採用の進め方

海外の和食店が日本人料理人を採用する方法

役割の定義、ビザ経路の確認、給与の比較対象、チャネルの使い分け、遠隔選考、定着まで。公的統計の出典つきで実務をまとめました。

最終更新 2026年9月21日 WashokuJob

目次

  1. まず「どの料理人が必要か」を決める
  2. 日本人料理人はどこにいるのか
  3. ビザが通るかを先に確認する
  4. 給与の比較対象を正しく置く
  5. 採用チャネル5つの使い分け
  6. 遠隔で失敗しない選考の組み方
  7. 着任後に辞めさせないために
  8. 現実的なスケジュール

海外の和食店が日本人料理人の採用に失敗するとき、原因はたいてい順番にあります。良い候補者を見つけてから、その国のビザ制度が去年閉じていたことを知る。あるいは、提示できる給与が候補者の希望の半分しかないと後から気づく。

正しい順番は逆です。役割を決め、ビザ経路が開いているかを確認し、公的な賃金データに照らして予算を組み、そのうえで人に会う。この記事はその順番に沿って、出典つきで実務をまとめたものです。

1. まず「どの料理人が必要か」を決める

「日本人の料理人」と一口に言っても、実際には少なくとも4種類の採用があります。価格もビザの通りやすさも別物です。

必要なもの想定プロフィール注意点
料理長・総料理長経験15年以上。厨房を回し、メニューを設計し、現地スタッフを育てられる給与は最も高いが、給与基準型のビザは逆に通りやすい
カウンターに立つ鮨職人経験10年以上。仕込みと接客の両方客が最も見るポジション。現地育成で代替しにくい
部門責任者・次長クラス経験5〜10年。一部門を任せられる費用対効果は最も高いが、ビザの給与下限を下回ることがある
技術移転(期間限定)6〜24か月の任期でオープンと教育を担うビザの考え方が別。短期ルートなら通る国もある

ここを曖昧にしたまま募集を出すと、応募者の層が定まりません。カウンターの体験を売る店ならカウンターに立てる職人が必要で、その予算を組むべきです。一方で「既存の厨房のミスを減らしたい」のであれば、常勤の上級採用より期間限定の技術移転のほうが成果が出ることも多い。

2. 日本人料理人はどこにいるのか

母集団は見た目より広く、その全部が日本国内にいるわけではありません。

外務省の調査によれば、2025年10月1日時点の海外在留邦人は1,298,170人。内訳は米国416,380人、オーストラリア105,566人、カナダ75,316人、英国62,270人、シンガポール(市)33,397人などです。このうち一定数はすでに現地の就労資格を持っています。現地在住の日本人料理人を採用できれば、ビザの問題はまるごと消えます。だから国外募集の前に、必ず現地募集を一度回すべきです。

二つ目の母集団は日本国内で働いている料理人です。ただし日本の厨房も彼らを奪い合っています。厚生労働省の統計では、飲食物調理従事者の有効求人倍率は2026年7月時点で2.18倍(全職業は1.05倍)。100人の求職者に対して218件の求人がある状態です。正直に書いておくと、この数字は2023年の2.90倍からは下がっており、市場は緩んでいます。それでも日本国内の料理人には選択肢があり、中途半端な条件では動きません。

三つ目は、第三国の日本食レストランで働いていて、国をまたいで転職する層です。求人サイトは届きますが、現地のローカル求人媒体では届きません。

規模感。農林水産省の2025年調査では、海外の日本食レストランは約18万1,000店。一方、農水省が制度化した「海外における日本料理の調理技能認定」の認定者数は、2026年3月31日時点で合計3,976人(ゴールド28人、シルバー1,337人、ブロンズ2,611人)。おおむね45店に1人です。正式な認定を持つ和食調理人は、客観的に見て希少です。

3. ビザが通るかを先に確認する

採用が土壇場で、しかも高くつく形で壊れる原因のほとんどがここです。2025年から2026年にかけて複数の国でルールが動いており、2年前の常識はもう使えません。

主な経路2026年9月時点の状況
オーストラリアSkills in Demand(サブクラス482)Core Skillsストリーム開いている。Chef(ANZSCO 351311)は職業リスト掲載。年収下限A$79,423
カナダLMIA、NOC 62200 Chefs州の賃金基準(例:オンタリオ州C$36.92/時)を超えれば開いている
シンガポールEmployment Pass または S Pass開いているが、Work Permitは日本国籍に対して閉じている
マレーシアEmployment Pass2026年6月1日から給与基準がほぼ倍増
米国E-2、O-1B、EB-3料理人専用ビザはない。資本構成次第
英国Skilled Worker2025年7月22日以降、新規の海外採用は事実上閉じている

各国の詳細と一次情報は調理師・寿司職人の就労ビザ 国別まとめにまとめています。実務上のルールはひとつ。募集を出す前に、自社の経路・費用・所要期間を確定させること。経路が閉じているなら、「現地就労資格をお持ちの方」と正直に書いた募集を出すのが正解です。

4. 給与の比較対象を正しく置く

日本にいる料理人は、明確な数字とあなたのオファーを比べています。

厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によれば、飲食物調理従事者のきまって支給する現金給与額は月額286,600円(2025年6月)、年間賞与その他特別給与額は351,600円(2024年)。単純計算で年収およそ379万円です。平均年齢44.9歳、勤続9.2年、集計対象は439,320人。

また国税庁「民間給与実態統計調査」(令和6年分)では、宿泊業・飲食サービス業の平均給与は279万3,000円で全業種中最下位。全業種平均は478万円です。

この差が採用の説得材料になりますし、実際に効きます。ただし比較は正しくやる必要があります。物価も税・社会保険の扱いも労働時間も違うからです。そして表面給与がコストの全部ではありません。ビザ費用、レビー(賦課金)、渡航費、多くの場合は住居費が上に乗ります。各国の公的賃金データと雇用側費用はSalary benchmarks by country(英語)にまとめています。

5. 採用チャネル5つの使い分け

  1. 自社の人脈・スタッフ紹介。最も安く早く、紹介というフィルターが効く。知り合いの数が上限。
  2. 専門特化の求人サイト。海外で働く意思のある料理人に届く。固定費で、選考は自社で行う。
  3. 人材紹介会社。スクリーニングを外部化できる。通常は初年度年収の一定割合で、上級職では大きな金額になる。「今期どうしても1名」という場面向き。
  4. 総合求人媒体・現地の求人掲示板。すでに現地就労資格を持つ日本人を探すには有効。日本国内の料理人には届かない。
  5. 調理師専門学校・業界団体。時間はかかるが、欠員補充ではなくパイプライン作りには機能する。

うまくいっている店はたいてい2〜3チャネルを同時に回しています。コスト構造の比較はChef recruitment agency vs job board(英語)を参照してください。

6. 遠隔で失敗しない選考の組み方

7. 着任後に辞めさせないために

国際採用はコストが重いので、5か月目に辞められると採算が壊れます。業界の離職率は厳しい数字です。米国労働統計局の集計では、2025年の宿泊・飲食サービス業の自己都合離職率は月平均4.2%(全産業2.0%)。シンガポール人材開発省の集計では、2025年の飲食サービス業の離職率は月2.2%(全産業1.2%)でした。

定着に効くものを、実際によく挙がる順に並べると次のようになります。

8. 現実的なスケジュール

工程目安
役割定義・予算・ビザ経路の確認1〜2週間
募集と母集団形成3〜8週間
面接・選考2〜4週間
雇用主側の入管手続(スポンサー登録、労働市場テスト、指名)国により数週間〜数か月
ビザ申請と審査数週間〜数か月
日本での退職手続きと渡航1〜3か月

意思決定から初出勤まで4〜8か月が国際採用の標準です。6週間で必要なら、それは現地採用の案件であり、初日からそう設計すべきです。

本記事は一般的な情報であり、法務・入管に関する助言ではありません。入管制度と賃金データは変わります。数字を実務に使う前に、下記の一次情報を確認するか専門家にご相談ください。

出典

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