給与・コスト

料理人の渡航・移住支援:何を用意し、何が法的義務か

料理人の渡航・移住支援パッケージの内訳と一般的な負担者、米国H-2B、カナダ低賃金枠LMIA、豪州482ビザ、英国スポンサー制度で義務となる費用、米国での課税の扱いを解説します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 給与額よりも渡航・移住支援が重要な理由
  2. 渡航・移住支援パッケージの内訳
  3. 国によっては法律で義務づけられているもの
  4. 税務上の扱い:確認済みの一例
  5. 3段階のパッケージ例
  6. 書面にまとめる

海外からのオファーを検討している日本の料理人にとって、給与は判断材料の半分にすぎません。残りの半分は、現地に渡って生活を始めるまでにいくらかかるかです。航空券、アパートの敷金、収入のない数週間、新しい携帯電話、そして仕事がうまくいかなかった場合に身動きが取れなくなるリスク。わかりやすい渡航・移住支援パッケージ(リロケーションパッケージ)は、こうした疑問に先回りして答えるもので、条件の似た2つのオファーのどちらを選ぶかの決め手になることも少なくありません。

本ガイドでは、パッケージによく含まれる項目を挙げ、そのうち一部の国では任意の特典ではなく法的な義務となっているものを示したうえで、3段階のパッケージ例をご提案します。

1. 給与額よりも渡航・移住支援が重要な理由

日本から移る料理人に、経済的な余裕があることはまれです。国税庁によると、2024年の宿泊業、飲食サービス業の平均給与は279万3,000円で、全業種の中で最も低く、全業種平均の478万円を大きく下回っています。数千ドルの初期費用は、現実的な障壁になりえます。この負担をなくすパッケージは、多少の昇給よりも候補者の層を大きく広げます。

定着にも影響します。着いた日から住まいが決まっていて、携帯電話がつながり、銀行口座もある料理人は、2か月目に移住を後悔する理由がそれだけ少なくなります。

2. 渡航・移住支援パッケージの内訳

項目通常の負担者備考
ビザ・許可の申請費用雇用主(法律で義務づけられている場合もある)第3章を参照。家族分の費用は、店が負担すると決めた場合のみ含めます。
移民アドバイザー・弁護士の費用雇用主いくつかの国では、雇用主がこの費用を本人に転嫁できません。
赴任時の航空券雇用主エコノミークラスが一般的。包丁や道具のため、追加の手荷物枠を見込んでおきます。
契約終了時の帰国便雇用主(義務の場合もある)雇用が早期に終了した場合も対象にします。
空港への出迎え雇用主費用はわずかで、長く記憶に残ります。
一時的な宿泊先雇用主2〜4週間が一般的。アパートを探すのに十分な期間です。
賃貸の敷金と初月の家賃雇用主、または給与から返済する前貸し前貸しにする場合は、給与控除に関する現地の規則を事前に確認します。
荷物の輸送交渉次第ほとんどの料理人はスーツケース2つで来るため、少額の手当で足りるのが一般的です。
生活立ち上げ手当雇用主携帯電話、交通系カード、寝具、厨房用の靴のための定額支給。
公的保険の適用開始までの医療保険雇用主(義務の場合もある)最初の数か月に保険の空白期間が生じることはよくあります。
語学レッスン雇用主接客のある職種では、定着のための有効な手段です。
包丁・ユニフォーム手当雇用主必要な道具を無償で支給しなければならない雇用主もあります。第3章を参照。

3. 国によっては法律で義務づけられているもの

ビザのスポンサー制度によっては、上の表の項目が義務になります。以下は、2026年9月に公的な情報源で確認した例です。すべてを網羅したものではなく、いずれも個々のビザの種類によって異なります。

米国:H-2B

連邦規則20 CFR 655.20により、H-2Bの雇用主は、労働者が雇用期間の50%を勤め上げた場合には赴任時の交通費と1日あたりの滞在費を提供または払い戻さなければならず、労働者が期間を満了した場合や早期に解雇された場合には帰国の交通費を支払わなければなりません。滞在費は最低で1日16.78ドル、領収書があれば1日178ドルまでです(2026年4月7日から適用)。雇用主はまた、ビザ、ビザ手続き、国境通過などに関する費用を最初の週に支払うか払い戻さなければならず、必要な道具、備品、機器を無償で提供しなければなりません。雇用主とその代理人は、採用にかかる費用や弁護士費用・申請費用の支払いを労働者に求めたり、受け取ったりしてはなりません。そもそもこの制度が飲食店に向いているかどうかは、H-2Bガイドで解説しています。

カナダ:低賃金枠のLMIA

カナダ雇用・社会開発省(ESDC)は、低賃金枠(low-wage stream)のポジションについて、雇用主に次のことを求めています。一時外国人労働者の往復の交通費を支払うこと、適切で手頃な住居を提供するか確保すること(手頃とは、労働者の税引き前収入の30%未満を指します)、そして該当する州では、州の医療保険が適用されるまで民間の緊急医療保険に加入させることです。これらの費用はいずれも労働者から回収できません。また、雇用主やその代わりに採用を行う者が、労働者から採用手数料を徴収したり回収したりしないことも求められています。料理人の求人が高賃金枠と低賃金枠のどちらに該当するかは、州ごとの基準額によって決まります。料理人のためのLMIA手続きをご覧ください。

オーストラリア:Skills in Demandビザ(サブクラス482)

1994年移民規則(Migration Regulations 1994)の2つの規定がパッケージに関わります。第一に、標準ビジネススポンサーは、スポンサーを受けた本人が書面で求めた場合、オーストラリアを出国するための合理的かつ必要な渡航費用を支払わなければならず、規定では請求から30日以内の支払いが求められています(規則2.80)。第二に、スポンサーは、スポンサーであることに伴う費用、ノミネーションに伴う費用、そして労働者の採用に特有の費用を、誰からも回収してはならず、回収しようとしてもなりません(規則2.87)。

給与の一部を住居で「支払う」ことを考えている場合には、落とし穴もあります。規則2.57Aでは、一般に、合意された非金銭的給付の金銭的価値を収入に算入することが認められています。しかしCore Skills枠では、非金銭的給付を除いた労働者の年収が、Core Skills所得基準額(2026年7月1日から79,423豪ドル)に達していなければなりません。住居の無償提供は歓迎されますが、基準額に届かない分を埋めることはできません。オーストラリアで日本人料理人を採用する方法をご覧ください。

英国

英国内務省(Home Office)は、雇用主がスポンサーを受ける労働者に、スポンサー証明書(certificate of sponsorship)の手数料、移民技能負担金(immigration skills charge)、または雇用主の申請に関連する費用を支払わせた場合、スポンサーライセンスが取り消されることがあるとしています。なお、料理人の海外からの新規スポンサーは現在きわめて限られています(英国で日本人料理人を採用する方法を参照)。

本人への転嫁が禁じられている費用は、給与控除や返還条項によって回収することもできません。契約書に返済条件を盛り込む前に確認してください。

4. 税務上の扱い:確認済みの一例

渡航・移住に関する給付の課税は国によって異なり、当社はすべての制度を確認したわけではありません。明確な例をひとつ挙げます。米国では、IRS(内国歳入庁)のPublication 15-B(2026年版)において、P.L. 119-21(One Big Beautiful Bill Act)により、適格な引越費用の払い戻しを従業員の所得から除外する規定が恒久的に廃止されたとされています。例外は軍と情報機関に関する限られたものだけです。実務上、料理人のために払い戻したり支払ったりした引越費用は、一般に課税対象の賃金となります。料理人が手出しをしなくて済むよう、税額分を上乗せして支払う(グロスアップする)雇用主もあります。各項目の申告方法は給与計算の委託先や会計士に確認し、他の国で採用する場合も同じ点を確認してください。

5. 3段階のパッケージ例

以下は実務上の出発点であり、市場データではありません。飲食店が一般的に何を提供しているかを公表している公的な情報源はありません。

レベル含まれるもの向いているケース
基本法律で義務づけられた項目、ビザとアドバイザーの費用、片道の航空券、空港への出迎え、2週間の一時的な宿泊先一般の調理スタッフ、ワーキングホリデーからの切り替え、予算が限られている場合
標準基本に加え、契約終了時の帰国便、4週間の宿泊先、敷金の前貸し、生活立ち上げ手当、銀行口座開設のサポートほとんどの寿司職人・板場の料理人のポジション
上級標準に加え、年1回の一時帰国の航空券、初年度の住居費補助、荷物輸送の手当、語学レッスン、家族のビザ費用料理長、おまかせカウンターの責任者、新店の立ち上げ

6. 書面にまとめる

本記事は一般的な情報であり、法律、税務、出入国に関する助言ではありません。義務の内容はビザの種類によって異なり、頻繁に変わります。オファーを出す前に、資格を持つ移民アドバイザーと税務の専門家にご確認ください。

出典

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