することが多いです。DOLは2008年の意見書以来、板前を通常のチップ受領職種として扱っています。お客様から見えない場所で調理するスタッフは、肩書にかかわらず該当しません。

チップクレジットをまったく認めていない州はどこですか。

2026年7月時点で、アラスカ、カリフォルニア、グアム、ミネソタ、モンタナ、ネバダ、オレゴン、ワシントンです。これらの州では、プールに入れる調理スタッフも含め、すべてのチップ受領従業員がすでに州の最低賃金全額を現金で受け取っている必要があります。

チップ受領従業員の残業代はどう計算しますか。

チップクレジットを使っていても、減額前の最低賃金全額を基準に計算します。連邦の下限では7.25ドル×1.5から、標準の5.12ドルのチップクレジットを差し引いた、残業時間あたり現金約5.755ドルです。

チップをビザの給与要件に算入できますか。

算入できるとは確認できませんでした。DOLのH-2B賃金ガイダンスは歩合給・賞与・その他のインセンティブを提示賃金に算入できるものとして挙げていますが、チップには触れていません。移民法専門の弁護士が確認するまでは、ビザの賃金下限をチップとは別の保証された現金の数字として扱ってください。

採用・解雇の権限を持つ料理長はチッププールから分配を受けられますか。

受けられません。DOLのマネージャー・スーパーバイザーの職務基準(一般にフルタイム換算2人以上を指揮し、実質的な採用・解雇の権限を持つ)に該当する人は、カウンターに立つこともあっても、どちらの方式でもプールから除外されます。

本記事は一般的な情報であり、法律上の助言ではありません。本ガイドは連邦のルールと一部の州の状況を扱っています。チップクレジット、チッププール、サービス料に関する州や地域の法律はさらに異なり、より厳しい場合があります。チッププールを導入・変更する前に、所在州の労働法専門の弁護士にご相談ください。

出典

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