採用コスト

海外和食店の採用コストと採用難:数字で見る現在地

有効求人倍率、離職率、採用単価。公的統計で確認できたものだけを出典つきで並べ、存在しないものは存在しないと書いています。

最終更新 2026年9月21日 WashokuJob

目次

  1. 「採用難」を数字で確認する
  2. 離職率のデータ
  3. 採用単価に使える公的データはほとんどない
  4. 国際採用で必ず乗る費用
  5. 自店の採用コストを自分で出す
  6. どこにお金をかけると効くか
  7. まとめ

採用コストの話は、根拠のない数字が最も流通している領域です。この記事では、公的統計で確認できたものだけを出典つきで並べ、確認できなかったものは「確認できなかった」と書きます。そのうえで、自店の数字を自分で出す方法を示します。

1. 「採用難」を数字で確認する

厚生労働省「一般職業紹介状況」の職業別有効求人倍率。飲食物調理従事者(パート含む)の推移です。

時点有効求人倍率
2023年(暦年)2.90
2024年2.79
2025年2.47
令和7年度2.38
2026年7月2.18

2026年7月の全職業は1.05倍なので、調理職はおよそ2倍の水準。求職者100人に対して求人218件です。パートを除くと1.83倍(全職業1.16倍)、接客・給仕職業従事者は2.30倍。

ここは正直に書いておく必要があります。2.90倍(2023年)から2.18倍(2026年7月)へ、数字は下がっています。「人手不足は年々深刻化している」という語り口は、現在のデータでは支持されません。構造的に逼迫しているが、ピークは過ぎた、というのが実際です。

統計の分類変更に注意。2022年4月以降の分類では「調理の職業」という区分はなくなり、対応するのは「飲食物調理従事者」です。古い区分名で検索しても最新値は出てきません。比較資料が2022年で途切れているのはこのためです。

2. 離職率のデータ

採用コストは「何人辞めるか」と掛け算になります。海外主要市場の公的統計から。

米国(労働統計局 JOLTS、産業別 自己都合離職率の年平均)

宿泊・飲食サービス全産業
20215.8%2.7%
20225.8%2.8%
20235.0%2.4%
20244.1%2.1%
20254.2%2.0%

月4.2%は年換算でおよそ50%。しかもこれは「自己都合」のみで、解雇・雇止めは含みません。全産業の約2.1倍で、米国の主要産業のなかで最も離職率が高い産業です。

シンガポール(人材開発省、産業別 月平均離職率)

飲食サービス業全産業
20222.9%1.7%
20232.6%1.4%
20242.3%1.3%
20252.2%1.2%

示唆的なのは内訳です。シンガポールの飲食業では、一般従業員の離職率が月2.8%に対し、専門職・管理職は月1.2%。役職が上がるほど辞めません。採用予算の配分を考えるときに効く数字です。

なお英国には飲食業の離職率に関する公式統計が存在しません。ONSは産業別離職率を公表しておらず、業界紙に出回る数字は民間コンサルの調査が出所です。英国で確認できる公式値は欠員数で、2026年7月時点の宿泊・飲食サービス業は7万件(2025年12月は7.5万件)。これは離職率ではないので、そのように使ってはいけません。

3. 採用単価に使える公的データはほとんどない

結論から書きます。飲食業に固有の採用単価(cost per hire)を、出典を示せる形で公表している統計は見つかりませんでした。政府統計にも、名前の出せる調査機関の公開資料にもありません。

引用できる最も近い数字は、日本の全産業平均です。リクルート・就職みらい研究所「就職白書2020」によれば、2019年度の採用単価は中途採用1人あたり1,033,000円、新卒1人あたり936,000円。前年度はそれぞれ830,000円、715,000円で、いずれも上昇しています。

この数字を使うなら、2つの限界を必ず併記してください。

「現在の採用単価の平均は◯◯円」と書いている人材系の記事の多くは、出典を示さずにこの2020年の数字を引いているか、非公開の自社データを使っています。営業資料に引用する前に出典を確認してください。

4. 国際採用で必ず乗る費用

ここは公式に確認できます。2026年9月時点。

英国。スポンサーライセンス £611(小規模)/£1,682(中大規模)。Certificate of Sponsorship £525。国外からのSkilled Workerビザ £819(3年以内)/£1,618(3年超)。Immigration Skills Charge 12か月あたり £480(小規模・慈善団体)/£1,320(中大規模)。Immigration Health Surcharge 1人年 £1,035。中大規模スポンサーの3年パッケージで、給与とは別におおむね £9,200、初回はライセンス料が別途。

オーストラリア。Skilling Australians Fund賦課金は、年商A$1,000万未満でA$1,200/滞在年、それ以上でA$1,800/滞在年。4年指名なら大規模事業者でA$7,200。加えて内務省は、住居や車などの非金銭的給付は所得しきい値に算入されず別途支給が必要と明記しています。

シンガポール。S Passレビーは1人月S$650(2025年9月1日から統一レート)。2年でS$15,600。サービス業Work Permitのレビーは階層と技能区分により月S$300〜800。いずれも一時費用ではなく毎月の固定費です。

米国。H-2Bでは20 CFR 655.20(j)により雇用主が往復の交通費を負担します。移動中の日当は労働省の2026年4月7日発効レートで最低1日$16.78(領収書があれば食事・雑費$68.00+宿泊$110.00の1日$178.00まで)。

比較の例。シンガポールでS Pass月給S$4,500の料理人を採るとき、レビーS$650を足した月S$5,150が実コストです。一方Employment Passは月S$5,600からですがレビーがありません。表面の給与差ほどには差がなく、EPのほうがサブクォータの制約も受けません。表面給与だけで比べると判断を誤ります。

5. 自店の採用コストを自分で出す

借り物のベンチマークより、自店で数えられるものを積み上げたほうが実用的です。1名あたりで次を足してください。

この積み上げをやると、たいてい2つのことが分かります。採用単価の大半は掲載料ではなく時間と欠員コストであること、そして早期離職が1件起きると年間の採用予算が壊れることです。

6. どこにお金をかけると効くか

7. まとめ

  1. 日本の調理職の有効求人倍率は2026年7月で2.18倍。全職業の約2倍だが、ピークの2.90倍からは下がっている。
  2. 米国の宿泊・飲食サービス業の自己都合離職率は月4.2%(2025年)、全産業の約2.1倍。シンガポールの飲食業は月2.2%で全産業の約1.8倍。いずれも高止まりだが低下傾向。
  3. 飲食業固有の採用単価の公的統計は存在しない。全産業の日本の数字は2019年度の中途1人103.3万円が最新で、以後公表が途絶えている。
  4. 国際採用ではビザ・レビー・渡航費が確実に乗る。シンガポールのS Passは2年でS$15,600、英国の3年パッケージは約£9,200、豪州の4年指名はA$7,200。
  5. 役職が上がるほど辞めない。予算配分の指針として、これがいちばん確実なデータ。

本記事の数値は、各機関が公表した値をその期間表示とともに引用しています。公的統計が存在しない項目については、数字を代用せず「存在しない」と記載しました。

出典

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