採用の進め方

料理人が退職したら就労ビザはどうなるか:予防と対応

まず予防:契約条項、面談、求人票の書き方でトラブルを減らし、そのうえで国別の退職チェックリスト(米国60日、豪州180日、シンガポールのEP取消し)と、ビザの条件違反が招く罰則を解説します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

スポンサーされた料理人が退職する、または辞めさせられると、その仕事に紐づいていた在留資格は長く持ちません。米国のE-1・E-2・E-3・H-1B・L-1・O-1は、在留期間ごとに1回、連続60日または在留期限の短いほうまで在留資格を保てます。オーストラリアの482ビザは、新しいスポンサーを見つけるか出国するまで最長180日です。シンガポールでは、雇用主が最終勤務日から1週間以内にEPを取り消し、本人が書面で同意しない限り帰国の航空券を負担する義務があります。

このページは、すでにスポンサーで料理人を雇っている、またはこれから雇う前に契約を作っているオーナー向けで、トラブルに対処するのではなく防ぐことを目的としています。採用前に作っておく予防の仕組み、料理人が辞めるときの国別の退職チェックリスト、ビザの条件を守らなかった場合の扱いを解説します。契約書の条項の文言そのものは料理人の雇用契約チェックリストにまとめており、ここでは繰り返しません。離職率のベンチマークは飲食業の平均離職率を参照してください。

目次

  1. 予防の仕組みを採用前に作る
  2. 国別の退職チェックリスト:ビザはどうなるか
  3. ビザの条件を守らないと店が罰せられる
  4. 採用後に起きやすいトラブル
  5. 離職の多さを数字で見る
  6. 給与と労働時間のトラブル
  7. けがと労災

1. 予防の仕組みを採用前に作る

以下で扱うトラブルの多くは、料理人が着任した後ではなく、着任前の準備で小さくできます。

  1. 求人票で期待値をそろえる。仕事内容、労働時間、住居、家族帯同の可否を具体的に書きます。海外求人票の書き方、家族については料理人の就労ビザに家族帯同はできるかを参照してください。
  2. 必要になる前に、契約に5つの条項を入れておく。残業の計算方法、一定期間内に辞めた場合の渡航費用の返還の有無と金額、社宅の退去に関する条件、退職・解雇の予告期間、着任後6か月間の扱いです。それぞれの有効性は国によって異なるため現地の助言を得てください。条項の文言そのものは料理人の雇用契約チェックリストにあります。
  3. ビザの条件を社内で共有する。本人のビザで認められている職種、雇用主、期限を、店長と料理長の双方が把握している状態にし、うっかり別業務に回したり期限を過ぎたりしないようにします。
  4. 着任後90日の面談を決めておく。1か月目、3か月目に、仕事と生活の両方について話す場を設けます。試用期間の評価を参照してください。
  5. 相談の窓口を料理長以外にも置く。厨房の中の問題は、料理長には言いにくいこともあります。本社の担当者や店長など、別の窓口を用意します。厨房のハラスメント防止方針を参照してください。
  6. 辞めるときの手順を先に決める。予告期間、帰国の航空券、社宅の退去、ビザの取り消しを誰がいつ行うかを、契約の段階で決めておきます。国別の期限は第2章にまとめています。

2. 国別の退職チェックリスト:ビザはどうなるか

海外で雇う料理人の多くは、店での雇用を前提に在留資格を得ています。辞めたとき、または辞めさせたときに何が起きるかは店の責任の一部で、国ごとに期限が異なります。

国・地域雇用主の期限雇用主がすべきこと本人に起きること
米国(E-1、E-2、E-3、H-1B、L-1、O-1)資格を終わらせるための雇用主側の届出は不要だが、就労の許可は退職と同時に終了する義務ではないが、その日のうちに書面で本人に伝える。次の欄の猶予は退職と同時に始まるため連続60日または残りの在留期限のいずれか短いほうまで、在留期間ごとに1回、資格を失ったとはみなされない(8 CFR 214.1(l)(2))。その間は別途認められない限り働けない。H-2Bはこの規定の対象外
オーストラリア(482)この場面に特有の期限はないが、ビザ保有中はスポンサーの義務が続くスポンサーに義務づけられた雇用状況の変更の届出を行う新しいスポンサー企業を見つけるか、出国を手配するまで最長180日。その間もビザ上は原則としてスポンサー企業の、ノミネートされた職種でしか働けない
シンガポール(EP)通知期間の最終日から1週間以内にパスを取り消す本人に帰国について合理的な予告をする。最終勤務日の少なくとも1か月前にIRASへ税務上の届出をする。未払いの給与など雇用上の問題を清算する。本人が書面で自己負担に同意しない限り、帰国の航空券(受託手荷物付き)と接続交通費を負担するEPの取り消しに伴い、同行家族のパスもすべて取り消される。本人がまだ国内にいる場合、雇用主は最長90日の短期滞在許可(STVP)を申請できる

双方が用意しておくべき書類:解雇通知または退職届、最終給与明細、税務上の届出(シンガポール)、出向者であれば任期を締めるための日本本社への連絡です。カナダ、英国、マレーシアについては、同様の期限を本記事では確認していません。必要になる前に該当当局に確認してください。

3. ビザの条件を守らないと店が罰せられる

トラブルは本人との間だけで起きるわけではありません。ビザを出した国の当局は、雇用主が申請どおりに雇っているかを確認しています。

カナダ雇用・社会開発省の2026年7月9日の発表によると、2025年4月1日から2026年3月31日までの期間に、一時外国人労働者プログラム(TFWP)で検査した雇用主の12%が違反と判断されました。違反した雇用主に科された金銭的制裁は合計1,020万カナダドルを超え、前年の450万カナダドルの2倍以上になり、30の雇用主がプログラムの利用を禁止されました。制裁は1年あたり最大100万カナダドルで、一時的または永久の利用禁止もあります。

発表では、違反の例として、適切な賃金や労働条件を提供しないこと、求人で示した職種で雇用しないこと、職場での虐待から労働者を守らないこと、検査官に必要な書類を出さないことが挙げられています。料理人として呼んだ人に、人手が足りないからと長期間ホールや別の業務をさせるのは、軽い気持ちでもこの種の違反になりえます。

4. 採用後に起きやすいトラブル

第1章の予防策は、次のようなトラブルが繰り返し起きるために存在します。この表は独立した論点ではなく、予防策の必要性を裏づける実例として読んでください。

トラブルよくある原因店への影響
早期の退職仕事内容や待遇が聞いていた話と違う、孤立、家族の事情採用費用とビザ費用の損失、厨房の欠員
給与・残業の不満現地の残業規定の誤解、手取りの想定違い労働当局への申立て、未払い賃金の支払い
在留資格の問題ビザの条件と違う仕事をさせる、期限の管理漏れ本人の在留資格の喪失、店への罰則
住居・生活のトラブル社宅の条件、同居のストレス職場の人間関係の悪化
職場の人間関係・ハラスメント日本式の指導と現地の常識の衝突現地スタッフの離職、訴訟
けが・病気包丁、やけど、長時間労働治療費、休業中の代替要員

5. 離職の多さを数字で見る

飲食業は他の業種より人の出入りが多く、厚生労働省の令和7年雇用動向調査では宿泊業・飲食サービス業の離職率は23.7%で、全産業の13.7%を大きく上回っています。シンガポールの人材開発省(MOM)の統計でも、飲食サービス業の平均月間離職率は2025年に2.2%と、全産業の1.2%を上回っています。海外から呼んだ料理人に限ったデータは見つかりませんでしたが、辞められたときの損失は国内採用より大きくなります。ビザ費用や渡航費は戻らず、代わりの人を呼ぶにも改めてビザの手続きが必要になるからです。ベンチマークと補充予算は飲食業の平均離職率、定着のために変えるべきことは海外で働く日本人料理人の定着策を参照してください。

6. 給与と労働時間のトラブル

給与の不満は、多くの場合、金額そのものより「聞いていた話と違う」から生まれます。

7. けがと労災

厨房では包丁、やけど、転倒のリスクが常にあります。海外で働く日本人の場合、どの補償が使えるかは雇用の形で変わります。

派遣と現地採用の違いは海外赴任と現地採用の比較で詳しく説明しています。

変わる数字:カナダTFWPの違反統計(次回更新は2027年半ばの見込み)、日本の離職率とシンガポールの離職率(いずれも毎年)。第2章の米国・オーストラリア・シンガポールの規定は変更が少ないものの、実際の案件では改めて確認してください。2026年9月27日確認。

よくある質問

スポンサーされた従業員が退職すると、就労ビザはどうなりますか。

国によって異なります。米国のE-2など主要な資格は連続60日または残りの在留期限の短いほうまで資格を保てます。オーストラリアの482は新しいスポンサーを見つけるまで最長180日、シンガポールでは雇用主が1週間以内にパスを取り消し、帰国の航空券を手配する義務があります。いずれも、その間に本人が別途認められずに働くことはできません。

スポンサーされた料理人を解雇できますか、それとも退職しか選べませんか。

現地の労働法と契約の予告条項に従えば解雇はできます。国別の解雇手続きの比較は本記事では行っていません。ビザ面での本人への影響は、退職でも解雇でも基本的に同じです。実行前に現地の弁護士に確認してください。

辞めるスポンサー付き料理人の帰国航空券は誰が払いますか。

シンガポールでは、本人が書面で自己負担に同意しない限り雇用主が負担します。本記事で扱った米国・オーストラリアの規定には、標準で雇用主負担とする定めはありません。契約内容と、オーストラリアではスポンサーの合理的な渡航費用負担義務を確認してください。

どの契約条項が実際にトラブルを防ぎますか。

残業の計算方法、早期退職時の渡航費用返還、社宅の条件、予告期間、着任後6か月間の扱いです。有効性は国によって異なります。条項の文言は料理人の雇用契約チェックリストにあります。

スポンサーした料理人にこっそり別業務をさせたらどうなりますか。

カナダでは、求人で示した職種で雇用しないことが政府の公表する違反例に挙がっており、制裁は年間最大100万カナダドル、プログラムからの禁止もあり得ます。他のスポンサー国でも同様の条件がビザに付いており、本記事で執行データを確認できなかった国も含め、油断はできません。

本記事は一般的な情報であり、法律・移民・労務に関する助言ではありません。記載内容は2026年9月27日時点で各国政府と厚生労働省の公表情報から確認したものです。個別のトラブルについては、現地の弁護士や専門家にご相談ください。

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