給与・コスト

海外出店時の人件費予算の立て方

海外出店の人件費を、給与・法定負担・一時費用の3層で積み上げる方法を解説。各国の公的賃金データ、ビザの給与下限、雇用主負担を使い、シドニー、シンガポール、ロサンゼルスの試算例も示します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 人件費予算は3つの層で組む
  2. ステップ1:人員表を作る
  3. ステップ2:給与の単価を公的データで置く
  4. ステップ3:ビザが決める給与の下限を確認する
  5. ステップ4:雇用主の法定負担を上乗せする
  6. ステップ5:日本から送る人の一時費用
  7. 試算例:シドニー、シンガポール、ロサンゼルス
  8. 予算に入れておく余裕

海外出店の事業計画で、いちばん外れやすい数字の一つが人件費です。日本の店の人件費率をそのまま当てはめたり、現地の求人サイトで見た時給を人数分掛けただけの予算は、開業後に修正が必要になりがちです。原因は、国ごとに違う給与の相場、ビザの給与下限、雇用主の法定負担の3つを分けずに見積もっていることにあります。

この記事では、海外出店時の人件費予算を5つのステップで組み立てる方法を、各国政府の公表データを使って説明します。採用1件あたりの費用の見積もりは国際採用の予算の立て方で扱っているので、ここでは店舗全体の年間人件費に焦点を当てます。

1. 人件費予算は3つの層で組む

中身決まり方
給与基本給、時給、残業代、賞与現地の相場と最低賃金、ビザの給与下限
法定の雇用主負担社会保険料、年金の拠出、外国人雇用の課徴金など国の制度で自動的に決まる
一時費用ビザ申請費用、渡航費、赴任時の住居日本から送る人の人数と在留資格

この3つを別々の行で積み上げると、どこが相場より高いのか、どこがビザのための費用なのかが見えるようになります。

2. ステップ1:人員表を作る

最初に作るのは金額ではなく人員表です。営業時間とシフトから、ポジションごとに何人必要かを出します。

3. ステップ2:給与の単価を公的データで置く

単価は、求人サイトの掲載額より、政府の賃金統計を出発点にするほうが安定します。主な市場で使える公的データは次のとおりです。

データ数値
米国労働統計局(BLS)職業別雇用賃金統計、2025年5月Chefs and Head Cooks 年収中央値 $62,470(ロサンゼルス都市圏 $69,990)/Cooks, Restaurant 年収中央値 $37,390
シンガポール人材開発省(MOM)職業別賃金、2024年6月(月額総額の中央値)シェフ S$3,850/シニアクック S$3,425/クック S$2,028/レストランマネジャー S$4,000
オーストラリアRestaurant Industry Award(2026年7月1日から、フルタイム週額の最低額)Cook grade 3 A$1,119.10/Cook grade 5 A$1,221.10
カナダJob Bank シェフの時給中央値(2025年11月19日更新)トロント $22/バンクーバー地域 $23/モントリオール $24
英国国家統計局(ONS)ASHE 2025暫定値シェフのフルタイム年収中央値 £30,010
香港労工処の賃金調査Cook (Japanese Cuisine) 月額中央値 HK$19,670

中央値は、その職種で働く人の給与のちょうど真ん中の水準です。日本人の料理長や、寿司・懐石の熟練者を採るなら、中央値より上を見込む必要があります。米国のシェフの年収は上位10%で$98,560です。国別の相場は国別の寿司職人の給与海外の寿司職人の年収にまとめています。

4. ステップ3:ビザが決める給与の下限を確認する

日本から料理人を呼ぶ場合、給与は相場ではなくビザの下限で決まることがあります。予算の段階で確認しておかないと、採用が決まってから給与を上げ直すことになります。

国・在留資格給与の下限(2026年9月時点)
オーストラリア 482年A$79,423(Core Skills Income Threshold、2026年7月1日〜2027年6月30日)
シンガポール S Pass月S$3,300〜S$4,800(年齢により上がる)。2027年1月1日からS$3,600〜S$5,100
シンガポール EP月S$5,600〜S$10,700(年齢により上がる)。2027年1月1日からS$6,000〜S$11,500
マレーシア EPカテゴリーIIIで基本月給RM5,000以上(2026年6月1日から、基本給のみで判定)
カナダ LMIA州の賃金中央値を基準に高賃金・低賃金の区分が決まる(オンタリオ州は時給C$36.92)

オーストラリアでは、482ビザの下限A$79,423は、Awardのcook grade 5(週A$1,221.10、年換算A$63,497.20)を大きく上回ります。日本から呼ぶ料理人の給与は、現地で採るコックの相場とは別の水準になると考えて予算を組んでください。

5. ステップ4:雇用主の法定負担を上乗せする

給与に上乗せする雇用主の負担は国ごとにまったく違います。ここでは公式情報で確認できた主なものを挙げます。すべてを網羅したものではないので、現地の会計事務所に確認してください。

6. ステップ5:日本から送る人の一時費用

日本から料理人を送る場合は、毎年の人件費とは別に、初年度にまとまった費用がかかります。

7. 試算例:シドニー、シンガポール、ロサンゼルス

ここまでの数字を使った計算例です。実際の給与や店の条件を示すものではなく、予算の組み方を示すための例です。残業代、休日の割増、州税や保険料の一部は含めていません。

シドニー:482ビザの料理長1名とcook grade 3 1名

項目料理長(482)現地採用 cook grade 3
年間給与A$79,423(ビザの下限)A$58,193.20(週A$1,119.10×52週)
スーパー12%A$9,530.76A$6,983.18
年間合計A$88,953.76A$65,176.38
初年度の一時費用政府手数料A$4,765+SAF(4年間のノミネーションならA$4,800)なし

シンガポール:S Passのシェフ1名

MOMの中央値S$3,850で雇うと、年間給与はS$46,200、levyが年S$7,800(月S$650×12)で、合計S$54,000に医療保険が加わります。ただしS Passの最低給与は年齢で上がるため、年齢によってはS$3,850では足りません。

ロサンゼルス:料理長1名とコック1名

BLSのロサンゼルス都市圏のシェフ中央値$69,990に雇用主負担7.65%($5,354.24)を加えると$75,344.24です。コックは全国中央値$37,390で計算すると、7.65%($2,860.34)を加えて$40,250.34になります。コックはロサンゼルスの数字ではなく全国の数字である点に注意してください。

同じ「料理人1名」でも、国と在留資格によって年間の負担がここまで変わります。

8. 予算に入れておく余裕

なお、売上に対する人件費の比率について、海外の和食店を対象にした公的な統計は見つかりませんでした。比率から逆算するのではなく、ここで説明したように人員と単価から積み上げることをおすすめします。

本記事は一般的な情報であり、会計・税務・移民に関する助言ではありません。数値は2026年9月22日時点で各国政府の公表資料から確認したものです。試算例は計算方法を示すためのもので、実際の給与水準や費用を保証するものではありません。

出典

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