給与・コスト

海外勤務の料理人の給与設計:手取り・為替・賞与

日本の給与水準との比較、ビザの給与基準で数えられる部分、非居住者の所得税と1年目の住民税、為替の扱い、賞与の設計までを整理。候補者ごとに使える給与構成シート付き。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 最初に決める3つのこと
  2. 比較される基準:日本国内の水準
  3. ビザの給与基準は「どの部分」で判定されるか
  4. 手取りを左右する日本側の税と社会保険
  5. 為替をどう扱うか
  6. 賞与の設計
  7. 給与構成の設計シート

海外で働く料理人の給与は、「現地の相場に合わせればよい」だけでは決まりません。料理人は日本の給与と比べ、ビザは現地の基準額と比べ、本人の生活は為替と税で変わります。この3つを同時に満たすように、給与の中身を組み立てる必要があります。

この記事では、海外の和食店や外食企業の海外事業担当者が、日本から料理人を迎えるときの給与設計を「手取り」「為替」「賞与」の3点から整理します。国別の相場は海外の寿司職人の年収、住居や渡航費は住居・渡航費の設計で扱っているので、ここでは給与の「組み立て方」に絞ります。

1. 最初に決める3つのこと

  1. 誰が雇うか。現地法人が直接雇う(現地採用)のか、日本の本社が雇ったまま海外に送る(出向・転勤)のか。税、社会保険、給与の支払い方がすべてこれで変わります。
  2. どの通貨で約束するか。現地通貨か、円か、組み合わせか。為替の変動を誰が負担するかが決まります。
  3. 何を保証し、何を変動にするか。基本給、手当、残業代、賞与、サービスチャージの分配。ビザの審査で数えられるのは多くの場合「保証された部分」です。

現地採用と出向の違いは海外赴任と現地採用の比較で詳しく扱います。以下は主に現地採用を念頭に置きつつ、出向の場合の違いにも触れます。

2. 比較される基準:日本国内の水準

日本の料理人が頭に置いている比較対象は、まず国内の給与です。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、飲食物調理従事者のきまって支給する現金給与額が月286,600円(2025年6月)、年間賞与その他特別給与額が351,600円(2024年)でした。単純計算で年収はおよそ379万円、賞与は月給の約1.2か月分にあたります。

国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査」では、宿泊業・飲食サービス業の平均給与は279万3千円で、業種別で最も低い水準です。海外の求人で示す給与は、こうした国内の水準と並べて読まれます。

ここで押さえたいのは、日本の料理人は「月給+賞与」で年収を考える習慣があることです。海外の年俸制や時給制の提示は、そのままでは比べにくく感じられます。年収と月額の両方を示すと伝わりやすくなります。

3. ビザの給与基準は「どの部分」で判定されるか

就労ビザには給与の下限を設けているものが多く、しかも国によって「どの給与で判定するか」が違います。手当や賞与を厚くして基本給を抑える設計は、ビザの基準で不利になることがあります。

国・制度公式に示されている基準設計上の注意
シンガポール Employment Pass基準額(qualifying salary)を満たすことが前提で、COMPASSの給与項目(C1)は候補者の固定月給(fixed monthly salary)で判定する。飲食など金融以外の業種の基準額は年齢により月S$5,600〜S$10,700(2027年1月からS$6,000〜S$11,500)業績連動の賞与は「固定」ではない。何が固定月給に含まれるかは人材省の案内で確認を
マレーシア Employment Pass2026年6月1日からカテゴリーは基本給のみで判定(カテゴリーIIIは月RM5,000〜9,999)住宅手当などを厚くしても基準額には数えられない
オーストラリア 482Core Skills Income Threshold は年A$79,423(2026年7月1日〜2027年6月30日)何が年収に含まれるかは内務省の定義を確認。保証されない額に頼らない
カナダ LMIA州ごとの賃金の中央値基準(例:オンタリオ州 時給C$36.92、2026年7月17日から)で高賃金枠・低賃金枠が分かれる提示する時給で手続き(広告期間、上限など)が変わる

ビザの基準を満たすかどうかは、給与設計の最初の段階で確認します。基準ぎりぎりで設計すると、為替や基準額の改定で翌年の更新時に足りなくなることがあります。シンガポールの基準額は2027年1月に上がることが決まっているので、2026年に採用する人の更新時期も見越してください。国別の詳細はシンガポールのEP・S PassマレーシアのEPオーストラリアのビザカナダのLMIAをご覧ください。

4. 手取りを左右する日本側の税と社会保険

現地の所得税や社会保険料は国ごとに違うため、本人の手取りは現地の税務当局の資料で試算してもらう必要があります。ここでは、どの国に行く場合にも共通する日本側の扱いを整理します。

所得税:1年以上の予定なら原則「非居住者」

国税庁によれば、1年以上の予定で海外で勤務する人は、滞在があらかじめ1年未満と明らかな場合を除き、原則として所得税法上の非居住者と推定されます。会社からの給与以外に所得がない人なら、非居住者が国外勤務で得た給与には原則として日本の所得税はかかりません。

日本の会社から出国する人については、居住者としての最後の給与の際に年末調整で精算します。出向の場合に注意したいのが賞与です。海外で勤務する使用人に日本で賞与を払い、その計算期間に日本での勤務期間が含まれる場合、日本勤務に対応する部分には20.42%の税率で源泉徴収が必要とされています。出国直後の賞与は、この扱いを前提に手取りを説明してください。

住民税:出国した年も前年分がかかる

総務省の説明では、個人住民税はその年の1月1日時点で住所がある人に、前年の所得をもとに課税されます。たとえば1月2日以降に出国した人は、その年度の住民税(前年の所得分)を納める必要があります。海外での1年目に日本の住民税の支払いが残ることを知らずに渡航すると、本人の家計が崩れます。出国前に本人に伝え、納付の方法を決めておきましょう。

年金・健康保険

日本と社会保障協定を結んでいる国は、2026年6月2日時点で24か国です(米国、カナダ、オーストラリア、英国、ドイツ、フランス、韓国、中国など)。シンガポール、マレーシア、香港、UAEは含まれていません。現地採用か出向か、協定の有無によって、どちらの国の制度に加入するかが変わります。海外に住む20歳以上65歳未満の日本人は国民年金に任意加入できます。詳しくは社会保障協定と料理人海外勤務者の税金で扱います。

5. 為替をどう扱うか

現地採用なら、給与は現地通貨で約束するのが基本です。現地の生活費は現地通貨でかかり、ビザの基準額も現地通貨で決まっているからです。問題は、本人が円で比べることです。

仮の数字で考えます。月給S$4,000は、1シンガポールドル=110円なら44万円、100円なら40万円です。給与は変わっていないのに、本人の感覚では「4万円下がった」ことになります。日本への仕送りや、日本のローンの返済がある人にとっては実際に痛い変化です。

設計の選択肢は次のとおりです。

方式向いている場合注意点
現地通貨のみ現地採用の標準。本人の生活の基盤が現地にある円換算は「参考値」として示し、約束しない
現地通貨+年1回の見直し条項為替の大きな変動を理由に、契約更新時に協議することをあらかじめ決めておく自動的に上げる約束にしない。「協議する」にとどめる
円建ての保証+現地手当日本法人からの出向で、日本の給与体系を維持する場合現地のビザ基準額は現地通貨で判定されるため、換算額が基準を割らないか確認

一時帰国の航空券のように円や現地通貨で金額が動くものは、「往復航空券(エコノミー)の実費」のように金額でなく中身で約束すると、為替の影響を受けません。

6. 賞与の設計

日本の料理人にとって賞与は、年収の一部として毎年あるものという感覚です。前述の統計では月給の約1.2か月分にあたります。一方、海外では賞与の慣行がない国も多く、現地スタッフとの公平性も考える必要があります。

賞与の支給時期は、日本の料理人が転職を考えるタイミングにも影響します。採用の時期は日本の採用カレンダーにまとめています。

7. 給与構成の設計シート

次の表を、候補者ごとに埋めてください。金額は例示用の空欄です。

項目金額(現地通貨)保証か変動かビザの基準に数えられるか本人への説明
基本給○○/月保証数えられる(多くの国)月額と年額を併記
固定手当(住宅など)○○/月保証国により異なる現物支給か現金かを明記
残業代実績変動通常は数えない月平均の見込み時間を示す
固定の年間手当○○/年保証国により異なる支給月を明記
業績賞与実績変動数えない前提で設計「保証なし」と明記
サービスチャージ・チップの分配実績変動数えない前提で設計厨房への分配ルールを説明
一時帰国の航空券実費保証通常は給与外年1回・往復・クラスを明記
医療保険会社負担保証通常は給与外補償範囲を説明

本人には、この表に加えて簡単な手取りの試算を渡すと、条件の比較がしやすくなります。額面、現地の所得税と社会保険料の概算(現地当局の計算ツールなどで算出)、家賃の自己負担、そして1年目に残る日本の住民税を並べ、「毎月いくら手元に残るか」を示してください。国内の求人と比べられたとき、ここまで示せる求人は多くありません。

最終的な年収の組み立て方と交渉の進め方は、英語のChef salary negotiation国際採用の予算の立て方も参考にしてください。

本記事は一般的な情報であり、税務・労務・入管に関する助言ではありません。税や社会保険の扱いは個人の状況や契約形態、各国の制度によって異なり、改正もあります。実際の給与設計は、下記の一次情報を確認のうえ、税理士・社会保険労務士・現地の専門家にご相談ください。

出典

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