採用の進め方

海外の和食店の労務管理の基本:国別に確認済みの要点

雇用条件の書面、労働時間と残業代、最低賃金、休暇と給与明細、日本から来た料理人に特有の論点を、米英星豪などの公式情報で確認できた範囲に絞って整理。毎月の確認リスト付き。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 基本は「店のある国の労働法」
  2. 雇用条件の書面:いつまでに渡すか
  3. 労働時間と残業代
  4. 最低賃金:若手とワーホリ人材は要確認
  5. 休暇と給与明細
  6. 日本から来た料理人に特有の論点
  7. 毎月の確認リスト

日本の飲食店で長く働いてきた経営者や料理長が海外で店を回すと、無意識に日本の厨房の慣行を持ち込みがちです。長い仕込み、曖昧な休憩、残業代込みの給与。日本でも問題になりうるやり方ですが、海外ではその国の労働法に照らして判断され、罰則や未払い賃金の請求につながります。

この記事は、海外の和食店の労務管理の基本を、公式情報で確認できた範囲に絞って国別に整理したものです。米国、英国、シンガポール、オーストラリアを中心に扱い、確認できなかった事項は書いていません。国によって、また同じ国でも州や市によって規則は違うので、最後は必ず現地の公式情報と専門家で確認してください。

1. 基本は「店のある国の労働法」

現地法人が現地で雇う料理人には、その国の労働法に基づく雇用契約、労働時間の管理、給与計算が必要です。日本から来た料理人も、現地で採用したスタッフと同じ法律の下で働きます。「日本人同士だから日本式で」は通用しません。

日本の本社から出向させる場合は、日本の会社との雇用関係が残るため、日本側と現地側の両方の規則を確認することになります。出向と現地採用の違いは海外赴任と現地採用の比較で扱います。

2. 雇用条件の書面:いつまでに渡すか

公式に示されている要件
英国雇用条件の書面(written statement)のうち主要部分(principal statement)は勤務初日までに、残りは勤務開始から2か月以内に渡す。変更は1か月以内に通知する
シンガポール主要雇用条件(Key Employment Terms、KETs)を勤務初日から14日以内に書面で渡す。人材省は記載すべき項目を示している

日本から料理人を呼ぶ場合は、ビザの申請前に雇用契約書を交わすのが普通なので、実務上はもっと早く書面ができます。大事なのは、ビザ申請に使った条件と、実際に渡す書面と、実際の働き方が一致していることです。契約書の項目は雇用契約のチェックリストにまとめています。

3. 労働時間と残業代

米国(連邦法)

公正労働基準法(FLSA)の対象となる従業員には、1週(workweek)40時間を超えて働いた時間に、通常の賃金率の1.5倍以上の残業代を払う必要があります。1週は「168時間の固定された繰り返しの期間」で、暦の週と一致させる必要はありません。州や市が独自の規則を上乗せしている場合があります。

英国

労働時間は、通常17週の平均で週48時間を超えてはいけません。働き手が自分の意思で48時間の上限から外れること(オプトアウト)はできます。雇用主は労働時間に関する一定の記録を残す必要があります。

シンガポール

雇用法の第4部(Part 4)の対象者には労働時間の規制がかかります。対象は月の基本給がS$2,600以下の非ワークマン(non-workman)と、S$4,500以下のワークマン(主に肉体労働をする人)で、管理職・役員は対象外です。

日本人料理人の給与が第4部の基準額を超えていれば、この規制の対象外になることがあります。一方、同じ厨房で働く現地の若手スタッフは対象になりうるため、店として両方の管理が必要です。国別の残業規則は料理人の残業ルール(英語)でも扱っています。

4. 最低賃金:若手とワーホリ人材は要確認

就労ビザで呼ぶ料理長クラスの給与は最低賃金を大きく上回るのが普通ですが、ワーキングホリデーの若手や見習いは最低賃金に近い水準で雇われることがあります。2026年9月時点で確認できた主な水準は次のとおりです。

地域最低賃金
英国(National Living Wage)時給£12.71(2026年4月から)
カナダ オンタリオ州時給C$17.60、2026年10月1日からC$17.95
カナダ ブリティッシュコロンビア州時給C$18.25(2026年6月1日から)
カナダ ケベック州時給C$16.60
米国 シアトル市時給US$21.30(2026年)
米国 シカゴ市時給US$17.05(2026年7月1日から)
米国 フロリダ州時給US$15.00(2026年9月30日から)
香港時給HK$43.1(2026年5月1日から)
オーストラリア(レストラン業アワード)Cook grade 3 週A$1,119.10、Cook grade 5 週A$1,221.10(2026年7月1日から)

オーストラリアでは、業種ごとの「アワード(Award)」が職種と等級ごとの最低賃金を定めています。料理人の等級の当てはめを誤ると、未払いが発生します。英国の最低賃金は年齢によって区分があるため、若いスタッフの場合は区分を確認してください。

5. 休暇と給与明細

日本の料理人は、有給休暇を「取りにくいもの」と考えていることがあります。海外の店では、法律上の休暇をきちんと取らせることが管理者の仕事です。休暇を取りやすい店は、定着にもつながります(海外で働く料理人の定着)。

6. 日本から来た料理人に特有の論点

仕込みと片付けの時間を記録する

和食の厨房は仕込みが長く、開店前や閉店後の作業が「労働時間」として記録されていないことがよくあります。労働時間の定義は国によって違いますが、店の指示で行う作業を記録から外すのは危険です。出退勤の記録は、打刻やアプリなど、本人の自己申告だけに頼らない方法で残してください。

「残業代込み」の給与

日本の固定残業代のような仕組みを海外でそのまま使えるとは限りません。米国のFLSAのように週40時間を超えた時間に割増を求める制度では、固定額の給与で時間外の割増をまかなえているかを、実際の労働時間で確かめる必要があります。

ビザの条件と労務の変更

就労ビザは、雇用主、職務、給与などを前提に許可されていることが多く、勝手に条件を変えるとビザの条件に反するおそれがあります。役職や給与を変える、別の店舗で働かせる、といった変更の前には、ビザの条件を確認してください。

費用の回収に関する規制

国や制度によっては、採用にかかった費用を労働者から回収することが制限されています。たとえばカナダの低賃金枠のLMIAでは、雇用主が往復の交通費を負担し、適切かつ手頃な住居の確保を支援することが求められます。途中で辞めた場合の費用返還を契約に入れる前に、制度の規則を確認してください。

言葉と記録

雇用契約や社内規則は、本人が理解できる言語で説明します。日本語の説明資料を用意しつつ、正本は現地語(英語など)にするのが一般的です。トラブルの予防は採用後のトラブルと予防で扱います。

7. 毎月の確認リスト

本記事は一般的な情報であり、法務・労務に関する助言ではありません。労働法は国・州・市によって異なり、改正も頻繁です。実際の運用は、下記の一次情報と現地の最新の規則を確認のうえ、現地の専門家にご相談ください。

出典

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