採用の進め方

海外の料理人採用:採用後のトラブルと予防

日本から呼んだ料理人との採用後のトラブルを整理。退職時の在留資格(米国60日、豪州180日、シンガポールのEP取消し)、カナダの違反事例、給与・労災の論点と、採用前に作る予防の仕組みを解説します。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 採用後に起きやすいトラブル
  2. 離職の多さを数字で見る
  3. 辞めたとき、在留資格はどうなるか
  4. ビザの条件を守らないと店が罰せられる
  5. 給与と労働時間のトラブル
  6. けがと労災
  7. 予防の仕組みを採用前に作る

日本から料理人を呼ぶ採用は、内定を出し、ビザが下り、本人が着任した時点で終わりではありません。むしろ海外の店では、着任後に起きるトラブルのほうが、国内の採用より深刻になりやすい面があります。本人の在留資格が店との雇用に結びついていること、生活の基盤を店が用意していることが多いこと、現地の労働法が日本と違うことが理由です。

この記事では、採用後に起きやすいトラブルを整理し、それぞれについて各国の公式情報で確認できたルールと、採用前に作っておくべき予防の仕組みを説明します。

1. 採用後に起きやすいトラブル

トラブルよくある原因店への影響
早期の退職仕事内容や待遇が聞いていた話と違う、孤立、家族の事情採用費用とビザ費用の損失、厨房の欠員
給与・残業の不満現地の残業規定の誤解、手取りの想定違い労働当局への申立て、未払い賃金の支払い
在留資格の問題ビザの条件と違う仕事をさせる、期限の管理漏れ本人の在留資格の喪失、店への罰則
住居・生活のトラブル社宅の条件、同居のストレス職場の人間関係の悪化
職場の人間関係・ハラスメント日本式の指導と現地の常識の衝突現地スタッフの離職、訴訟
けが・病気包丁、やけど、長時間労働治療費、休業中の代替要員

2. 離職の多さを数字で見る

飲食業はもともと人の出入りが多い業種です。厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、宿泊業・飲食サービス業の離職率は23.7%で、全産業の13.7%を大きく上回っています。シンガポールの人材開発省(MOM)の統計でも、飲食サービス業の平均月間離職率は2025年に2.2%と、全産業の1.2%を上回っています。

海外から呼んだ料理人に限った離職のデータは見つかりませんでしたが、辞められたときの損失は国内採用より大きくなります。ビザ費用や渡航費は戻らず、代わりの人を呼ぶにも改めてビザの手続きが必要になるからです。定着の考え方は海外で働く日本人料理人の定着策で詳しく扱っています。

3. 辞めたとき、在留資格はどうなるか

海外で雇う料理人の多くは、店での雇用を前提に在留資格を得ています。辞めたとき、または辞めさせたときに本人がどうなるかを知っておくことは、店の責任の一部です。

米国:E-2、O-1などは最長60日の猶予

連邦規則(8 CFR 214.1(l)(2))では、E-1、E-2、E-3、H-1B、L-1、O-1、TNなどの在留資格の人とその家族は、在留資格の基になった雇用が終わっても、連続60日または在留期限のいずれか短いほうまでは、それだけを理由に在留資格を失ったとはみなされません。この猶予は在留期間ごとに1回だけで、当局の裁量で短くなることもあります。また、その間は別途認められない限り働けません。H-2Bはこの規定の対象に挙がっていません。

オーストラリア:180日以内に次の雇用主か出国

内務省の案内では、482ビザの人が職を失った場合、最長180日の間に新しい雇用主を見つけるか、出国の手配をする必要があります。ビザの条件として、働けるのは原則としてスポンサーとなった事業者(または一定の関連事業体)で、ノミネートされた職種に限られます。

シンガポール:店がEPを取り消す義務

MOMの案内では、雇用主は、EP保有者が働かなくなったら、通知期間の最終日から1週間以内にEPを取り消さなければなりません。取り消しに当たって、雇用主は次のことを求められています。

EPを取り消すと、家族のパスもすべて取り消されます。本人がまだ国内にいる場合は、最長90日の短期滞在の許可(STVP)を申請できます。

4. ビザの条件を守らないと店が罰せられる

トラブルは本人との間だけで起きるわけではありません。ビザを出した国の当局は、雇用主が申請どおりに雇っているかを確認しています。

カナダ雇用・社会開発省の2026年7月9日の発表によると、2025年4月1日から2026年3月31日までの期間に、一時外国人労働者プログラム(TFWP)で検査した雇用主の12%が違反と判断されました。違反した雇用主に科された金銭的制裁は合計1,020万カナダドルを超え、前年の450万カナダドルの2倍以上になり、30の雇用主がプログラムの利用を禁止されました。制裁は1年あたり最大100万カナダドルで、一時的または永久の利用禁止もあります。

発表では、違反の例として、適切な賃金や労働条件を提供しないこと、求人で示した職種で雇用しないこと、職場での虐待から労働者を守らないこと、検査官に必要な書類を出さないことが挙げられています。料理人として呼んだ人に、人手が足りないからと長期間ホールや別の業務をさせるのは、軽い気持ちでもこの種の違反になりえます。

5. 給与と労働時間のトラブル

給与の不満は、多くの場合、金額そのものより「聞いていた話と違う」から生まれます。

契約で押さえるべき項目は料理人の雇用契約チェックリストにあります。

6. けがと労災

厨房では包丁やけど、転倒のリスクが常にあります。海外で働く日本人の場合、どの補償が使えるかは雇用の形で変わります。

派遣と現地採用の違いは海外赴任と現地採用の比較で詳しく説明しています。

7. 予防の仕組みを採用前に作る

ここまでのトラブルの多くは、採用前の準備で小さくできます。

  1. 求人票で期待値をそろえる。仕事内容、労働時間、住居、家族帯同の可否を具体的に書きます。海外求人票の書き方、家族については家族帯同の可否と各国制度を参照してください。
  2. ビザの条件を社内で共有する。本人のビザで認められている職種、雇用主、期限を、店長と料理長が知っている状態にします。
  3. 着任後90日の面談を決めておく。1か月目、3か月目に、仕事と生活の両方について話す場を設けます。試用期間の評価の進め方は試用期間の評価にまとめています。
  4. 相談の窓口を料理長以外にも置く。厨房の中の問題は、料理長には言いにくいこともあります。本社の担当者や店長など、別の窓口を用意します。ハラスメント対策は厨房のハラスメント防止方針を参照してください。
  5. 辞めるときの手順を先に決める。予告期間、帰国の航空券、社宅の退去、ビザの取り消しを誰がいつ行うかを、契約の段階で決めておきます。

本記事は一般的な情報であり、法律・移民・労務に関する助言ではありません。記載内容は2026年9月22日時点で各国政府と厚生労働省の公表情報から確認したものです。個別のトラブルについては、現地の弁護士や専門家にご相談ください。

出典

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