採用の進め方

海外出向の出向契約・雇用契約の作り方

海外店舗への出向は、会社間の出向契約と本人への労働条件明示の2つが必要です。労働契約法第14条、労働基準法第15条・第16条、2024年4月からの明示ルールを踏まえ、書くべき項目を整理します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 必要な書面は2種類
  2. 出向命令と労働条件明示のルール
  3. 会社間の出向契約に書く項目
  4. 料理人本人に渡す書面
  5. 渡航費の返還条項に注意
  6. 現地採用の雇用契約
  7. 作成前のチェックリスト

日本の外食企業が海外の子会社や提携先に料理人を出向させるとき、「辞令を出して現地に行ってもらう」だけで済ませてしまうと、後で給与の負担、社会保険、帰任時期をめぐって社内外で揉めがちです。出向は、日本の会社、海外の会社、料理人本人の三者が関わる関係なので、書面で決めておくべきことが多くなります。

この記事では、日本の法令で確認できるルールと、書面に落とすべき項目を整理します。法令の記述はe-Gov法令検索と厚生労働省の資料で確認したものに限っています。個別の契約書は、必ず社会保険労務士や弁護士の確認を受けてください。

1. 必要な書面は2種類

書面当事者決めること
出向契約(出向協定)日本の会社(出向元)と海外の会社(出向先)期間、業務、給与と費用の負担、社会保険の手続き、指揮命令、帰任・中途解約
出向命令と労働条件の明示日本の会社と料理人本人就業場所と業務、賃金、労働時間、休日、帰任後の扱い

現地の会社が直接雇う現地採用の場合は、現地の会社と本人の間の雇用契約が中心になり、勤務国の労働法に従って作ります(第6章)。出向と現地採用のどちらを選ぶかは海外赴任と現地採用の違いで比較しています。

2. 出向命令と労働条件明示のルール

出向命令の権利濫用(労働契約法第14条)

労働契約法第14条は、使用者が労働者に出向を命じることができる場合でも、その出向命令が、必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして権利を濫用したものと認められる場合には、命令は無効になると定めています。海外出向は生活への影響が大きいため、なぜその料理人なのか、なぜその期間なのかを説明できるようにしておくことが大切です。

労働条件の明示(労働基準法第15条、同施行規則第5条)

労働基準法第15条第1項は、労働契約の締結に際して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示することを使用者に義務づけています。明示すべき事項は労働基準法施行規則第5条に列挙されており、その中に「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」があります。厚生労働省によると、この変更の範囲の明示は2024年4月からのルールです。

将来、海外店舗への出向がありうる職種で採用する場合は、採用時の労働条件通知書の段階で、就業場所の変更の範囲に海外の事業所が含まれることを示しておくのが筋です。

また、同条第2項は、明示された労働条件が事実と違う場合、労働者は即時に労働契約を解除できるとし、第3項は、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者が必要な旅費を負担しなければならないとしています。海外に呼んだ料理人との条件の食い違いは、会社にとっても大きな負担になりえます。

3. 会社間の出向契約に書く項目

出向契約の内容は、社会保険や税の扱いに直結します。次の項目は最低限決めておきたい内容です。

項目書く内容なぜ重要か
期間開始日、予定期間、延長の手続き1年以上か未満かで所得税の居住者・非居住者の判定が変わる。協定国では5年が社会保険の区切りになる
業務と役職料理長、厨房責任者など具体的にビザの申請内容と一致させる必要がある
給与の支払元と負担割合日本側・現地側それぞれが払う項目と金額、通貨日本の健康保険・厚生年金の「報酬等」に含まれるかは、出向元の規定上どちらが払うかで変わる
社会保険・労災の手続き適用証明書の申請、労災保険の海外派遣者特別加入、現地の保険の手配の担当申請は日本の事業主が行うものが多い
費用負担渡航費、住居、赴任手当、一時帰国、ビザ費用国によっては法令で雇用主負担が決まっている
指揮命令と労務管理日々の業務の指示、勤怠管理、評価をどちらが行うか現地の労働時間規制に従う必要がある
帰任と中途解約帰任の時期と手続き、出向先の事情で終了する場合の扱い開業の遅れや閉店の際の揉め事を防ぐ

給与の支払元について補足します。日本年金機構のリーフレットでは、海外の事業所から支給される給与でも、出向元の給与規定や出向規定などで実質的に出向元から支払われていると確認できれば、保険料の計算の基礎となる「報酬等」に算入するとしています。規定の書き方ひとつで保険料が変わるため、出向規定と出向契約はセットで作ってください。

労災保険については、厚生労働省によると、日本国内の事業主から海外の事業に労働者として派遣される人は特別加入の手続きができます。申請は派遣元の事業主が行います。

4. 料理人本人に渡す書面

出向命令書(辞令)とあわせて、出向中の労働条件を書面で示します。次の項目を含めると、着任後の行き違いを減らせます。

住居と渡航費の設計は住居・渡航費・赴任手当の設計、社会保険は料理人の年金・健康保険の扱い、税は海外勤務者の税金で詳しく解説しています。

5. 渡航費の返還条項に注意

「赴任から2年以内に退職したら渡航費を全額返す」といった条項を入れたいという相談はよくあります。労働基準法第16条は、使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定めています。

早期退職時の費用返還を定める条項がこの規定との関係でどう評価されるかは、条項の内容や費用の性質によって変わります。日本の法令が適用される出向者の場合はもちろん、現地採用で勤務国の法令が適用される場合も、現地で同様の制限がないか確認が必要です。条項を入れる場合は、必ず専門家に確認してください。

6. 現地採用の雇用契約

現地の会社が直接雇う場合、雇用契約は勤務国の労働法に従います。最低賃金、労働時間、試用期間、解雇の手続きなど、国ごとに決まりがあり、就労ビザの条件として雇用契約の内容が審査される国もあります。英語での契約書の項目はChef employment contract checklist、オファーレターの書き方はChef offer letter templateを参考にしてください。

日本語と現地語(英語など)の2言語で契約書を作る場合は、どちらの言語の版が優先するかを必ず書いておきます。料理人本人が内容を理解できる言語の版を渡すことも、行き違いを防ぐうえで大切です。

7. 作成前のチェックリスト

  1. 採用時の労働条件通知書に、就業場所の変更の範囲として海外の事業所が含まれているか。
  2. 出向の必要性と人選の理由を説明できるか(労働契約法第14条)。
  3. 出向期間が1年以上か未満か、協定国なら5年を超えるかを決めたか。
  4. 給与の支払元と、出向規定上の扱いを決めたか。
  5. 適用証明書、労災保険の特別加入、現地の保険の担当を決めたか。
  6. 費用負担のうち、勤務国の法令で雇用主負担が決まっているものを確認したか。
  7. 費用返還条項を入れる場合、専門家の確認を受けたか。

本記事は一般的な情報であり、法務・労務に関する助言ではありません。出向契約・雇用契約の有効性や解釈は個別の事情と適用される法令によって異なります。2026年9月時点で確認した下記の一次情報をご確認のうえ、社会保険労務士、弁護士などの専門家にご相談ください。

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