採用の進め方

外食企業の海外展開:人事体制の作り方

海外展開を進める外食企業向けに、その場しのぎの人事から抜け出すべき5つのサイン、人事機能そのものの体制モデル、本社と現地法人に置く機能、出向パッケージと現地採用の総コスト比較を整理しました。

最終更新 2026年9月27日 WashokuJob

2店舗目・3店舗目に迫られる前に、人事の体制を作っておいてください。まず展開の形を決め(現地の雇用主が変わるため)、本社と現地法人の機能を曖昧にせず分け、赴任の条件は料理人ごとに交渉するのではなく一度文書化し、最初の出店の時点で現地化の時期を決めます。2店舗程度までは体制がなくても回りますが、それを超えたら、たとえ兼務でも誰かが担当を持つ必要があります。

このページは、1店舗目の海外出店を終え、その場しのぎではない体制が必要になった外食企業のHR・海外事業担当者向けです。その場しのぎの海外人事から抜け出すべきサインの見分け方、規模が増えるにつれて本社と現地法人にどんな機能を置くか、出向パッケージの構成要素と現地採用との総コスト比較を扱います。1人を採用する際の流れ、国別のビザ表、日本側の書類は海外店舗の料理人採用:本社向けガイドにまとめており、ここでは繰り返しません。出向と現地採用の社会保険・税・家族の扱いの制度比較は海外赴任(在籍出向)と現地採用の比較を参照してください。

目次

  1. その場しのぎの海外人事から抜け出すべき5つのサイン
  2. 展開の形で人事の仕事は変わる
  3. 人事機能そのものの体制モデル
  4. 本社側に置く機能
  5. 現地法人側に置く機能
  6. 出向パッケージと、現地採用との総コスト比較
  7. 現地化の計画を最初から持つ
  8. 段階ごとのチェックリスト

1. その場しのぎの海外人事から抜け出すべき5つのサイン

外食企業が海外に出るとき、物件や資金、メニューの検討は早くから進みますが、人事は「最初の料理長を誰にするか」だけで始まり、そこで終わってしまいがちです。それで1店舗目は回っても、次のサインが出てきたら限界です。

  1. 赴任のたびに個別交渉になっており、2人目が1人目の条件と自分の条件を比べ始めている。
  2. 誰がどのビザで、いつ期限が来るかを、今すぐ一覧で出せる人がいない。
  3. 帰任予定の出向者に戻るポストが用意されておらず、現地で転職してしまう。
  4. 1店舗目のやり方が何も引き継がれず、2店舗目で同じ技術をゼロから教え直している。
  5. 海外勤務者の給与計算・税務上の居住区分・社会保険の扱いが、そのつど「前回どうしたか覚えている人」任せで決まっている。

3つ以上当てはまれば、店舗数にかかわらず、その場しのぎのやり方はもう限界です。

2. 展開の形で人事の仕事は変わる

直営か、合弁か、フランチャイズ・ライセンスかで、本社人事が負う範囲は大きく変わります。これは、1人の料理人を出向で送るか現地採用するかという選択(海外店舗の料理人採用:本社向けガイドで扱う論点)とは別の軸です。

展開の形現地の雇用主本社人事の主な仕事
直営(現地法人)自社の現地法人出向者の制度、現地法人の給与・評価制度の設計、現地採用の方針、帰任の管理
合弁合弁会社出向者の制度、合弁相手との人事権限の取り決め(採用・解雇・給与改定を誰が決めるか)
フランチャイズ・ライセンス現地のパートナー企業雇用はしないが、研修プログラム、技術指導の担当者の派遣、品質基準の監査の仕組みづくり

フランチャイズでは現地スタッフを直接雇いませんが、味と品質を守れるかどうかは研修と技術指導の設計にかかっています。人事の仕事がなくなるわけではなく、「雇う」から「教える仕組みを売る」に変わると考えると整理しやすくなります。

3. 人事機能そのものの体制モデル

外食企業の海外人事機能の人員規模や予算について、公的な調査やベンチマークは存在しません。以下は目安の考え方であり、確定した数字ではないため、店舗数そのものより第1章のサインを実際の判断基準にしてください。

段階誰が海外人事を担うかおおよそのコスト次の段階に移るタイミング
1店舗出店を担当する人(オーナーや事業責任者)が、業務の一つとして兼務別枠のコストなし。既存業務に含める
2〜3店舗本社の担当者1名が、赴任規程・ビザ管理・評価への反映を、明確な役割として一部の時間で担う給与1人分の一部相当。新規採用はまだ不要だが、毎月まとまった稼働時間が必要
4店舗以上専任の海外人事担当を1名置き、赴任規程・ビザ台帳・評価との連動・各店舗の現地化の進捗を担う自社の給与水準での正社員1人分程度、加えて台帳やテンプレートの整備費用。公的なベンチマークはないため、他のHQ採用と同様に予算化する

「次の段階に移るタイミング」の欄は、第1章のサインが2つ以上当てはまった時点、または最初の出向条件をそのまま繰り返せなくなった時点です。

4. 本社側に置く機能

海外店舗が数店のうちは専任の担当者を置けないことが多いものの、次の機能は誰が持つかを決めておく必要があります。

5. 現地法人側に置く機能

現地の従業員には、原則としてその国の労働法が適用されます。日本の就業規則をそのまま持ち込むことはできません。

6. 出向パッケージと、現地採用との総コスト比較

出向と現地採用のどちらを選ぶかは、社会保険・税・家族の扱いまでスキームごとに海外赴任(在籍出向)と現地採用の比較で比較しています。そちらにないのが総額の比較で、ここではその総額を出して予算会議で説明できるようにします。

出向パッケージの構成要素金額を左右するもの
日本からの基本給・賞与の継続厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査:飲食物調理従事者の平均は年約379万円だが、料理長クラスは平均より上が通常
日本の社会保険(会社負担分)日本の会社が給与の全部または一部を支払っていれば継続。料率はここでは確認しておらず、社会保険事務所に確認してください
海外勤務手当飲食業向けの公的な数字はなく、都市ごとの相場は移住・赴任支援コンサルティング会社が持っています。見積もりを取ってください
住居、一時帰国の航空券、家族関連費用通常の渡航支援と同じ考え方で見積もります。渡航支援パッケージ、家族については料理人の就労ビザに家族帯同はできるかを参照してください

これに対して、現地採用の総コストは海外からの料理人採用の総コストで国別に算出済みです。シンガポールのS Passなら初年度約S$65,400、オーストラリアの482なら約A$97,300で、いずれも給与と政府手数料込みです。上の出向のワークシートを、同じ市場のこの数字と並べれば、見出しの給与だけを比べるのではない、総額同士の比較になります。

7. 現地化の計画を最初から持つ

日本人を何人、何年置き続けるかは、コストとビザの両面から限界があります。最初の出店の段階で「何年目に、どのポジションを現地の人材に任せるか」を決めておくと、育成の投資が無駄になりません。

国によっては、現地人材の育成を制度として求めています。マレーシアでは、EPのカテゴリーIIとIIIについて、2027年1月1日から後継者育成計画(succession plan)の提出が必須になります。目的は、EP保有者の在任中に現地の従業員の技能を高めることとされています。日本人の料理長をEPで置く場合も、その下で誰をどう育てるかを示す必要が出てきます。

育成の目安には、農林水産省の「海外における日本料理の調理技能認定制度」が使えます。ブロンズ、シルバー、ゴールドの3段階があり、2026年3月31日時点の認定者は計3,976名です。「現地スタッフが何年目にどの認定を取るか」を、日本人料理長自身の目標に組み込むこともできます。制度の中身は調理技能認定制度の解説、後継者づくりは和食の厨房の後継者育成を参照してください。

8. 段階ごとのチェックリスト

農林水産省の戦略が使っている「検討期」「立上げ期」「拡大期」の区分に沿って、人事の準備を並べます。

段階人事の準備
検討期展開の形(直営・合弁・FC)の決定、出店国の就労ビザの確認、送り出し候補者の洗い出し
立上げ期海外勤務規程の作成、料理長と店長の選定、ビザ申請、現地の給与計算・労務の委託先の選定、現地スタッフの採用
1店舗目の開業後現地スタッフの研修計画、日本人の評価と帰任時期の設定、ビザ期限の管理
拡大期(2・3店舗目)兼務でも海外人事の担当者を明確にする、現地の管理職の登用、エリアを見る責任者の配置、次の店舗の人員計画

開業に向けた具体的な人員のスケジュールは海外出店の人材計画、店舗全体の人件費の見積もり方は海外出店時の人件費予算の立て方で扱っています。

変わる数字:厚生労働省の賃金構造基本統計調査(毎年春)、マレーシアの後継者育成計画の開始日(2027年1月1日)、農林水産省の認定者数(認定のたびに更新)。2026年9月27日確認。

よくある質問

海外人事の専任担当はいつ置くべきですか。

公的な基準はありませんが、第1章のサイン(赴任ごとの個別交渉、ビザ台帳がない、帰任者に戻るポストがない)が3つ以上当てはまることが実務上の目安で、目安の店舗数としては2〜3店舗のことが多いです。

「海外店舗の料理人採用:本社向けガイド」との違いは何ですか。

あちらは1人の採用が対象で、ビザのルート、日本側の書類、日本との給与差を扱います。このページは複数店舗にまたがる体制が対象で、専任の人事をいつ置くか、本社と現地法人にどう機能を分けるか、出向パッケージの総コストを扱います。

出向パッケージは現地採用よりどのくらいコストがかかりますか。

日本側の給与は平均で年約379万円(厚生労働省。料理長クラスはこれより高いのが通常)に、継続する日本の社会保険と、公的な数字がなく見積もりが必要な海外勤務手当が加わります。この総額を、海外からの料理人採用の総コストページにある現地採用の国別コストと比べてください。

マレーシアの後継者育成計画のルールは何を意味しますか。

2027年1月1日から、EPのカテゴリーIIとIIIには現地スタッフの技能向上のための後継者育成計画が必須になります。日本人料理長をEPで置いているなら、今のうちから育成の記録を目標に組み込んでください。

海外に送る人のビザ管理は誰が持つべきですか。

各店舗ではなく本社が、すべての赴任をまとめた一つの台帳として持つべきです。ビザは雇用主と職務に結びついているため、昇格や異動が新たな手続きを必要とすることがあり、一元管理でないと見落としやすくなります。

本記事は一般的な情報であり、法律・税務・労務に関する助言ではありません。制度の内容は2026年9月27日時点で農林水産省、厚生労働省などの公表資料から確認したものです。個別の判断は専門家にご相談ください。

出典

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