給与・コスト

米国のチッププール:厨房スタッフへの分配ルール

2018年の法改正後の米国連邦法(FLSA)のチッププールのルール。調理スタッフが分配を受けられる条件、寿司職人や鉄板焼きシェフの扱い、マネージャーの除外、サービス料との違いを解説します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 連邦法の基本
  2. 2つの方式:チップクレジットか、最低賃金全額か
  3. 寿司職人・鉄板焼きシェフの位置づけ
  4. マネージャー、オーナー、料理長
  5. サービス料はチップではない
  6. チッププールの運用:手数料、支払時期、記録
  7. 方式の選び方

米国の和食店には、ほかの多くのレストランにはないチップの悩みがあります。お客様がお礼を伝える相手が料理人であることが多いのです。寿司カウンターの板前や、目の前で焼く鉄板焼きのシェフがそうです。一方で、奥の厨房のスタッフはお客様の目に触れない仕事をしています。両者の間でチップをどう分けるかは連邦の公正労働基準法(FLSA)で定められており、そのルールは2018年に変わりました。

本ガイドでは、米国労働省(DOL)が示している連邦のルールを、2026年9月時点で確認した内容に基づいて解説します。州や市の法律はより厳しい場合があるため、各州のルールとあわせてお読みください。

1. 連邦法の基本

2018年の変更点

2018年3月23日、連邦議会は2018年統合歳出法(Consolidated Appropriations Act, 2018)を成立させ、FLSA第3条(m)を改正しました。これにより、チップクレジットを使うかどうかにかかわらず、雇用主が従業員のチップを受け取ること(マネージャーやスーパーバイザーに一部を取らせることを含む)が禁止されました。DOLは当時、連邦最低賃金を全額支払う雇用主は、調理スタッフや皿洗いなどもチッププールに参加させられるようになったと説明しています。同法はまた、チップの返還と同額の付加賠償金に加えて、違反1件あたり最大1,100ドル(インフレ調整あり)の民事制裁金を科す権限をDOLに与えました。DOLの規則は2020年12月30日公布の最終規則で改正され、2021年9月24日に一部撤回・修正されています。

2. 2つの方式:チップクレジットか、最低賃金全額か

方式A:チップクレジットを使う方式B:最低賃金以上を全額現金で支払う
チップ受領スタッフへの現金賃金連邦法では時給2.13ドル以上連邦法では時給7.25ドル以上(州の最低賃金が高ければその額)
強制参加のチッププールに入れる人通常かつ定期的にチップを受け取る従業員のみ(サーバー、バーテンダー、バッサーなど)通常チップを受け取らない従業員(調理スタッフ、皿洗いなど)も含められる
マネージャー、スーパーバイザー、オーナープールからチップを受け取れないプールからチップを受け取れない
プールへの拠出割合の上限連邦法上の上限なし連邦法上の上限なし

厨房スタッフにとっての要点は、バックヤードのスタッフが強制参加のチッププールに加われるのは、プール参加者の誰についてもチップクレジットを使わない場合に限られるということです。サーバーに時給2.13ドルを払い、チップを最低賃金に充当しているのであれば、プールは通常かつ定期的にチップを受け取る職種の中にとどめなければなりません。

3. 寿司職人・鉄板焼きシェフの位置づけ

ここが和食店ならではの点です。DOLの賃金時間局は、意見書FLSA2008-18(2008年12月19日)で、板前(itamae-sushi chef)は通常かつ定期的にチップを受け取る職種であると結論づけています。また、ホールで牡蠣をむくスタッフについての意見書FLSA2025-03(2025年9月30日)では、その仕事を「ホール側で働く板前や鉄板焼きシェフ」になぞらえたうえで、判断基準を示しています。チップを残すお客様に対してサービスに関わる仕事をし、十分な接点を持っていることが必要、というものです。

実務上は次のようになります。

意見書は、そこに書かれた事実関係に対するものです。参考にはなりますが、自店にもそのまま当てはまる保証ではありません。

4. マネージャー、オーナー、料理長

どちらの方式でも、雇用主、マネージャー、スーパーバイザーはプールからチップを受け取れません。DOLは職務内容で判断します。マネージャーまたはスーパーバイザーとは、事業全体または一般に認められた部門の管理を主たる職務とし、フルタイム換算で2人以上の従業員の仕事を通常かつ定期的に指揮し、採用・解雇の権限を持つか、採用・解雇についての意見が特に重視される従業員をいいます。

多くの料理長はこの基準に当てはまります。厨房を仕切り、複数の調理スタッフを指揮し、採用を決めている総料理長は、夜の営業で寿司カウンターに立っていても、プールから除外される可能性が非常に高いといえます。ただしDOLの規則では、マネージャーやスーパーバイザーが自ら直接提供したサービスに対してお客様から直接受け取ったチップは、本人が受け取ってよいとされています。カウンターに立つオーナーは雇用主と同じ立場であり、プールの分配を受けることはできません。

寿司の料理長が採用や解雇も担っているのであれば、その役割に見合った給与と賞与で報いてください。チッププールを報酬の手段にしてはいけません。

5. サービス料はチップではない

DOLは、会計の15%のような強制的なサービス料はFLSA上のチップではないとしています。サービス料から従業員に支払われる金額はチップではありませんが、雇用主の最低賃金と残業代の支払義務に充てることができ、残業代を計算する際の通常賃金にも含めなければなりません。FLSAのチッププールの制限はチップに対するものなので、サービス料は、州法の範囲内でバックヤードのスタッフに報いるもう一つの手段になります。お客様にはその料金の性質を明確に伝え、スタッフへのチップでないものをそのように見せないでください。サービス料を規制している州もあるため、各州のルールをご確認ください。

6. チッププールの運用:手数料、支払時期、記録

7. 方式の選び方

方式Aは現金賃金の負担を抑えられますが、厨房スタッフはプールに入れません。方式Bは基本給のコストが上がりますが、チームの全員でチップを分け合えます。米国労働統計局によるとレストランの調理スタッフの賃金の中央値は年37,390ドル(2025年5月)で、そうした市場で調理スタッフの定着に役立つ可能性があります。州法ですでにチップ受領スタッフにも最低賃金の全額支払いが義務づけられているなら、方式Bによる追加負担はわずかです。

日本人料理人の採用にかかる費用の全体像は海外からの料理人採用の予算の立て方米国の料理人のプリベイリング・ウェージを、ホールの体制をこれから考える場合はホールスタッフの採用をご覧ください。

本記事は一般的な情報であり、法律上の助言ではありません。本ガイドは連邦のルールのみを扱っています。チップクレジット、チッププール、サービス料に関する州や地域の法律は異なり、より厳しい場合があります。チッププールを導入・変更する前に、所在州の労働法専門の弁護士にご相談ください。

出典

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