アジア・オセアニア

シンガポール出店:料理長のパスより先に現地採用を

S Passの枠は現地スタッフのCPF納付実績の3か月平均で決まるため、パス申請より先に現地採用を始める必要があります。週単位のスケジュール、小規模な出店の初年度人件費、出向と現地採用の税務・社会保険の違いを解説します。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

シンガポール出店の人材計画で最初に決まるのは、EPかS Passかという制度の中身ではなく、順序です。S Passの発給枠は現地スタッフの人数(しかも直近3か月のCPF実績の平均)で決まるため、日本人料理人のパス申請より先に、現地採用とCPFの納付実績を積んでおく必要があります。小規模な出店(料理長1人・S Pass調理師1人・現地スタッフ9人)を例に、法人設立から着任までの週単位の流れと、初年度の人件費の概算を示します。

EPの適格基準やCOMPASSの点数計算、S Passの枠とレビー、14日間の求人義務、日本側の送り出し実務そのものは、それぞれシンガポールでの採用ガイド、COMPASSと料理人、Work PermitとS Pass、公正雇用の枠組み、日本からシンガポールへの送り出しで詳しく扱っています。このページが扱うのは、出店という一度きりのプロジェクトの中で、その順序と社内の準備をどう組むかという一点です。

目次

  1. 人がパスより先:このページが扱う一点
  2. 法人設立から着任までの週単位の流れ
  3. 小規模な出店の初年度人件費(概算)
  4. 順序を間違えたときに起きること
  5. 出向者と現地採用:社会保険と税金の違い
  6. 今週やること

1. 人がパスより先:このページが扱う一点

サービス業のS Passは、雇用主全体の従業員数の10%までという枠があり、その母数は現地のシンガポール人・永住者の人数で決まります。しかもMOMは、この現地人数を直近3か月分のCPF(中央積立基金)納付実績の平均で見ています。つまり、開業したばかりで現地スタッフのCPF納付実績がまだ数か月分たまっていない会社には、S Passの枠がほとんど、あるいはまったくないということです。詳しい算式はWork PermitとS Passの記事にありますが、要点は一つです。現地採用とCPFの納付実績づくりは、日本人料理人のパス申請より前に始めておかないと間に合いません。

EPには枠の制約はありませんが、COMPASSで40点を取れる給与を設定する必要があり、料理人は学位相当の資格がないと点が取りにくいという事情があります(COMPASSの記事参照)。日本から複数人を送る出店計画では、「誰をEPで送り、誰をS Passで送り、その枠をどう現地採用で用意するか」を、法人設計の段階で決めておく必要があります。

2. 法人設立から着任までの週単位の流れ

下の週数は、開業日から逆算した計画上の目安です。ACRAでの法人登記そのものにかかる時間は案件により変わるため、公式な処理期間としてではなく、余裕を持った予定として読んでください。

開業日からの週数やること
20週前チーム構成を決める:EPで送る人数、S Passで送る人数、現地採用で埋める人数。会社の形態を決める。
18週前シンガポールで法人を設立し、法人銀行口座を開く。
16週前現地スタッフ(シンガポール人・永住者)の採用を始める。給与月額1,800シンガポールドル以上で雇用し、CPFの納付を開始する。
16〜7週前現地スタッフの給与とCPF納付を、少なくとも2〜3か月分、途切れず続ける。MOMが見る3か月平均の現地人数が、実際の人数に追いつくのを待つ期間。
14週前料理長(EP)とS Passの調理師のポジションをMyCareersFutureに14日間連続で掲載する。この間は内定を出さない。
9〜8週前CPFの実績が3か月分たまり、広告掲載期間も終えた段階で、EPとS Passを申請する。MOMはオンライン申請の多くを10営業日以内に処理・連絡するとしている。
6週前内定通知(IPA)が出る。日本側の候補者に写しを送り、日本での退職手続きに入ってもらう。
1週前来星。S Passには医療保険の加入が必要。パスの発給手続きを行う。
開業日初出勤。

合計するとおよそ20週間、5か月前後です。ボトルネックはビザの審査そのものではなく、現地スタッフのCPF納付実績が3か月分たまるまでの期間にあります。求人広告の14日間だけを見て日程を組むと、この点を見落とします。

3. 小規模な出店の初年度人件費(概算)

料理長1人(EP)、調理師1人(S Pass)、S Pass1枠に必要な現地スタッフ9人という、開業として現実的な最小構成で計算します。年齢や給与はMOMの制度上の下限に沿った一例です。

項目前提年額
料理長給与(EP、35歳、2027年基準)月9,000シンガポールドル108,000シンガポールドル
調理師給与(S Pass、30歳、2027年基準)月4,077シンガポールドル48,924シンガポールドル
S Passレビー月650シンガポールドル7,800シンガポールドル
現地スタッフ給与(9人、ローカル・クオリファイング・サラリー月1,800シンガポールドル)1人月1,800シンガポールドル×9人194,400シンガポールドル
現地スタッフの雇用主CPF拠出(17%)194,400シンガポールドル×17%33,048シンガポールドル
MOM申請料(EP 330、S Pass 205シンガポールドル)-535シンガポールドル
合計(初年度)約392,700シンガポールドル

医療保険、住居、航空券、求人媒体や仲介費用は含んでいません。この表からわかるのは、S Passの枠を満たすための現地スタッフ9人分の人件費(給与とCPFで約22.7万シンガポールドル)が、日本人調理師1人分の給与とレビー(約5.7万シンガポールドル)よりはるかに大きいということです。現地採用は「パスを通すための手続き上の頭数」ではなく、それ自体が出店予算の中心を占める本物のコストとして計画してください。給与以外の費用の考え方は海外出店時の人件費予算も参考にしてください。

4. 順序を間違えたときに起きること

ありがちな失敗は、日本人料理人を先に決め、渡航の準備を進めながら、開業直前になって現地採用とS Pass申請を同時に始めることです。この順序では、申請の時点でMOMが見る直近3か月のCPF実績がまだ積み上がっておらず、現地人数が実質ゼロかそれに近い扱いになります。結果として、S Passの枠が足りず申請が通らない、または通っても枠が1つも取れないという事態になり得ます。

このときすでに日本側の候補者は退職の意思を固めているか、実際に退職済みということが起こり得ます。開業を遅らせるか、EPで送れる人数だけに計画を絞り込むか、現地採用が追いつくまで日本人スタッフを減らして開業するか、いずれも高くつく選択です。防ぐ方法は一つで、現地採用とCPFの納付を、パスの申請より最低でも2〜3か月早く始めることです。

5. 出向者と現地採用:社会保険と税金の違い

誰を「出向」の形で送り、誰を「現地採用」として雇うかは、パスの種類(EPかS Passか)とは別の判断です。移民局はどちらの形でも同じ審査をしますが、社会保険と税金の扱いは変わります。

6. 今週やること

  1. 日本から送る人数を、EPで何人、S Passで何人と仮に決め、必要な現地スタッフの人数をWork PermitとS Passの記事の早見表で確認する。
  2. 法人設立と現地採用の開始日を、料理人の来星予定日から逆算して仮置きする。
  3. 現地スタッフの給与とCPF納付を、パス申請の少なくとも2〜3か月前から始められるよう採用計画を前倒しする。
  4. 出向にするか現地採用にするかを、料理長とS Passの調理師それぞれについて仮に決めておく。
  5. MyCareersFutureの14日間掲載の開始日を、上のスケジュールに組み込む。

変わる数字:EP・S Passの最低月給は2027年1月1日申請分から引き上げ。ローカル・クオリファイング・サラリーとCPF拠出率は毎年見直しの対象。MOMの求人広告義務(FCF)の適用条件も改定されることがあります。確認日:2026年9月27日。

よくある質問

なぜシンガポール出店では現地採用をパス申請より先に進める必要があるのですか。

S Passの枠は現地のシンガポール人・永住者の人数で決まり、MOMはその人数を直近3か月のCPF納付実績の平均で見ています。開業したばかりで現地スタッフのCPF実績がなければ、枠はほとんどありません。パス申請の2〜3か月前から現地採用とCPF納付を始めておく必要があります。

小規模な出店の初年度人件費はどのくらいですか。

料理長1人(EP)、調理師1人(S Pass)、その枠に必要な現地スタッフ9人という最小構成で、給与・レビー・CPF・申請料を合わせると初年度で約39万シンガポールドルです。医療保険や住居、航空券は別途かかります。

順序を間違えるとどうなりますか。

現地採用とCPF納付が足りないまま日本人料理人のパスを申請すると、枠が足りず通らないことがあります。すでに日本側の候補者が退職を決めていれば、開業を遅らせるか、人数を絞って開業するか、いずれも高くつく選択を迫られます。

出向と現地採用では、社会保険の扱いはどう違いますか。

EP・S Passの保有者はどちらもCPFの対象外です。日本とシンガポールの間に社会保障協定はないため、出向者を日本の健康保険・厚生年金に継続加入させるかどうかは、老後の年金記録を切らさないための会社の判断になります。

誰を出向にして、誰を現地採用にすればよいですか。

帰任させて別の拠点でも使いたい料理長は出向、その拠点に長くとどまってもらいたい調理師は現地採用という分け方が一般的です。どちらでも移民局への申請自体は変わりませんが、契約書と社内の人事制度は法人設計の段階で決めておく必要があります。

本記事は一般的な情報であり、法務・税務・入管に関する助言ではありません。基準額と手続きは2026年9月27日時点で確認したものです。個別の税務・社会保険の扱いは日本とシンガポール双方の専門家にご確認ください。

出典

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