採用の進め方

海外で法的リスクになる日本の厨房の慣行

仕込みの未記録、残業代込みの給与、名ばかりの休憩など、日本の厨房の慣行が海外でどう法的リスクになるかを解説。米・英・シンガポール・豪州の早見表と、国別・毎月の確認リスト付き。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

日本の厨房ではただの慣行にすぎないことが、海外では法律上の弱点になります。仕込みの未記録、実際の労働時間を確かめない「残業代込み」の給与、書類上だけの休憩。どれも店のある国の労働法に照らして判断され、未払い賃金の請求につながります。まず慣行そのものを直してください。すべての労働時間を記録し、固定手当が実際の残業に見合うか確かめ、職務・給与・勤務地を変える前にビザの条件を確認します。

このページは、海外で店を運営する日本のオーナーや本社担当者が、これまでのやり方が今の国では通用しないのではと感じたときのためのものです。日本の厨房の慣行が海外でどう問題になるかと、米・英・シンガポール・豪州の要点表を扱います。より詳しい国別の残業ルールはchef overtime rules by country(英語)にまとめており、ここでは繰り返しません。契約書に書くべき条項は雇用契約のチェックリストで扱います。

目次

  1. 海外で法的リスクになる日本の厨房の慣行
  2. すべてに優先するルール:現地の労働法
  3. 雇用条件の書面:いつまでに渡すか
  4. 早見表:労働時間・最低賃金・休暇・給与明細
  5. ビザの条件と労務の変更
  6. 国別・毎月の確認リスト

1. 海外で法的リスクになる日本の厨房の慣行

日本の厨房で長く働いてきたオーナーや料理長は、その厨房の慣行を海外にも持ち込みます。こうした慣行の多くは日本では珍しくなく、日本国内でも厚生労働省の指針ぎりぎりのものもあります。海外では、それぞれが別の国の法律に照らして判断され、いくつかは名前の付いた具体的な請求につながります。

慣行具体的には海外でのリスク
仕込み・片付けの時間を記録しない打刻の前に出勤し、打刻の後まで残る。「それは労働ではない」という扱い店の指示で実際に働いた時間の未払い賃金。米国ではFLSA上、遡及払いに加えて懲罰的な加算がつくこともある
「残業代込み」の給与日本の固定残業代の発想のまま、月給に無制限の残業が含まれているとみなすFLSAでは固定給を実労働時間と照合する必要があり、週40時間超の割増(通常賃金の1.5倍)に届かない分は不足として遡って請求されうる(最大で2〜3年分)
書類上はあるが取れていない休憩60分休憩と規定書類にはあるが、営業中は実際に手が止まらない実質的に業務から解放されていない休憩は労働時間とみなされ、残業代の計算が膨らむ
給与計算を通さない現金の上乗せ遅い時間の終業や忙しい日への現金手当を、給与とは別に渡す記録上の賃金が実際より低くなり、そこから計算する残業割増も低くなる。労務の問題とは別に税務・社会保険上のリスクも生じる
見習い扱いの無給訓練「まだ勉強中」として、訓練シフトの間は勤務時間として扱わない雇用主の指示で行う訓練は通常は労働時間であり、無給として扱うことは未払い賃金請求の火種になる

「日本人同士だから日本式で」は、このページで扱う4か国のどこでも通用しませんし、他のどの国でも通用しないと考えてください。現地法人が現地で採用した料理人も、日本から送った料理人も、店に立つ時点で同じ法律の下にいます。

2. すべてに優先するルール:現地の労働法

現地法人が雇う料理人には、例外なくその国の労働法に基づく雇用契約、労働時間の記録、給与計算が必要です。日本の本社が出向させる場合は、日本の会社との雇用関係も並行して残るため、日本側と現地側の両方の規則を同時に確認することになります。出向と現地採用の違いは海外赴任と現地採用の比較で扱います。

3. 雇用条件の書面:いつまでに渡すか

国公式に示されている要件
英国雇用条件の書面のうち主要部分は勤務初日までに、残りは開始から2か月以内に渡す。変更は1か月以内に通知する
シンガポール主要雇用条件(KETs)を勤務初日から14日以内に、人材省が定める項目を含めて書面で渡す

日本から料理人を呼ぶ場合、雇用契約はビザ申請前に交わすのが普通なので、実務上はこの期限よりずっと早く書面ができています。大事なのは、ビザ申請に使った条件と、実際に渡す書面と、実際の働き方が一致していることです。契約書の項目は雇用契約のチェックリストにまとめています。

4. 早見表:労働時間・最低賃金・休暇・給与明細

直接確認できた4か国の要点をまとめたもので、全体像ではありません。詳しい残業ルール(他国を含む)はchef overtime rules by country(英語)にあり、ここでは表を繰り返しません。

国残業、一言で確認できた最低賃金(2026年9月時点)休暇・給与明細
米国(連邦法)FLSA:1週(暦週である必要のない168時間の固定期間)40時間超の分に通常賃金の1.5倍州・市によって異なる。詳細はchef overtime rules by countryを参照連邦レベルの有給休暇の義務はなし。給与明細の規則は州により異なる
英国残業代の法的権利はなし。労働時間は通常17週平均で週48時間が上限(オプトアウト可)National Living Wage 時給£12.71(2026年4月から)ほぼ全労働者が年5.6週の有給休暇。給与明細は支給日当日かそれ以前
シンガポール雇用法第4部(月の基本給が非ワークマンS$2,600以下、ワークマンS$4,500以下が対象):基本時給の1.5倍以上、月72時間上限、給与期間終了から14日以内に支払い全国一律の最低賃金なし。一部業種にのみ賃金の下限あり第4部が休日・残業の規則を定める。基準額を超える料理人は第4部の対象外になりうるが、同じ厨房の現地若手スタッフは対象のことが多い
オーストラリア連邦一律の規則ではなく、レストラン業アワード(MA000119)が等級と曜日で規定アワードの等級別賃金。例:Cook grade 3 週A$1,119.10、grade 5 週A$1,221.10(2026年7月1日から)給与明細は支払日から1営業日以内。休暇中でも同じ

日本の料理人は、有給休暇を「取りにくいもの」と考えていることがあります。海外の店では、法律上の休暇をきちんと取らせることが管理者の仕事であり、休暇を取りやすい店は定着にもつながります(海外で働く料理人の定着)。

5. ビザの条件と労務の変更

就労ビザは、特定の雇用主・職務・給与を前提に許可されていることが多く、これらを自社の判断だけで変えると、労働法とは別にビザの条件違反になりえます。役職、給与、勤務地を変える前、あるいは店舗間で異動させる前に、ビザの条件を確認してください。採用にかかった費用の回収にも同じ注意が要ります。たとえばカナダの低賃金枠のLMIAでは、雇用主が往復の交通費を負担し、適切かつ手頃な住居の確保を支援することが求められており、その費用を返還条項で回収することはそもそも認められません。契約に盛り込む前に、対象の制度を確認してください。

雇用契約や社内規則は、本人が実際に理解できる言語で説明してください。正本は現地語とし、日本語の説明資料を添えるのが一般的なやり方です。トラブルの予防全般は採用後のトラブルと予防で扱います。

6. 国別・毎月の確認リスト

共通米国固有英国固有シンガポール固有オーストラリア固有
全員の出退勤記録がそろっている(仕込み・片付けを含む)
有給休暇の取得状況を確認し、取れていない人と日程を相談した
就労ビザで働く人の職務・勤務地・給与がビザの条件と一致している
雇用条件の変更があれば書面で通知した
固定給をFLSAの残業割増の観点から実労働時間と照合した
州・市の最低賃金や給与開示の改定を正しい日付から適用した
新規雇用者に2か月以内の期限で書面を交付した
給与明細を支給日当日かそれ以前に渡した
第4部対象者の残業が月72時間を超えていない
新規雇用者にKETsを14日以内に交付した
料理人全員に正しいアワード等級を適用した
給与明細を支払日から1営業日以内に渡した

変わる数字:最低賃金とアワードの水準(本記事は2026年9月時点。英国は毎年4月、豪州は毎年7月1日に改定)、シンガポール第4部の基準額。詳しい残業規則は独自の更新サイクルでchef overtime rules by country(英語)にあります。次回確認:2027年4月(英国・米国各州の改定サイクルに合わせて)。

よくある質問

「残業代込み」の固定給は、海外でも合法ですか。

自動的にはそうなりません。米国のFLSAのような制度では、固定給を実際の労働時間と照合する必要があり、組み込まれた手当が週40時間超の分の通常賃金1.5倍に届かなければ、不足分は遡って支払う義務が生じます。日本の固定残業代の考え方を、確認なしにそのまま海外へ持ち込むことはできません。

開店前の記録されていない仕込み時間は、労働時間に含まれますか。

このページで扱う国の多くで、雇用主の指示で行う作業は、打刻の有無にかかわらず労働時間です。記録から外すことは、支払いを避ける手段にはならず、コンプライアンス上のリスクになるだけです。自己申告だけに頼らず、打刻システムやアプリを使ってください。

スポンサーしている料理人の職務や給与を、確認なしに変えてもよいですか。

いいえ。就労ビザは通常、特定の雇用主・職務・給与を前提に許可されているため、労働法上は問題のない変更でも、ビザの条件には反することがあります。職務、給与、勤務地を変える前に、ビザの条件を確認してください。

シンガポールの雇用法は、高給の料理長にも適用されますか。

第4部の労働時間・残業・休日の保護は、定められた給与の基準額(非ワークマンは月の基本給S$2,600、ワークマンはS$4,500)までが対象です。これを超える料理長は第4部の対象外になりますが、同じ厨房の現地若手スタッフは対象のことが多く、店としては両方の管理が必要です。

自社の厨房に問題があるかを手早く確かめる方法はありますか。

実際の営業中に厨房を見て、仕込みと片付けに実際どれだけ時間がかかっているかを、打刻記録と照らし合わせてください。この2つのずれが、海外の和食店で賃金請求につながる最も多い原因であり、確認自体には費用がかかりません。

本記事は一般的な情報であり、法務・労務に関する助言ではありません。労働法は国・州・市によって異なり、改正も頻繁です。実際の運用は、下記の一次情報と現地の最新の規則を確認のうえ、現地の専門家にご相談ください。

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