採用の進め方

外食企業の海外展開と人事体制の作り方

海外展開を進める外食企業向けに、直営・合弁・FCで変わる人事の仕事、本社と現地法人に置く機能、出向者の労災・税の扱い、現地化の計画、段階別のチェックリストを整理しました。

最終更新 2026年9月22日 WashokuJob

目次

  1. 国の目標と外食の海外展開
  2. 展開の形で人事の仕事は変わる
  3. 本社側に置く機能
  4. 現地法人側に置く機能
  5. 日本から送る人の制度
  6. 現地化の計画を最初から持つ
  7. 段階ごとのチェックリスト

外食企業が海外に出るとき、物件、資金、メニューの検討は早くから進みますが、人事の体制は「最初の料理長を誰にするか」だけで始まってしまうことがよくあります。1店舗目はそれで回っても、2店舗目、3店舗目で、評価、給与、帰任、現地スタッフの育成が一気に問題になります。

この記事は、外食企業で海外展開を担当する方に向けて、本社と現地法人のそれぞれにどんな人事機能を置くか、日本から送る人の制度をどう整えるかを、公的な資料で確認できる範囲の制度と合わせて整理します。

1. 国の目標と外食の海外展開

農林水産省の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(2025年5月改訂)は、食品産業の海外展開による収益額を2022年の1.6兆円から、2030年に3兆円にする目標を掲げています。この収益額には、食品製造業や卸・小売業とともに外食産業の海外展開も含まれます。

同じ戦略は、海外展開の収益を伸ばすには対外直接投資の収益に加えてロイヤルティ収入を増やすことが重要だとし、中小事業者も含めた外食産業のフランチャイズ展開を後押しする方針を示しています。支援策としては、進出の検討期から拡大期までの段階に応じて、次のようなものが挙げられています。

こうした支援は制度や法務が中心で、店で働く人をどう確保し、どう育てるかは、各社が自前で設計する部分です。

2. 展開の形で人事の仕事は変わる

直営か、合弁か、フランチャイズ・ライセンスかで、本社の人事が負う範囲は大きく変わります。

展開の形現地の雇用主本社人事の主な仕事
直営(現地法人)自社の現地法人出向者の制度、現地法人の給与・評価制度の設計、現地採用の方針、帰任の管理
合弁合弁会社出向者の制度、合弁相手との人事権限の取り決め(採用・解雇・給与改定を誰が決めるか)
フランチャイズ・ライセンス現地のパートナー企業雇用はしないが、研修プログラム、技術指導の担当者の派遣、品質基準の監査の仕組みづくり

フランチャイズでは現地のスタッフを直接雇いませんが、味と品質を守れるかどうかは、研修と技術指導の設計にかかっています。人事の仕事がなくなるわけではなく、「雇う」から「教える仕組みを売る」に変わると考えると整理しやすくなります。

3. 本社側に置く機能

海外店舗が数店のうちは専任の担当者を置けないことが多いものの、次の機能は誰が持つかを決めておく必要があります。

4. 現地法人側に置く機能

現地の従業員には、原則としてその国の労働法が適用されます。日本の就業規則をそのまま持ち込むことはできません。

5. 日本から送る人の制度

日本から送る料理人や店長を、在籍出向で送るのか、現地法人で直接雇うのかによって、日本側の制度の扱いが分かれます。ここでは人事体制を作るうえで押さえておきたい3点に絞ります。詳しい比較は海外赴任(在籍出向)と現地採用の比較を参照してください。

労災保険の特別加入

厚生労働省の「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」によると、国内の事業から海外の事業に派遣される人は、労災保険に特別加入できます。一方で、現地採用の人は国内の事業からの派遣ではないため、特別加入できません。また、国内の事業場に所属したまま一時的に海外で働く「海外出張」は、特別な手続きなしに国内の労災保険の対象になり、どちらに当たるかは勤務の実態で判断されます。

所得税の居住者・非居住者

国税庁の質疑応答事例では、1年以上の予定で海外勤務に出た人は出国の時から非居住者として扱われ、1年未満の予定なら出国時は居住者として扱われます。予定が変わった場合は、変わったことが明らかになった日から扱いが変わり、さかのぼって変わることはありません。赴任期間の見込みは、辞令の段階で決めておく必要があります。

社会保険

在籍出向で日本の社会保険を続けるか、現地の制度に入るかは、社会保障協定の有無で変わります。料理人に関わる論点は社会保障協定と料理人にまとめています。

6. 現地化の計画を最初から持つ

日本人を何人、何年置き続けるかは、コストとビザの両面から限界があります。最初の出店の段階で「何年目に、どのポジションを現地の人材に任せるか」を決めておくと、育成の投資が無駄になりません。

国によっては、現地人材の育成を制度として求めています。マレーシアでは、EPのカテゴリーIIとIIIについて、2027年1月1日から後継者育成計画(succession plan)の提出が必須になります。目的は、EP保有者の在任中に現地の従業員の技能を高めることとされています。日本人の料理長をEPで置く場合も、その下で誰をどう育てるかを示す必要が出てきます。

育成の目安には、農林水産省の「海外における日本料理の調理技能認定制度」が使えます。ブロンズ、シルバー、ゴールドの3段階があり、2026年3月31日時点の認定者は計3,976名です。「現地スタッフが何年目にどの認定を取るか」を、日本人料理長の目標に組み込むこともできます。制度の中身は調理技能認定制度の解説、後継者づくりは和食の厨房の後継者育成を参照してください。

7. 段階ごとのチェックリスト

農林水産省の戦略が使っている「検討期」「立上げ期」「拡大期」の区分に沿って、人事の準備を並べます。

段階人事の準備
検討期展開の形(直営・合弁・FC)の決定、出店国の就労ビザの確認、送り出し候補者の洗い出し
立上げ期海外勤務規程の作成、料理長と店長の選定、ビザ申請、現地の給与計算・労務の委託先の選定、現地スタッフの採用
1店舗目の開業後現地スタッフの研修計画、日本人の評価と帰任時期の設定、ビザ期限の管理
拡大期現地の管理職の登用、エリアを見る責任者の配置、2店舗目の人員計画

開業に向けた具体的な人員のスケジュールは海外出店の人材計画、人件費の見積もり方は海外出店時の人件費予算の立て方で扱っています。

本記事は一般的な情報であり、法律・税務・労務に関する助言ではありません。制度の内容は2026年9月22日時点で農林水産省、厚生労働省、国税庁などの公表資料から確認したものです。個別の判断は専門家にご相談ください。

出典

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