海外出店|仕入れ・在庫

和食食材を現地調達するか輸入するか:総費用と規制リスクで比較する

2025年の日本の食品輸出1兆7,005億円の品目別内訳、キッコーマンの海外醤油工場や米国のカルローズ・コシヒカリ生産を確認し、輸入品に乗る8つの費目、香港の10都県水産物停止やEUの混合食品規制、米国の事前通知、サポーター店の表示要件まで判断表にまとめます。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

目次

  1. 日本からの食品輸出は1兆7,005億円:何が海外に出ているか
  2. 「日本の味」の多くは現地でも作られている
  3. 輸入品の総費用:見積価格に乗る8つの費目
  4. 輸入を止める規制:放射性物質、EUの動物性原料、米国の事前通知
  5. 計算例:同じ醤油を輸入品と現地生産品で比べる
  6. 輸入を選ぶなら、メニュー表記で価値に変える
  7. 品目ごとの判断表

海外の和食店では、すべてを日本から取り寄せる必要はありませんし、すべてを現地で賄えるわけでもありません。判断を難しくしているのは、輸入品の値札には表れない費用(運賃、関税、通関、在庫の長期化、為替)と、規制で突然入らなくなるリスクです。この記事では、農林水産省の2025年輸出実績、キッコーマンの海外生産拠点、米国農務省(USDA)とカリフォルニア大学の米に関する資料、各国の輸入規制を材料に、現地調達と輸入を「総費用」と「止まるリスク」で比べる方法を示します。

1. 日本からの食品輸出は1兆7,005億円:何が海外に出ているか

農林水産省によると、2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円で、前年から12.8%増え、13年連続で過去最高を更新しました。輸出先の上位は米国2,762億円、香港2,228億円、台湾1,812億円、中国1,799億円です。米国向けは4月から関税措置が導入されたものの、前年比13.7%増えたと説明されています。

和食店の仕入れに関係の深い品目の2025年の輸出額は次のとおりです(農林水産省「2025年 農林水産物・食品 輸出額」「輸出実績(品目別)」より)。

品目2025年の輸出額前年比補足
米(援助米を除く)138.8億円(46,573トン)+15.4%上位は香港、米国、シンガポール
醤油134.9億円(59,778トン)+10.7%最大の輸出先は米国(21.0億円)
味噌71.4億円(23,825トン)+13.1%―
ソース混合調味料721億円+7.8%2025年から酢を含む集計
日本酒459億円+5.6%―
ぶり528億円+27.4%―
かつお・まぐろ類215億円+7.2%―

この数字は、日本産の食材が海外で広く流通していることを示す一方で、どの品目も「その国の和食店が使う量のすべて」ではないことにも注意が必要です。たとえば醤油の輸出量は約6万トンですが、次に見るように、海外で売られている日本ブランドの醤油には現地で作られているものが多くあります。

2. 「日本の味」の多くは現地でも作られている

キッコーマンは、米国ウィスコンシン州ウォルワース(1973年)、シンガポール(1984年)、台湾(1990年)、オランダ(1997年)、米国カリフォルニア州フォルサム(1998年)、中国(2002年・2009年に出荷開始)、ブラジル(2021年11月出荷開始)に醤油の生産拠点を持ち、同社の醤油は100カ国以上で使われているとしています。同じブランド名でも、日本製と現地製の両方が流通していることになります。

米も同様です。USDA経済調査局(ERS)によると、米国の米生産は長粒種が約75%、中粒種が約24%、短粒種が約1%で、中粒種の70〜77%はカリフォルニア州で作られ、短粒種はほぼすべてカリフォルニア州産です。カリフォルニア大学デービス校の生産者向け資料(2023年)では、同州の作付けの約80%が「カルローズ」型の中粒種、プレミアム品質の中粒・短粒種が約10%で、コシヒカリやあきたこまちのように日本の品種名のまま栽培されているものもあるとしています。米の選び方の詳細は米選びの記事で扱います。

つまり「輸入か現地か」は、「日本の味か妥協か」の二択ではありません。現地生産品で日本と同等の品質が得られる品目と、日本産でなければ出せない品目を分けることが最初の作業です。

3. 輸入品の総費用:見積価格に乗る8つの費目

日本食材卸から買う場合でも、自社輸入する場合でも、輸入品の価格には次の費目が含まれています。卸から買う場合は卸の価格に織り込まれており、自社輸入の場合は自分で負担します。

  1. 日本側の価格:メーカー出荷価格、国内輸送、輸出用の梱包。
  2. 国際輸送と保険:船便か航空便か。冷凍・冷蔵のコンテナは常温より高くなります。
  3. 関税と輸入時の税:品目と国によって異なり、関税政策の変更で動きます。
  4. 通関・検査の費用:通関業者の手数料、検査のための保管料。
  5. 現地の保管と配送:倉庫料、冷凍庫の費用、店までの配送。
  6. 輸入卸のマージン:卸から買う場合。
  7. 在庫の長期化による費用:船便で月に1回まとめて入るものは、数週間分から数カ月分を持つことになり、資金が寝て、期限切れのロスも出やすくなります(→発注点の記事)。
  8. 為替:円建てで仕入れる部分は、円安・円高で現地通貨の原価が変わります(→為替リスクの記事)。

現地生産品にも輸送や卸のマージンはかかりますが、2・3・4・7・8の費目が小さくなるか、なくなります。比べるときは、見積単価ではなく、この8項目を足した「店に届いた価格」と、欠品時の影響を並べます。

4. 輸入を止める規制:放射性物質、EUの動物性原料、米国の事前通知

輸入品には、費用とは別に「規制で入らなくなる」リスクがあります。和食店に関係が深いものを3つ挙げます。

原発事故とALPS処理水に伴う輸入規制

農林水産省の整理(2025年11月21日時点)では、原発事故後に日本の食品に輸入規制を設けた55の国・地域のうち、50が撤廃し、5つ(中国、香港、マカオ、韓国、ロシア)が規制を続けています。香港は2023年8月24日以降、福島・宮城・東京など10都県の水産物(生鮮・冷凍・乾燥などすべて)、海塩、海藻の輸入を停止しています。香港やマカオで出店する場合、昆布や海苔、魚の産地が規制対象の都県でないかを、仕入れ先の書類で確認する必要があります。規制は変わるため、最新の一覧を農林水産省のページで確認してください。

EUの動物性食品と「混合食品」

ジェトロの解説によると、EU向けの水産物は、日本の所轄当局からEU基準を満たすと認定された施設で加工し、政府発行の衛生証明書を付ける必要があります。また、EUは動物性の加工済み原料と植物性原料の両方を含む食品を「混合食品」とし、2021年4月21日から新しい公的管理制度の対象にしています。混合食品に含まれる動物性の加工原料は、EU向け輸出認定施設(またはEU域内の施設)に由来するものでなければ上市できません。魚のエキスを含む調味料やだしの素を日本から持ち込む場合、日本では普通に売られている商品でも、EUには輸入できないことがあります。

米国の事前通知

米国に食品を輸入する場合、FDAへの事前通知(Prior Notice)が必要で、到着の何時間前までに提出するかが輸送手段ごとに決まっています(21 CFR 1.279:陸路の道路2時間、鉄道4時間、航空4時間、海路8時間)。自社輸入をするなら、通関業者がこれを扱えるかを確認します。

5. 計算例:同じ醤油を輸入品と現地生産品で比べる

ここからは仮の数字です。ある店が、醤油を月に60リットル使うとします。日本製の醤油(輸入品)が1リットルあたり8ドル、同じブランドの現地製が5ドルだとすると、月の差額は180ドル、年間では2,160ドルです。

次に、総費用に表れにくい差を考えます。輸入品が月1回の船便でしか入らないなら、欠品を避けるために1.5カ月分(90リットル)を持つ必要があり、現地製が週1回届くなら持つのは1〜2週分(約14〜28リットル)で足ります。在庫金額は輸入品が720ドル、現地製は70〜140ドル程度です。為替が10%円高・現地通貨安に振れれば、円建て部分の多い輸入品の価格は上がる方向に動きます。

この差額に見合う味の違いがあるかは、実際に使う料理で比べて判断します。醤油をそのまま付けて食べる刺身や寿司と、煮物やたれに使う場合とでは、違いの出方が異なります。料理長を含めた数人で、どちらか分からない状態で食べ比べ、違いが分かった料理だけ輸入品を使う、という分け方もできます。

要点:輸入品を選ぶ理由は「日本製だから」ではなく、「この料理で違いが分かるから」にします。違いが分からない用途では現地生産品を使い、浮いた費用を違いが分かる食材に回します。

日本産の食材を使うなら、それを客に伝えなければ価格に反映できません。農林水産省は2016年4月に「海外における日本産食材サポーター店の認定に関するガイドライン」を定め、日本産食材を積極的に使う海外の飲食店を民間団体が認定する仕組みを作っています。飲食店の認定要件は、日本産食材を使った料理を常に提供していること(または日本産酒類の専門店であること)、メニューに「日本産」「日本国○○県産和牛」「日本産米コシヒカリ」のような日本産である旨の表示があること、接客で日本産食材の魅力を伝えていることで、認定期間は2年です。

認定を受けるかどうかにかかわらず、メニューに産地を書くなら、その産地を証明できる書類(仕入れ先の請求書や規格書)をそろえておく必要があります。欠品で別産地に切り替えたときは、表記も同時に変えます。

7. 品目ごとの判断表

判断の観点輸入が向く現地調達が向く
料理での違いそのまま食べる、香りが主役になる(例:刺身の醤油、海苔、わさび、日本酒)加熱・調合で違いが分かりにくい(例:揚げ油、砂糖、煮物用の調味料)
保存性常温で長く持つ乾物・調味料日持ちしない野菜、鮮魚、豆腐
規制出店国の輸入規制・施設認定の対象外で、書類がそろうEUの混合食品のように、輸入の要件を満たす商品が限られる
使用量少量で店の個性を出せる大量に使い、単価差が年間で大きくなる
代替のしやすさ現地に同等品がない複数の現地業者から同等品を買える

判断は一度で終わりません。為替と運賃、規制、現地生産品の品質は変わるため、半年に一度は主要20品目程度について、この表と総費用の計算をやり直すことを勧めます。仕入れ先そのものの比べ方は仕入れ先選びの記事を参照してください。

2026年9月に公開情報をもとにまとめた一般的な情報であり、法務・税務・入国管理に関する助言ではありません。制度や金額は変わるため、行動する前にリンク先でご確認ください。

出典

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